上 下
2 / 62
プロローグ

公子は妹に成り代わる

しおりを挟む
僕が身代わりを務めるつ告げた瞬間、父は猛反対した。
そんな父を宥め、妹の名誉を守る方法が他にないこと繰り返し説くと、渋々であったが最後は父が折れる形で、説得に応じてくれた。

「ローゼは私にとって大切は娘だが、ジーク…きみも同じくらい大切なんだよ。だから慎重に動いておくれ」
「分かってます、父上。無理はしませんから、安心して下さい」

父の言葉は、僕たち兄妹を思う気持ちに溢れていた。僕は心配を掛けまいと表情を引き締め、重々しく頷いて返した。
父が諦めたように笑うと、そこから事が進むのは早かった。
僕が妹になり代わる事実を知るのは、僕と父、そして父の従者を務めているカルロッソ。あとは、妹がいつも側に置いている侍女のヴィオレッタとダリアの二人。そして僕の従者で乳母の息子であるマグリットだけに絞られた。
妹の捜索に関しては、金を積めば口を割らない者を選んで、依頼することになった。

父と従者のカルロッソが様々な手配をする間に、僕は妹の部屋へと向かっていった。
従女であるダリアが扉を開くと、主を失い静まり返った室内に踏み入り、辺りを見渡す。
執務机に置かれた花瓶が目に留まると、そこには淡いピンクの薔薇が侘びしく、立ち枯れていた。

妹がいつも大切にしていた、亡くなった母が愛していた花だ。

この薔薇のように、妹が朽ちてしまっているのではないか、そんな嫌な予感が胸を過る。

「ジークヴァルト様…、…」 

気遣うヴィオレッタの方を振り返ると、僕はあえて胸を張って見せた。

「大丈夫だ、始めよう」
「はい!」

ヴィオレッタと並んで立っていたダリアが快活に応えると、妹の衣装室に走っていく。
その間にヴィオレッタの手によって、僕の着衣は脱がされていった。
代わりに、妹の気に入っていたドレスが、僕の身体を包み込んでいく。
背中の釦が止められ、繊細なレースが首からデコルテまでを覆い、胸元から菫色のシルク生地へと切り替わる。胸の下で一度絞られてから続くスカートは、オーガンジーが重ねられ、柔らかく広がっていた。
二人の手によって施される化粧が、さらに華やかさを添える。
全ての準備が終わり、姿見の前に立たされると、そこには確かに妹がいた。

「今日から僕が、ローゼリンドだ」

僕に元の姿に戻る日は、妹が帰ってくるときだけだと。覚悟を決めて、呟いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

処理中です...