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プロローグ
公子は妹に成り代わる
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僕が身代わりを務めるつ告げた瞬間、父は猛反対した。
そんな父を宥め、妹の名誉を守る方法が他にないこと繰り返し説くと、渋々であったが最後は父が折れる形で、説得に応じてくれた。
「ローゼは私にとって大切は娘だが、ジーク…きみも同じくらい大切なんだよ。だから慎重に動いておくれ」
「分かってます、父上。無理はしませんから、安心して下さい」
父の言葉は、僕たち兄妹を思う気持ちに溢れていた。僕は心配を掛けまいと表情を引き締め、重々しく頷いて返した。
父が諦めたように笑うと、そこから事が進むのは早かった。
僕が妹になり代わる事実を知るのは、僕と父、そして父の従者を務めているカルロッソ。あとは、妹がいつも側に置いている侍女のヴィオレッタとダリアの二人。そして僕の従者で乳母の息子であるマグリットだけに絞られた。
妹の捜索に関しては、金を積めば口を割らない者を選んで、依頼することになった。
父と従者のカルロッソが様々な手配をする間に、僕は妹の部屋へと向かっていった。
従女であるダリアが扉を開くと、主を失い静まり返った室内に踏み入り、辺りを見渡す。
執務机に置かれた花瓶が目に留まると、そこには淡いピンクの薔薇が侘びしく、立ち枯れていた。
妹がいつも大切にしていた、亡くなった母が愛していた花だ。
この薔薇のように、妹が朽ちてしまっているのではないか、そんな嫌な予感が胸を過る。
「ジークヴァルト様…、…」
気遣うヴィオレッタの方を振り返ると、僕はあえて胸を張って見せた。
「大丈夫だ、始めよう」
「はい!」
ヴィオレッタと並んで立っていたダリアが快活に応えると、妹の衣装室に走っていく。
その間にヴィオレッタの手によって、僕の着衣は脱がされていった。
代わりに、妹の気に入っていたドレスが、僕の身体を包み込んでいく。
背中の釦が止められ、繊細なレースが首からデコルテまでを覆い、胸元から菫色のシルク生地へと切り替わる。胸の下で一度絞られてから続くスカートは、オーガンジーが重ねられ、柔らかく広がっていた。
二人の手によって施される化粧が、さらに華やかさを添える。
全ての準備が終わり、姿見の前に立たされると、そこには確かに妹がいた。
「今日から僕が、ローゼリンドだ」
僕に元の姿に戻る日は、妹が帰ってくるときだけだと。覚悟を決めて、呟いた。
そんな父を宥め、妹の名誉を守る方法が他にないこと繰り返し説くと、渋々であったが最後は父が折れる形で、説得に応じてくれた。
「ローゼは私にとって大切は娘だが、ジーク…きみも同じくらい大切なんだよ。だから慎重に動いておくれ」
「分かってます、父上。無理はしませんから、安心して下さい」
父の言葉は、僕たち兄妹を思う気持ちに溢れていた。僕は心配を掛けまいと表情を引き締め、重々しく頷いて返した。
父が諦めたように笑うと、そこから事が進むのは早かった。
僕が妹になり代わる事実を知るのは、僕と父、そして父の従者を務めているカルロッソ。あとは、妹がいつも側に置いている侍女のヴィオレッタとダリアの二人。そして僕の従者で乳母の息子であるマグリットだけに絞られた。
妹の捜索に関しては、金を積めば口を割らない者を選んで、依頼することになった。
父と従者のカルロッソが様々な手配をする間に、僕は妹の部屋へと向かっていった。
従女であるダリアが扉を開くと、主を失い静まり返った室内に踏み入り、辺りを見渡す。
執務机に置かれた花瓶が目に留まると、そこには淡いピンクの薔薇が侘びしく、立ち枯れていた。
妹がいつも大切にしていた、亡くなった母が愛していた花だ。
この薔薇のように、妹が朽ちてしまっているのではないか、そんな嫌な予感が胸を過る。
「ジークヴァルト様…、…」
気遣うヴィオレッタの方を振り返ると、僕はあえて胸を張って見せた。
「大丈夫だ、始めよう」
「はい!」
ヴィオレッタと並んで立っていたダリアが快活に応えると、妹の衣装室に走っていく。
その間にヴィオレッタの手によって、僕の着衣は脱がされていった。
代わりに、妹の気に入っていたドレスが、僕の身体を包み込んでいく。
背中の釦が止められ、繊細なレースが首からデコルテまでを覆い、胸元から菫色のシルク生地へと切り替わる。胸の下で一度絞られてから続くスカートは、オーガンジーが重ねられ、柔らかく広がっていた。
二人の手によって施される化粧が、さらに華やかさを添える。
全ての準備が終わり、姿見の前に立たされると、そこには確かに妹がいた。
「今日から僕が、ローゼリンドだ」
僕に元の姿に戻る日は、妹が帰ってくるときだけだと。覚悟を決めて、呟いた。
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