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赤ん坊

可愛くメイキングして近寄ろう

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 ゴードンは、舎弟4人を引き連れ、円形都市・ヴィリキーの上空に到着した。
 眼下には、密集した家々と河川、聳える城がある。
 
「さて、どうやって大魔王様をお守りするかを説明したが、お前ら理解したか?」

「「「はっ!!」」」

 3体のガーゴイルを区別するため、名前をつけてやった。
 眼が赤いガーゴイルをレッド、尻が青いブルー、頭髪が黄色いイエローだ。
 みんな、我のセンスの良さに感動している。

「よし、レッドから順番に改造してゆく」

 まずは基本中の基本だ。
 大魔王様のお側にいるには、人間どもから排除されない必要がある。
 魔物だと思われず、人間どもから好かれる外見。
 特に、大魔王様の両親に好感を持ってもらう。

 魔物はどいつも大きくて顔が怖い。
 縮小魔法で子犬サイズにする。

 さっそく実施したところ、身体は小さくなったが、顔は醜くなった。
 怖い顔から醜く変貌。
 ブルドックのよう。
 まあ、見れなくもないか。
 残った背から生える翼に縮小魔法をかけ目立たなくした。

「ブサ可愛い犬で、イケるんじゃないか?」

「ですよねー」

 残りのガーゴイルも、同じ手法でブサカワ犬にして、大魔王様がおわす病院付近に降ろした。

『よいか、たった今から声を出しての会話は厳禁だ。
思念テレパシーで語れ。いいな』

「わん!」

『ま、まあ、犬ぽく鳴くのは許可しよう。
 だが、基本は思念だ』

「わんわん!」

『おい! まさかとは思うが、お前ら、思念できない?』

「わんわんわん!!」

『やれやれ。
 これだから人間界生まれの魔物は役に立たない。
 なあ、デンダラー君。そう思うだろ』

「はは…………、同感です」

『ん? なに、お前もできないとか、やめろよ冗談は』

 できなかった。
 かりにも大魔界で生まれた下位魔物リザードバードもダメだとは。
 うーん。有能な部下は人間界に存在しないのだろうか。

 デンダラー君の身体も小さくする。
 大イグアナみたくなった。
 
『いまいち、だな。人間には好かれない』

 もっと縮小してゆくと、トカゲになった。二足歩行もできるミニトカゲ。
 飛行できる翼は、たたんで目立たなく。

『病院の窓にでも、張り付いとこうか』

 
 ◆


 デビルドラゴンは人間の子供くらいの大きさでも、恐竜プテラノドンに似ているから、ちょっと怖い。
 だから、更に縮小魔法をかけた。
 人間界で黒色は不吉。
 だから黒い毛色も魔法で白に変更。

 うーむ。
 外見はコウモリに似ている。人間の手の平に収まるくらい。
 手乗り文鳥と大差ない。
 警戒され難くなったと思うが、我の能力も著しく低下している。
 身体のサイズに、能力も比例するようだ。
 魔法を解けば、3秒で30m級のデビルドラゴンに戻れる。

 よしとするか。
 ぱたぱたと病院に飛んで行き、庭先で洗濯物を干していた大魔王様の母親の肩にちょこんと止まってみた。

「まあ、かわいい~!」

 栗色の緩やかな髪が揺れ。垂れ眼の優しそうな顔がほころんだ。
 近くにいた旦那も気が付く。
 
「珍しいな、コウモリでアルビノとは」

 人間界において、幸福の象徴は『白』。 
 不吉なコウモリでも、外皮を、人間が好む白色にしたのが功を奏したようだ。

「でもコウモリらしくないわよ、この子」
「そうだな~、違うかもしれん。突然変異。レア種かな」

 手の平に乗せ、じろじろ観察。
 羽根をつままれ、内側も確認。

「逃げないわね。嫌がりもしない」
「誰かに飼われていたのか」
「そうみたい。大人しいし、あ、見てみてあなた、顔を横に振っているわ。
 違うって言っているみたい。言葉が分かるのかしら」
「偶然だよ、はははは」

 母親がゴードンの頭をなでなで。
 人差し指の腹で、ゴードンの喉をすりすり。
 
『きっ、気持ちイイっっ!! なにこれ、超、気持ちイイ。もっとやって!!』

「大きな眼。
 ハミルンと同じ黒い眼だわ……」
「眼の色でくよくよしてもしょうがない。
 娘が悪いわけではないんだ。神様が娘の眼を黒くした、それだけ、それだけ」

 黒眼の人間は、この地方にひとりもいない。
 人間界において、黒は不吉の象徴。
 亜人タイプの魔物の多くが黒眼であることも、トイロ夫妻を悩ませていた。

「……、…………、あなた、飼っても良い?」
「飼い主が探しているかもしれないぞ」
「だったら、それまではダメ?」
「たぶん、その白コウモリはS級種だ。貴族のペットだろう。
 俺たち庶民が飼っていると、盗みの疑いをかけられるかもしれない」
「そうよね」

 母親がしょんぼりする。

「でも、まあ、カゴに入れないのなら。
 白コウモリを拘束しない、自由に何処にでも行けるようにするのなら問題ないだろう」

「わあ~い! 大好きあなたっ!! ちゅっ」

 幸せな家庭だ。

「白ちゃん、ずっとここにいてね」

 すりすり、なでなで。

『あっ、またキタ! 気持ちイイの来たっ!! 
 た、たまらん! 超、気持ちイイ。
 もっとやって!!』

「わんわんわん!!」

『ええいっ!! 見るでない、雑魚どもっ!』

「キャイ~ン」

 
 ◆


 抵抗なく大魔王様の家庭(トイロ家)に入り込めた。 
 し、しかし、恐るべし人間の技、すりすり、なでなで。

 つい我を忘れ、すりすり、なでなでを求めてしまっていた。
 あれを食らうと、ぞくぞくと言いようのない感触に全身の鳥肌が立ち、つい身悶えてしまう。
 抗えなくなる。
 母親に近づかないよう心がけよう。

 1週間もすると、我が逃げないと夫妻は理解したようだ。
 我は白いコウモリで院内を飛び回る。

「シロちゃん、こっち来てぇ」

 ぱたぱたぱた。ぴとっ。

「コップ取ってきてぇ」

 ぱたぱたぱた。はむっ。ぱたぱたぱた。

「きゃー、私の言葉が分かっちゃうー」

 奥さんにたいそう好かれてしまった。
 オモチャとしてだが……。

 大魔王様の懐刀ふところがたなと呼ばれたこのゴードンが、人間どもに『シロちゃん♪』と犬呼ばわり。
 通常なら、この夫妻は我ら魔物の餌だ。
 それが魔物の常識。
 大魔王様の両親だから、従っているまで。
 すべて、大魔王様をお守りするためなのだからだ。

「シロちゃん、買い物行ってきてぇ~」

「……」

 すべては、大魔王様をお守りするため。
 いつか、再び、記憶が戻るそのときまで。
 我慢だ、我慢。

「白ちゃん、すべすべねえ~」

 なでなで。

『うわっ、いきなりかっ!! 
 気持ちイイ。不意のすりすり、これも超、気持ちイイ!
 たまらん!! もっともっとおぉ!!』

 外では犬が「わんわんわん」と鳴き、窓にトカゲが張り付いていた。


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