婚約破棄3秒前→5秒後結婚物語

豊口楽々亭

文字の大きさ
上 下
12 / 19

ハッピーデイズ①【side『私』】

しおりを挟む
────まぶしっ…い

『私』が最初に感じたのは、真っ白い光が目を焼く感覚だった。
思わず片手を持ち上げようとしたのに、手足がいうことを聞かない。
変わりに、『私』のものより小さな手が眼前に翳された。
紅葉みたいな大きさの、柔らかそうな手。
それから泣き声が聞こえる。

「あらあら、アステリオス様。目が覚めてしまったのですね」

そう言って、まだうら若い上品な女性が『私』の身体を抱き上げてくれた。

────え…?

音がある。
光がある。
声がある。
体温がある。

『私』は久々の感覚に、泣き出した。
手足は自由には動かないけど。何もないより、100倍マシだ。
ひとしきり喜びを噛み締めてから、状況を把握しようと周囲に意識を張り巡らせて、日々を過ごした。
もう二度と、地獄よりも恐ろしい場所に戻るのは嫌だったから、この世界にかじりついてでも生きようと思って、必死だった。

そして分かったことは、『私』が憑依…というか、居候させてもらっている身体の持ち主は、皇子様らしいということだ。

名前はアステリオス。
結構不吉な名前だよね。

基本的にこの身体は『私』の自由にはならなくて、会話もできない。
何度か頭の中でアステリオスに話掛けてみたけど、微妙な反応が1割、無視が9割ぐらいだったから、話せないって考えた方が無難だと思った。

それでも、アステリオスが触れたもの、食べたものは『私』に共有されるから、楽しかった。
大人の『私』に離乳食は結構きつかったけど、美味しく食べてるアステリオスの声を聞いて、周囲の大人の反応を見ていると、幸せな気持ちにもなれた。

食事が徐々に変わっていって。
四足から二足へと成長し。
鏡の前に立つ頃に、ようやく『私』はアステリオスの姿を見ることになる。

────驚きの美形だわ、これ…ヤバいじゃん。将来は傾国美青年だよ、アステリオス

どこまでも透き通るような蒼い瞳。絹を思わせる肌。
鼻も唇もまだ成長過程だけど、完璧な位置にある。
髪は金糸みたいにさらさらと輝いて、光に透けるみたいだった。

そんな彼の元に、今日婚約者が来るというのだ。
心に住み着く保護者として、見極めてやらねばなるまい。と思った。
そして、そこに現れたユーノ・アルカソックの姿を見た瞬間、『私』は気付いてしまった。

────めちゃくちゃ萌え、マジ可愛い、推せる

って事実と。
アステリオスとユーノは私が前にやっていたゲーム、『恋スタ』の最推しカップルだってことに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

お飾り王妃の愛と献身

石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。 けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。 ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。 国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活

ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。 「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」 そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢! そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。 「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」 しかも相手は名門貴族の旦那様。 「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。 ◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用! ◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化! ◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!? 「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」 そんな中、旦那様から突然の告白―― 「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」 えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!? 「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、 「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。 お互いの本当の気持ちに気づいたとき、 気づけば 最強夫婦 になっていました――! のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。 元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。

四季
恋愛
明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。

【完結】可愛いのは誰?

ここ
恋愛
公爵令嬢の私、アリドレア・サイド。王太子妃候補とも言われますが、王太子には愛する人がいますわ。お飾りの王太子妃にはなりたくないのですが、高い身分が邪魔をして、果たして望むように生きられるのでしょうか?

処理中です...