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3章

停止 その1

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 地下から、ギュ――――ンッッ、と急上昇。
 床を観音開きで突き破り、大使館1階天井手前で身体を広げ、ふわふわ落下する。 

 銀色の世界だった。
 部屋の家具、壁、床、俺を見上げるビンソン・ギイン、3姉妹、完璧レプリカンスタ5体とデーモン5体、メタリックシルバー5体が銀色の膜を通して見える。
 その薄っぺらい膜が迫ってきて、俺は包まれたよ。

『ゴア君1体目成功!』
『2体目、3体目も密着OK!』
『捕獲完了!!』
『よしっ!』

 楽しそうな子供の声がしたね。
 
 動けない。
 身動きが取れない。
 まるでヒュー・ゴアゴールに掴まれた時のよう。
 身体は硬直し、傘を広げたキノコみたいに格好悪く床に転がるしかない。

「お見事! ケブロック」

 ビンソンが拍手をした。
 遅れて隣の長女シキアキ、次女ラミアミが拍手。
 末っ子カシアシは怒り爆発寸前だね。やばいやばい。
 心話したら「なに捕まってんだ! あたしの心配よか、自分の心配しろ!」と逆ギレされたね。
 ごもっともです。

「ちょろいちょろい、あたしにかかれば、こんなもんよー、ひょうたんおじちゃん」

 ガッツポーズしたフルアーマーがゆっくり近く。鉄製マスクを釣り上げた。
 顔は女の子SSたちだね。

 ケブロック・ロハン 20歳 LV 15
 
 表示されたステータスには『ヘブンの魂』(身長半減他)補正がかかっていた。
 『ヘブンの魂』――、カシアキさんたちと同系統の付加スキルだと思う。
 この子も実験体。
 運が良いのか悪いのか、レプリカンスタに成れたビンソンの道具。

『やっぱり……、判定鏡の数値に間違いはなかったな~』

『このスライム……、SSSレアってなんだぁ? ただのスライムじゃねえのかよ。信じられね数値とスキルの数だぜ、ケブロックさん』

 もう1体が双眼鏡で俺を見ている。

『分らないよぉ。ただ、あのツェーン迷宮があるキキン国だよ、とてつもなく強いスラちゃんが湧いても不思議じゃないよー』

『言えてる』

『でも、これで終わり。
 あたしに捕まって生きた生命はないからねー』

『上がるのを待ち伏せて正解だったか』

『スキルに予知は無いから~』

 外見幼女のケブロックは、自信たっぷりに腕を振ったよ。
 すると、揺らめいていた別のメタリック人形が、電源が入ったみたいにビクッと身体を震わせ、二足歩行で俺に寄ってきた。

 意思で動かせるあたり、カシさんたちの出す人形と同じか。
 だったら、動いている今なら攻撃がヒットするはず。
 直接、本体(ケブロック)を叩くのも有りだな。

 人形が右腕を剣状にしたね。
 突き刺すか、斬るか……。

「や、やめろ――――――ッッ!!」

 突然、カシアキさんの怒号が響いた。

『落ち着いてカシさんッ!!』

『強くても、死んだら終わりだろうがッ!』

『そこ、大丈夫だって』

『嘘つけッ!』

『ほんと、何もしないのが、一番助かるから』

『馬鹿じゃねーのか!?』

 俺を助けたい気持ちはありがたい。
 ビンソンへの仕返しで俺の力を借りたいだけかもしれないけれど。

 カシさんの強い怒りが流れてきて、ドンッッ、と空気が揺れた。
 ――時空が裂けるよりも早く。
 
『痛ッ……』
  
 言ってもダメだから、くっつけた分裂個体でカシさんの身体を抓ったよ。
 黄人形は、本体(カシさん)の意思で動く。
 集中力を欠けば出ない。出せない。
 簡単簡単~。 

『んな、……な……、……んな……、なにッ胸揉んでんだぁ――ッッ!?』

『はぁええええええええええっ?? 
 うそうそ! 絶対揉んでない揉んでない、抓っただけっ!』

『嘘つけ、揉みまくったぞ――っ!』

『まくったとか、そんな! てか、胸なら好きにして良いって、さっき……、言ったじゃ――』

『とうとう、本性を表したなエロカタ』

『あ……』

 心話合戦やっている場合かっ!
 ふと、ケブロックのニヤケ顔に気づく。
 そうだった、レプリカンスタは心が読めるんだった。

『はは~ん、2人はデキてんの~、超意外~』

「「違うだろっ!!」」

 見下ろし幼女が、ニヤリと汚く笑う。

『まあ、いいよ、いいよ。最後だから。さーて、スラちゃんは核が心臓だよねー』

 分身(メタリックドール)は停止している。

『ひと思いが良い? それともゆっくり』

 命乞いして欲しいの?

『余裕だねー、スラちゃん』

『一応ね』

 じっと俺を見つめるケブロック。

『理由は訊かなくても、俺の心を読めば分かるわけね』

『ふ~ん……。
 本体は下で待機中かぁ~。頭良いな~スラちゃん』

 ビトくんの忠告だよ。
 新しいシルバードールが出現して3姉妹を拘束した。 
 
「きゃっ……う、ぐぐぐぐううぅ……うぅ……」

 3姉妹の声も封じられ、混乱で俺の心話も届かない。 

『おっとスラちゃん、アイテム収納庫は使わないでね~。デーモン召喚もだよ。膨大なスキルは全部使用禁止ね。さもないと~この3人があの世行き~♪』

 思ったより、俺の思考が流れんだなあ。

『慎重にしないと、あんたレア。レアのSSSだもんね』

 この調子だと、そろそろ、銀膜が来るかな。

『……だね。
 はい。ゆっくりと上ってきてよ』

『……』

「大人しく従わないと……」

 3姉妹の末っ子カシアシさんだけ両足が床から5センチ浮き、苦悶の顔がどんどん赤くなってゆく。
 首を絞めているのだろう。

『あたしら……は、放っといて……いいから、こいつら、ぶっ、コロシテ……』

 カシさんのかすれた声が、絞り出したような心の声が聞こえてくる。

『た、たのむ……、たのみ……ます』

「なに、ぐちゃぐちゃ心話してんだよー」

 ケブロックと4体のレプリカンスタ、そして遅れてビンソンが高笑いしたよ。

「ケブロック分かったッ! 分かったから、カシさんに呼吸をさせてくれ!」

「いいだろうよ、おい」

『はっ!』

 カシさんが紐を切った操り人形みたいに崩れ落ちた。
 咳き込み肩で呼吸をする。

「カシアキよ……お前がワシを裏切るとはな……。だが、頼みのヒジカタも、人質がいれば、手も足もだせん。ヒヒヒヒヒ」
「ビンソン様! スライム本体、上がってきます。あと5メートル」
「表面に核を移動させてねー、スラちゃん」
「核、確認しました、右眼球の下です!」
「スキル使用、変型、硬質化してみろ、今度こそカシアキの命はないぞッ」

 俺はスライム体型のまま、1階の床に身体下部をつけた。
  
「動くなよ、ヒジカタ」
「直ぐに終わるわ」

「あ~、でも……、分かんないかな~」

「ああ? なにが言いたい」

「俺のステータスが見えるんでしょ? だったら得意は……」

 ――――――ギュンッッ!!

「……は、……はぁ、……あれ?」

 突然、両目をパチクリさせたのは、ビンソン・ギイン。
 
「お……おい、ケブロック……、ヤドケンロ、……ケズン! 何処だ何処にいる!?
 返事を、返事をしろッ!!」

 見回しても隣の3姉妹だけしかいないよ。
 デーモンも、人形もいない。

「ヒ、ヒジカタ、貴様なにをやった!?」

「俺は『素早さ』が凄いよ」

「何をしたかと訊いてるんだっ!!」

「知らなくてもいいんじゃない? それより、自分の心配をしたほうがいいと思うけどねー」

 3姉妹が能面のような顔でビンソンを見る。

「騙していたなんて」
「そう、騙していたのよ」

「ちょっと待て、カシアシ、シキアキ、ラミアミ 落ち着け、とにかく落ち着け!」

「落ち着いているわ……ビンソン様」

 ビーンと宙に亀裂が走り、そこから赤、青、黄の人形が降下した。 
 人形がビンソンを取り囲む。

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