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3章
ロアロク国にて
しおりを挟むカタリヤたちを収納庫にブッ込み(約10秒)、
アンフィニ大司教さんに結界を復活してもらい(約1時間)、
それから、俺はビトくんのいるロアロク国に向かう事にしたよ。
増えた20匹のちびっ子SSたちを、どうしたのかって?
俺の店舗の3階に住まわせたね。
20匹がちょろちょろして賑やかだよ。
女の子SS、ランちゃん、スーちゃん、ミキちゃんに、食事の世話から、人間としての振る舞いまで教えてもらう事にしたね。
やっぱり子供の教育は、男の子より女の子だと思う。
「まあ、いいけど。あたちたちの妹や弟ぶんになるんだから……、でも、ヒジカタ……いつの間につくったの」
「お盛んだったのね」
「ヒトミさん凄いわ~」
女の子SSたち、俺を誤解しているんだけど。
てか、スライムの誕生の仕組みは、身をもって知っているだろうに。
「もえ、きゅん……」
「ちがうよ、手をハート形にして胸の位置だって、さっきも言ったでしょ」
「こうかな?」
「こうよ、こう! 萌え萌えきゅんきゅん♪ ほら笑顔」
「……む、むずかしい……」
「そんなことじゃ、立派な女の子になれないよ」
ランちゃんよ、誕生したばかりのSSたちに、何を教えているんだよ。
「ランちゃん、ちょっとこっちへ」
「なあに、ヒジカタ? あたち忙しいんだから」
「まずは、人間らしい振る舞いから指導してって言ったよね、俺」
「あら、女の子らしい振る舞いよ、『萌きゅん』は」
ランちゃんの趣味を押し付けているだけだと思うが。
「さーっ! 女の子たちは、もう一度最初から、萌え萌えきゅんきゅん♪」
「「「「はーい♪」」」」
うーむ……。
◆
ギュ――――ン!
と俺はロケット飛行したね。
約10秒でロアロク国ルーナ区の繁華街にいるビトくんを発見したよ。
ビトくん側の個体視点からも、上空の俺が見えたね。
ビトくんは人間化(見た目がヒジカタ)しており、串団子を食べながらキキン大使館に向かっていた。
団子の甘くてモチモチした食感が良いねえ~。
2階建て以上の家屋が密集する裏路地。
誰もいない細い路地に向かって垂直下降し、衝撃で地面を壊さないよう、途中落下傘形態になり、着地寸前で人間化(ヒジカタ)したよ。
すると、細い路地からもう一人のヒジカタがやってきたね。
向かい合うヒジカタとヒジカタ。
「か、神が……2柱?」
「はじめまして、ビトくん。俺が本体だよ」
「ほ、本当の神……」
ひざまずいたビトくんが、俺の手を両手で握ったよ。
「生涯、忠誠を誓います……」
そう言って黙祷。
「……そうか、ありがとね」
好意は素直に受けよう。
それより、ビトくんをどうする。
分裂個体に寿命があるんだよね。
核がない個体だったら、迷わず統合するけど、今はビトくんの核で機能している個体なので判断に迷うところだよ。
以前のビトくんだけ残して、俺の個体だけ取り込めれば良いが、
ビトくん本来の身体は、俺と同化した時点で、俺の個体に取り込まれ、たぶんもう存在しないだろう。
つまり俺が個体を吸収すれば、残るのはビトくんの核だけ。
野球ボールみたいな核が1つ残るだけだろうね。
ならば、個体の寿命が尽きるまで、このままにしておくべきか。
当面の問題として――。
「とにかく、ヒジカタが二人いるのは良くないなあ」
「神の姿では駄目なのですか」
「ああ」
絶対に注目される。
目立つことは避けたいよ。
「違う人間に変形してくれない、ビトくん?」
「変形……ですか」
「やってみて」
「はい、わかりました」
1分が経過したけど、ビトくんの体表がもぞもぞ起伏しているだけ。
形が安定しない粘土細工みたいな人間もどきが作られては、形を変える。
「……む、難しい……」
そうか!
変形も俺の特殊能力だった。単純な剣とか、硬質化とかだったらビトくんでも出来るけど、生物みたいな複雑な物にはなれないんだ。
「あ~、厳しいみたいだから、俺がやっておくよ」
さて、どんな男性になるかな。
記憶に残っている男性を、ビトくん側の個体でイメージしてみる。
出来上がったのは、俺が前世で知っている、10代の女子に人気の日本人歌手だったよ。
顔がロアロク国民とかけ離れているので、鼻筋をもっと通し、彫りを深くして微調整したね。
「できたよ」
「お手数をおかけして申し訳ありません」
「とりあず、キキン大使館に行ってみようか」
ビンソンの住居はそれからだね。
「ところで、ビンソンはこんな顔だから」
俺は自分の顔を、ビンソン・ギインの顔に作り変えて見せた。
「おお!!
か、神よ~~~!」
「驚いてもいいけど、よく覚えておいてね」
そうだな。
ビンソンは魚屋ヒジカタを知っている。
俺も無関係な人間のほうが良いだろうね。
適当に3秒で顔を造形して、俺たちは大使館に向かったよ。
◆
「か、神よ。
まずいです。まず過ぎます。
こ、このままでは……」(ヒソヒソ)
ビトくんと、人の往来の激しい大通りを普通に歩いているだけだけど。
「住民から強い殺気を受けていますッ。
神の変形は完璧。ごく一般的な人間になっているはずなのに、どうしてですか、神よ」(ヒソヒソ)
ビトくんが耳打ちしてくる。
「いや、俺のミスだね」(ヒソヒソ)
ロアロク女子たちにウケる顔の造形だったみたい。
ズバリ、モテ顔。
俺たちの顔が、ロアロク女子のド・ストライクだったわけね。
「なんとかしないと。
いっそ皆殺ししましようか?
神の能力の100分の1のビトくんですが、300人程度なら1分もあれば可能です」(ヒソヒソ)
「やめなさい!
殺気じゃないって」(ヒソヒソ)
「そ、そうでしょうか?!
とくに女から、おぞましい眼で見られてます」(ヒソヒソ)
ハートマークの眼だって。
「女同士で何やら思案してます」(ヒソヒソ)
うわさ話だろうね。
「我らをどう殺るのかの構想を練っていると見た。
女連中の息の荒さは尋常ではない」(ヒソヒソ)
まあ、ビトくんは人間と暮らしたことがないから、女性が憧れている表情なんか分かんないだろうねえ。
誰もいない場所で、顔を作り変えたいところだけど――、
「尾行されていますが、神よ」(ヒソヒソ)
若い女性たちがぞろぞろ付いてきてるね。
アイドルの追っかけみたい。
なんにしても、このままじゃ駄目だなあ。
「いいかい、ビトくん」(ヒソヒソ)
「はい、なんでしょう神よ」(ヒソヒソ)
「ちょっと走るけど、じっとしててね」(ヒソヒソ)
「……は、はい?」(ヒソヒソ)
足元の小石を、瞬時につくった触手で掴み、壁に向けて飛ばしたよ。
今の俺の一連の動作は、早すぎて人間には見えないよ。
飛ばした小石は轟音を響かせ、厚さ5メートルの壁に穴を開け、遥か彼方に飛んでいった。
「凄い音だった」
「なに、なにが起こったの?」
「見ろ! 壊れている壁が」
ざわつく通行人たち。
皆の視線が壁に向いた瞬間、俺はビトくんを小脇に抱えジャンプしたね。
10キロ離れた小石を飛ばした反対の壁に到着寸前で変形してブレーキ。
壁を蹴って1キロ先の竹林に着地したよ。
0.5秒足らずの出来事だったけど、
「は~~~れ~~」
ビトくんの両眼が互い違いにぐるぐる回っている。
千鳥足で5歩進んだら、腰砕けで尻もちをついてしまったよ。
「大丈夫?」
「いったい何が……、ここは神の国でしょうか……」
速度について来れなかったみたい。
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