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3章

再びヴァーチェ国へ

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 焼け焦げ煙らせるウルフが50体以上、キキンの荒れ地に横たわっていたよ。

 倒したノワンダール・ドガーム・デーモンは、電撃魔法を続けている。
 モンスターが迷宮から出続け、向かってくるから。

 野球場くらいの範囲に稲妻が複数走っていて、ランちゃんたちは巻き込まれないように上空で旋回している。

『主よ。倒して良かったのだな』

『そうなんだよ~、ありがとね』

 ドガーム・デーモンさんは思った以上に強いね。
 30レベル程度なら、何体でも倒せそう。
 たいしたもんだ。

 だけど広大なキキンを全部カバーするのは無理だろうね。
 強そうなデーモンをさらに5体召喚し、全部で6体、キキンの街を囲むよう等間隔に配置し、引き続きキキンの防波堤になってもらうよう説明する。
 
 6体ともシッポは100キロメートルもあるので、俺がキキンにいる分には困らないが、
 俺がヴァーチェに行っている間は、デーモンに働いてもらえない。
  
「みなさんにお願いがあります。
 一ヶ月間だけ、俺と契約しませんか?」

 契約すれば、距離を気にせず、俺は何処にでも行けるからね。

「一ヶ月間だけモンスターが街に入らないよう、駆除してもらうんだけど」

 返事が鈍い。
 なんだろう、何かを確認し合っている?

『大丈夫なのか、主よ』

 代表してドガーム・デーモンさんが言ったよ。

「なにが?」

 じっと俺を見下ろす巨大なデーモンたち。
 ようやく気づいた。

 俺の身体には一度に皆さんのシッポが6本も刺さる事になる。
 いや、契約すれば接続は不要だけど、6体から急激に生命値を吸い取られ、
 ――主の俺は最悪死亡。  
 そう懸念しているわけね。
 
 デーモンさんたちは、ステータス確認スキルを持っていない。
 俺の各能力値は、シッポ接続して分かる生命力値だけ。 
 俺をただの生命力が高いだけの生き物と思っているわけね。
 
「大丈夫だよ。俺はSSSレア・スライムだから」

『SSSレア?』

 再びデーモン同士が脳内会議をしている。

 デーモンは、この世界以外の異世界に多く召喚され(むしろそっちがメイン)、この世界は無知らしい。
 アンフィニ大司教の話しでは、『SSSレア』という言葉は有名らしいけど、

「SSSレア・エインシェントって知ってる?」

『……?』

 エインシェントに召喚された事がないのか、それとも、召喚されているけど、忘れているのか。

 SSレア・エインシェントは魔法を使えなかった。
 SSはSSSの子供みたいなものだから、ボスのSSSも使えない可能性が高いな。
 ステータス確認能力も無かったし……。

 もし、
 もし、SSSレア・エインシェントが地上に出てきたら――、
 SSですら、SSスライムの10倍のステータス値だったから、親のSSSは俺の10倍になるのか――、
 いや、戦闘に励んでいない俺に対し、エインシェントは迷宮のボスだ、レベルも俺(レベル24)より数段上だろう。
 
 戦っても勝ち目はないだろうね。
 できれば戦いたくないよ。

 早いとこ、大司教さんに結界を張ってもらおう。

 結界膜は、時間経過で劣化(弱体化)する。
 物理攻撃ではダメージは受けない仕様だよ。
 洞窟内部のモンスターが出たくても、例えSSSレアモンでも破壊は不可能らしいから。

 となると疑問が残るよね。
 どうして強化したばかりの結界が、消滅していたのか?
 大司教に訊けば分かるかもしれない。


 ◆


 人々は高い外壁で囲まれた内区に避難していて、外区は閑散としていたよ。
 魚屋『ヒジカタ』の従業員も急いで内区に向かわせる。

「戸締まりさえすればOK」

 どこの世界にも火事場泥棒はいる。

 一ヶ月間の契約を交わしたデーモン6体で、キキン街をガードさせているから、今のところ危険はないとは思うけど、俺らと違い人間の身体はもろいからね。

 強いキキン軍のロアン・ホーリーくん18歳(LV6)でも、生命力は35。
 キキンに住んで生命力が50超える人間を見たことがない。

 レベル30攻撃力150超えのウルフに一撃を食らうと、防具無しの民間人だと生命力30は削がれると思う。
 ゲームで残りHP1、辛うじて街に生還し、宿屋で全回復とかあるけど、
 この世界の生命力残数『1~2』は意識不明の重体レベル。『3~4』は立っているだけで精いっぱい瀕死の重傷レベル。
 だから兵はもちろん、民間人も回復ポーションをお守り袋に入れ出かけるよ。

「社長は避難しないのですか!」

「用事があってね。終わり次第行くから」

「そんな、私もお手伝いします!」
「そうですよ、社長!」
「社長より先に避難できるもんか!」

 寿司職人を目指すディードンが眼を潤ませて言うと、スタッフ全員が口を揃えたね。
 丸坊主のドルン・エレイドくんもうなずく。
 嬉しいなあ。

「ミキさまもランさまも、社長と共にするのに」
「そうだそうだ!」

 ミキさま。
 ランさま。

 2階の寿司店舗オープン前までは、外見5歳児ミキちゃん、ランちゃんを小馬鹿にしていたスタッフたちも、
 2人の卓越した寿司技術に感動し、尊敬の念を抱いてミキさま、ランさまと呼ぶ。
 決して2人の前を歩くことはないよ。
 5歳児2名を先頭に、いい大人がぞろぞろ後を続く姿は、見てて可笑しいけど、スタップたちに言っても止めないもんね。
 食事が一緒になった時も2人が食べ始めるのを見て、手を動かすし。

 憧れが強いと、こんなになっちゃうわけね。
 
「そういや、さっき避難誘導していた自衛軍のバカが、社長がモンスターだとかぬかしてました。
 クソ腹が立ったから、睨みつけてやりましたよ」

「エースさんやジンさんも人間じゃないとか、ホント馬鹿げてる」

「……、……」

 俺同様に黙りこむエースたち男SS3名。
 微妙に返事ができないんだけど。
 
 真実を知ったら、この子たちも、俺たちを避けるんだろうか。
 SSたちを化け物だと非難するんだろうか。

「きゅーきゅー」

 いつの間にかレベル2になっていた青ちゃんが弾んだよ。 

 サッカーボールサイズの青ちゃんは、人間の子供に踏まれただけで死んじゃう激弱だよ。
 製氷猫もそう、はっきり弱いと分かるモンスターは、嫌われないね。
 まず安全だし、製氷猫は冷却する事で人間に貢献するし、青ちゃんは癒し効果用のペットかな。
 
 人間に貢献するにしても、俺みたいなモンスターは歓迎されないんだよね。

「さあ、いいから、先に内区に行って行って! 命令だぞ」

 強引にスタッフを向かわせ、居なくなったのを確認してから、俺はランちゃんに事情を説明した。

『あたちも、ヴァーチェにいくの?』

 きょとんと幼い顔を強張らせるランちゃんは、アンフィニ大司教と仲が良いよ。
 いや、仲が良いというより、なんだろう、大司教さんにとってランちゃんは断れない相手だろうね。
 
『ぜひ、ついて来てね』

 ヴァーチェ国に行くといっても、のんびり旅行ではない。
 アンフィニ大司教を連れ帰り、結界を再強化してもらうわけ。
 
 俺が思いっきり飛んだら、ヴァーチェまで約3分。
 到着してから、ヒトミさんを背負い大司教を探すのにどれ位かかるかな。
 
 とにかく、人の命がかかっているから早い方が良い。
 今のところデーモン6体で守っているけど、ウルフのレベルが30までと決まったわけじゃない。
 もっと深い階層の、レベル100とかが出て来るかもしれないし、違う強いモンスターが来るかもしれない。

『うぅ~ん、あたちね……』

 ランちゃんが即断しないのは、アイテム収納庫に入らないといけないから。
 飛行はランちゃんにも出来るけど、俺みたいに高速飛行はできない。
 だから、ヒトミさんみたいにランちゃんも収納庫に入れ、到着後出して、大司教さんと交渉する。
 もちろん、キキンに戻る時も、ランちゃん、ヒトミさん、大司教さんを収納庫に入れるけど。


 ◆


 内区。
 
 大門兵の許可を受けず、俺は独断で空からキキン城内に降り、アハートさん事務所に入る。
 ランちゃんたちSSももちろん一緒にね。

 ヒトミさんとアハートさんに経緯を話したよ。

「わかりました、ヒジカタさん」

 そう言いヒトミさんがためらいもなくアイテム収納庫の投入口に飛び込んだよ。
 暗黒渦巻く丸い穴に消え、数秒後、表示一覧の最下部に、
 
 ヒトミ・イエシタ 1

 と文字が浮かぶ。

「は……入った……。本当にはいっちゃったの……」

 ランちゃんがビビる。
 俺が指先で一覧をタッチすると、ヒトミさんが実体化した。

「さあ、私と一緒に入りましょう。怖くないわよ」

「……うぅ……ん。……でも」

 ヒトミさんが近寄ると、ランちゃんは後ずさる。 

「仕方がなわねえ」

 ヒトミさんが青ちゃんを投入口へ、ポイ~♪
 
「あ……」


 青ちゃん 1


 と表示されたね。
 
「あ、青ちゃ――んッ!!
 出して出して、青ちゃんをっ!!」

 ランちゃんが大騒ぎ。
 数秒後、忽然と実体化した青ちゃんを、ランちゃんが抱きしめたよ。

「きゅー?」

 青ちゃんは、何が起きたのか、さっぱり分からないって感じ。


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