転移旅行のすすめ

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始まりの話

何でもない日だった

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『お疲れー。』
『ねぇ?!運営さん?!唐突に新規絵ださないで?!』
『おー、おめでとう。』
『リアタイ視聴。やっぱり今日も良かった。』
『推しの概念イヤリング見つけた!可愛くない?!』
『当落、ダメでした。』

 液晶画面を上から下へとスライドすると、瞬く間に流れる文字やら絵やらの有象無象。

「今日も怒涛の如く情報が凄いなぁ。」

 やれ漫画の新章予告の絵がでた。アニメの作画が良かった。日常にある推しに、舞台の当落。これに公式からのグッズや円盤、アプリのアップデート情報。仕事帰りのこの時間は情報更新が兎に角、多い。

 電車が最寄り駅を報せるアナウンスが流れたのを聞いた。スマートフォンのボタンを押し、手帳型カバーを閉じる。電車、改札と通り、駅を出て大きく伸びた。電車の座りっぱなしは、窮屈で仕方ない。駐輪場から自転車を受け取り、アパートを目指した。
 駅から離れた場所にあるアパート。徒歩だと時間がかかる。だけど自転車なら、そんなに時間がかからないから。むくみを取る、ついでに自転車に乗ってる。

「大体、コレで治るんだけどなぁ。」

 仕事で座りっぱなしの脚は、まだむくみ特有の痛みを訴えてくる。仕方無い、と溜め息を一つついて、アパートの階段を上る。要は、脚の筋肉を動かして静脈管を動かせばいい。自宅は2階で、階段を上ることは苦じゃ無かった。この日は新調したパンプスで、気分よく上れていたんだ。

 途中までは。

 階段を上っていると、カクッと膝が折れた。突然の事に咄嗟に目を閉じ、衝撃に備えた。体の浮遊感と落ちていく感覚。その後にお尻に衝撃が走る。

「……痛っ!」

 幼い頃なら、いず知らず。成人してから尻餅をつくとは思わなかった。久々についた餅は、骨に響いて痛かった。

「はぁ、嫌に」

 なる。そう続く筈だったけど、言えなかった。目を開けたら、日中で草木が生い茂った見知らぬ場所だなんて、どこの小説だ。

「……っ!!」

 声なんて出なかった。口をぱくぱくして、息が抜ける音しか出せない。立ち上がろうにも膝が笑って立ち上がれない。え、何?どういうこと。


ピコンッ

 突然に起きたことに、状況が整理出来ないでいる。その中で軽快な音と共に水色の枠が、目の前に現れた。液晶に映し出されたメールボックスの様なのが、浮いている。

「リョウコ様
 おめでとうございます。
 厳正なる抽選の結果、貴女が今回の対象者に選ばれました。 対象者である貴女には、いくつかの世界へと渡っていただき、そこで過ごしてもらいます。滞在時間は、世界によって異なるので何とも言えません。」

 抽選?対象者?一体なんのことだ。何かに応募した覚えは無いし応募したからと言って、こんな不思議現象が現実におきるはずがない。

「世界を渡るにあたり、衣食住の保証はさせて頂きます。分からないことがあれば、同行させます問い合わせシステムにお聞きください。では良い旅を。」 

 そう表示された後、ロゴが表示された。

「世界観光社 トリップツアーズ。」

 思わずロゴを読み上げると、ブォンという機械音と共に画面が強く光りだした。その眩しさから、とっさに目を瞑る。しばらくして肩を叩かれ、名前を呼ばれて恐る恐る目を開けた。
 目の前には私と同じ年位か、少し若い男性がいた。スーツ姿であるが堅苦しい印象は無く。好青年、優男、爽やか、なんて形容詞が頭を過る。

「リョウコ様ですね。今回、同行させて頂きます問い合わせシステムです。問い合わせでも、システムでもお好きにお呼びください。」
「……はぁ。」

 気の抜けた返事なのは、このあり得ない状況と好青年で呆気にとられたからだ。

「えぇ。大変驚いたことでしょう。皆さん初めは同じ様な反応されます。」

 そう言って穏やかに笑う、彼の周りにキラキラとした星の粉が見える。
 そして慣れたように私の見やすい位置に、メールボックスを移動する。彼が触れるとメールボックスの代わりに、会議等で使われるスライドが表示された。

「まず我ら世界観光社がお届けする。トリップツアーズについて説明させていただきます。」

その言葉と共に彼は、『トリップツアーズ試験運用について。』というスライドをめくった。

「弊社はこれまで、沢山のお客様に旅行の提案をしてきました。皆様からの評価も良く、大変嬉しい限りです。」

 そうして開始された唐突なプレゼン。会社の概要から、今回の試験運用の流れについて書かれていた。

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