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第一章
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室内に入り、私は言葉を失った。
床に散らばったドレス、シンクにたまった洗い物、机の大半を占領しているメイク道具…。
トレミエのものと思われるのは隅っこに追いやられているクマのぬいぐるみだけ。
はっきり言って最悪だ。
「ふん、早くお菓子とやらを出しな。」
部屋の光景に呆気に取られていた間に、ヘルネは皿とマグカップの準備を済ませていた。
もちろん一人分だけ。
私は湧き上がる殺意をなんとか押し殺し、昼間買ったパイを取り出した。
本当はトレミエにサプライズとして渡す予定だったものをこいつに食われるのか。毒でも盛っとけば良かった。
「はー、ったく、甘いもんでも食ってなきゃやってらんないね!」
ヘルネはパイを切り取って行儀悪くフォークをぶっ刺した。
「なんでこんなガキの為にアタシが来なきゃならないんだよってんだ。」
「でも、毎日は来てないんですよね?」
「来るわけないだろ!週一でもこりごりだよ!こんな村にいたら、アタシまで具合悪くなっちまう。」
こいつ、乳母とか絶対に嘘だろ。
⸺もしかして、トレミエを監視しに来てる?
詳しい事情がわからず謎は増えるばかりだ。
ふと視界の端に小さな手がうつった。
トレミエがパイを食べようと手を伸ばしたようだ。
「あ、トレミエ。お皿持ってくるから⸺…」
バチンッ!!
待ってて、その言葉は音にならずに消えた。
あまりの衝撃で頭が追いつかない。
「何勝手な事してんだいこの乞食がぁ!!」
叩かれたトレミエの手の甲が赤く腫れ上がっている。ぎゅっと唇を噛み耐えていたが、宝石のような瞳から大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちた。
ブチッ
ああ、もうだめだ。我慢できない。
私はゆっくりと机に近づいていく。
「……おい。」
ヘルネは何だというようにこっちを見る。
私は怒りで拳を震わせながら、慈悲など一切ない目で睨み返した。
「ふざけんなゴラァァァ!!!」
そんなにパイが好きならこいつで死なせてやるよ。
気づけば二ピース分減っているパイを左手で鷲掴み、ヘルネの顔めがけて投げつけた。
いや、投げつけようとした。
「……っ………!!」
トレミエの息を吐くような声が聞こえた。はー、はーと必死に伝えようとしている。
私は顔面に直撃させようと思っていたパイを若干左にずらし手から離した。
ドゴォッ!!
ヘルネの顔真横を通過したパイはそのまま後ろの壁にぶち当たり大きな穴を作った。
ヘルネは何が起こったのかわからず固まっている。その頬からつー、と血が滴るのを感じて、途端に青ざめた。
「ひ、ひぃぃぃぃっっ!!!」
椅子からひっくり返って壁際に後ずさると、穴が空いていることに気づき更に見を震わせた。
「ぎゃぁぁぁ、バ、バケモノっっっ!!」
穴をくぐって一目散に逃げ出すヘルネを見つめてため息をつく。いい気味だ。
室内に静寂が訪れた。
床に散らばったドレス、シンクにたまった洗い物、机の大半を占領しているメイク道具…。
トレミエのものと思われるのは隅っこに追いやられているクマのぬいぐるみだけ。
はっきり言って最悪だ。
「ふん、早くお菓子とやらを出しな。」
部屋の光景に呆気に取られていた間に、ヘルネは皿とマグカップの準備を済ませていた。
もちろん一人分だけ。
私は湧き上がる殺意をなんとか押し殺し、昼間買ったパイを取り出した。
本当はトレミエにサプライズとして渡す予定だったものをこいつに食われるのか。毒でも盛っとけば良かった。
「はー、ったく、甘いもんでも食ってなきゃやってらんないね!」
ヘルネはパイを切り取って行儀悪くフォークをぶっ刺した。
「なんでこんなガキの為にアタシが来なきゃならないんだよってんだ。」
「でも、毎日は来てないんですよね?」
「来るわけないだろ!週一でもこりごりだよ!こんな村にいたら、アタシまで具合悪くなっちまう。」
こいつ、乳母とか絶対に嘘だろ。
⸺もしかして、トレミエを監視しに来てる?
詳しい事情がわからず謎は増えるばかりだ。
ふと視界の端に小さな手がうつった。
トレミエがパイを食べようと手を伸ばしたようだ。
「あ、トレミエ。お皿持ってくるから⸺…」
バチンッ!!
待ってて、その言葉は音にならずに消えた。
あまりの衝撃で頭が追いつかない。
「何勝手な事してんだいこの乞食がぁ!!」
叩かれたトレミエの手の甲が赤く腫れ上がっている。ぎゅっと唇を噛み耐えていたが、宝石のような瞳から大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちた。
ブチッ
ああ、もうだめだ。我慢できない。
私はゆっくりと机に近づいていく。
「……おい。」
ヘルネは何だというようにこっちを見る。
私は怒りで拳を震わせながら、慈悲など一切ない目で睨み返した。
「ふざけんなゴラァァァ!!!」
そんなにパイが好きならこいつで死なせてやるよ。
気づけば二ピース分減っているパイを左手で鷲掴み、ヘルネの顔めがけて投げつけた。
いや、投げつけようとした。
「……っ………!!」
トレミエの息を吐くような声が聞こえた。はー、はーと必死に伝えようとしている。
私は顔面に直撃させようと思っていたパイを若干左にずらし手から離した。
ドゴォッ!!
ヘルネの顔真横を通過したパイはそのまま後ろの壁にぶち当たり大きな穴を作った。
ヘルネは何が起こったのかわからず固まっている。その頬からつー、と血が滴るのを感じて、途端に青ざめた。
「ひ、ひぃぃぃぃっっ!!!」
椅子からひっくり返って壁際に後ずさると、穴が空いていることに気づき更に見を震わせた。
「ぎゃぁぁぁ、バ、バケモノっっっ!!」
穴をくぐって一目散に逃げ出すヘルネを見つめてため息をつく。いい気味だ。
室内に静寂が訪れた。
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