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3章
売買成立
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『これで絶対満足するわ。しなければおかしい。ありがとう、ヒジカタさん』
『い、いや……そんな……』
アハートさんが、後ろに組んでいた俺の手を解き握手をしているよ。
異種間心話(ナイショ話だね。何処でも良い、他人の身体に触れると、触れた相手と心の中で会話ができる俺だけの能力)だけど、
コツさえ掴めば、相手から一方的に俺の心へ話しかける事ができるよ。
正直、あまり嬉しいものじゃない。
むしろやめて欲しい。
今のアハートさんもそうだけど、いきなり心の中へ入って来られ、それまでの思考が吹っ飛ぶから。
言い方は悪いが《ドッキリ》に近いね。
後ろから『わっ!』と脅かされたのと変わらない。
1番嫌なのは女性に触られ、別の意味でドキドキしちゃう事も、ちゃんとアハートさんに伝わってしまう事。
女性免疫ほぼゼロの35歳おっさんの心の揺らぎがバレバレになっちゃう。
ヒトミさんが心眼で敵の心を読み取り、俺の手を握り心話で伝える――、
何度も握手している俺たちを見て、アハートさんも真似しはじめたわけ。
最初は重要な話しだけだったのに、今では小声で話せばいいことまで、わざわざ心話で伝える。
今もいたずらめいた顔のアハートさんから愉楽の感情が流れ込むから、俺の狼狽ぶりが楽しいんだろうね。
『私の思惑通りになるわ』
『よかったですね』
『でも、あの気持ち悪いうなぎを、こんな美味しくさせるなんて、凄いわ』
だらだらと心話してくるぞ。
そろそろ手を離してくれないかなあ。
『だらだらで悪かったわね。
まだ手は離さないから』
手を握ったまま、迂闊に愚痴はこぼせないんだったね。
『そうよ。だから、分かるでしょ。私の気持ちも』
不思議な事を言い出したアハートさんは、俺が気持ちを読み取ろうとする前に、手を離しニコッとしたよ。
「やっぱり、読ませてあげない」
はあ?
踵を返したアハートさんは、声を高くして皆に話し始めたよ。
「皆さん。如何でしたでしょうか?」
ざわざわする人々。
「この、うなぎの蒲焼……。
登場したのは、たった2日前です。
しかしながら、濃厚で深い味わいは外区の民に好評で、長い行列ができるほどです。
新しいキキンの名物となると思い、カタリヤさんに食べてもらいました。いかがでしたでしょうか?」
カタリヤさんに返事はない。
口に残った蒲焼きの味を思い返しているのかな。
やがて――。
「お、美味しかったわ……」
怒ったように言い捨てたよ。
「良かった。
満足してもらえたみたいで」
「……美味しかったけど……」
奥歯を噛み締め、俺を睨みつける。
「な、なにか……?」
「……お、……おかわり頂戴っ!」
あ~、
なんだ。
「それと、早く広めなさい、この蒲焼きっ!」
◆
カタリヤさんの土地を買えたよ。
だけど。
「この場所って……」
外壁建設予定地より2~5キロも奥ばかり、しかも小さなハゲ山も加わっていた。
外区の繁華街辺りは売らないとしても、建設予定地近くも売らないんだ。
「誰が全部売ると言ったかしら?
どこを売るかは、私の勝手でしょ!」
建設完了すれば、壁に囲まれた土地は地価が上がる。
どれだけ上がるかは、欲しがる人・需要度に比例するけど、とにかく、
モンスターの被害がありながら、それでも経済が活発なキキン国だから、外壁完成後は、壁内の土地は爆上昇するだろうね。
わざわざ、底値の今売る馬鹿はいないって理由(わけ)だね。
「そりゃまあ、そうだけど……」
でもなあ~。
予定地じゃない土地(ハゲ山など)を買っても使い道がないよ。
地図でも分かるように、ハゲ山から15キロ奥地は、モンスターが巣食う渓谷があり、さらにその向こうは俺の生まれた北山がそびえている。
「いえ、買わせていただきます、カタリヤさん」
意外だろ。
いいのか国王さん、黙ってて。
俺を制したアハートさんは、契約書に自分のサインをし捺印、それからキキン国の受領印を押した。
◆
持ち込んだうなぎは綺麗になくなり、満足した公人たちは城内に戻って行ったね。
芸人たちは演技を開始し、国王も客席につく。
片付けを始めた俺たちに、アハートさんが近寄る。
「お話しあります、ヒジカタさん」
そういやいつの間にか、ヒジカタさまから、ヒジカタさんに呼び方が変わったよね。
いいけど。
「はあ……、いや、俺も訊きたい事があったから」
「何故無意味な土地を買ったか――、ですね」
外壁建設予定地の購入は絶対無理だとアハートさんは言う。
「ビンソンと同じ手口を使えば別ですが……、するつもりはありません。
それで、提案しました国王に。
予定地より外の区域購入を――」
「……」
「外側は荒れ果てていて、モンスターの出現率も高く、使い道がないので売り手はいます。
なので、密かに予定地より2~10キロ先の土地をあえて購入しています」
「いや、分かるけど、なんで?」
「……非公開です。ヒジカタさん。
外壁をもう2~10キロ外側に建設します」
「……あ」
土地が確保できないなら、確保出来る場所に壁を建てるわけだね。
「父の計画を、最初から全部組み直すわけで、躊躇ったのですが」
予算計画もゼロからだ。
いや、土地を買ってから、壁の場所決めをして予算を出すわけか。
逆だね。
よく国王が賛成したなあ。
それだけ、実現したかったわけか、この計画を。
「ただし、キキン国が購入したとは明かしません。
この計画を知るのは、王と私たちだけ」
バレると、地主が警戒するからだね。
「あくまで購入者は民間業者か、他国の貴族として。購入目的も、放牧、開墾用」
土地登記も偽名で登録すれば問題ない。
(ズルだけど、まあ、これくらいはOKだよね)
あ~、そうか!
エースとハヤテが顔を変え、民間業者や他国の貴族になりすまし、地主と交渉したわけね。
「今でも、当初予定地の買い取り行為は進めています。ダミーですけど」
「なるほど。
あくまで、なかなか土地を買えない国を装っているわけね」
1ヶ月前から着々と土地購入は進んでいて、今日のカタリヤの土地を加えると8割以上完了になると言う。
「流石です」
ちょっと嬉しそうなアハートさん。
「そこで、これを見てください」
バッと広げられたキキン国の地図には、購入済みの土地が赤色で示してあった。
アハートさんが、今日契約した部分を書き加える。
起伏を意味する等高線上がほとんど、つまり山の傾斜面。
これだと万里の長城みたいな、山に建った外壁になるなあ。
「問題は、この標高3000メートルの高山です」
「カタリヤさんのハゲ山かあ」
「はい。このままでは、横断する形で壁を建てないといけない」
富士山とほぼ同じ。
手強いぞ。
「かと言ってキキンよりに迂回して建てると未購入の区域にかかり、北山側に迂回すると渓谷に入るわ」
「むむむむ……」
詰んでる。
買っちゃダメな物件じゃないの。
「そこで、ヒジカタさんにお願いがあります」
俺に何ができるだろうか。
「この山を消して欲しいのです」
「はい? はいはい?」
山って聞こえたぞ。
「……えっと……もう一度」
「良いですよ。
先ほど購入手続きを済ませた、標高3000メートルの山を1つ消して下さらない?」
「消す……」
「取り敢えず1つだけで結構ですわ」
「取り敢えずもなにも、……等高線上の土地全部を?」
「ええ、他は後からで良いので、まずはあの山を消し、さら地にして欲しいのです」
さら地って……。
そうか、だから、俺にさら地化させるつもりで、ほいほい斜面の土地を購入したんだ。
一言、欲しかったなあ。
神さまじゃないんだけど、俺。
「どうやって消すわけ?」
「魔法でパッと消せないのですか」
「いやあ~」
簡単に言うよねえ。
「丸焦げで、死ぬ寸前だった私を、ヒジカタさんが救ってくださったわ」
だからって、山を消せるかどうかは分からない。
「飛べば大気圏の突破もでき、私の肌もすべすべに」
山を消すのに関係無い能力だけど。
「どんな物でも入る四次元ポケットを持っていますし……」
どんどん関係なくなるよ。
ドラえもんは好きだけど。
「それに、美味しいうなぎの蒲焼きまで」
とりあえず、何でも言っちゃってるわけね。
「なんとかなると思うのですが……」
肩を落とし、俯いてしまったアハートさん。
「困ったわ。もう買ってしまったし」
俺の顔をチラチラ見て、大きなため息をひとつ。
「どうしたら、いいのかしら。
このままだと、標高3000メートルの山に壁を建設しないといけなくなるわ。
国家予算を大幅に越え、完了までいったい何年かかるのかしら……」
クフ王のピラミットだったかな、建設に100年以上かかったらしい。
今回はそれ以上だろう。
「う~~ん。ちょっと、試してみますか……」
「できるのですねッ!」
「いや、まだでき「ありがとうございますっ!! ヒジカタさん!!」
聞いちゃくれないのね。
まあ、できるはずないと決めつけている俺も悪いわけで、
山を消すには――。
富士山レベルの山を消し去るには――。
試しに強く念じてみると、意外にもテロップが流れはじめたよ。
~ スクロペトゥム・スペーニェレ ~
~ ルス トゥルエノ アパガル ~
~ ジャーマ・フシール・エタンドル ~
~ ブロンデー スキアー・アオスマッヘン ~
~ プロクス・クリュスタッロス・スウィッチオフ ~
・
・
・
・
一応できちゃうんだ。
凄いな俺。
可能な技名が続々流れるけど、ネーミングだけじゃ意味がさっぱり分からない。
そう思ったら、テロップが増え、1語づつ詳しい説明が始まった。
ビームや熱で焼き消す系、風や衝撃で吹き飛ばす系などいろいろあるけど、
熱でも衝撃でもない、亜空間に移動させる消去系の最強技を試してみる。
パグローム・ツアンサ・アオスマッヘン
舌噛んじゃうよ。
声に出さず、強く思うだけでも技が発動すみたい。良かったー。
地図で消す位置をよく確認してから。
「念のために聞くけど、今から山を消していいわけ?」
「はい。できれば」
「まさか人間はいないよね」
登山中の人間ごと消したら大変だよ。
「立ち入り禁止区域です。放牧もしていません。
モンスターの巣が多く、危険で誰も近寄りませんから」
「そうか、分かった」
焼台を引っ張って高い木々の陰に入り、人気がないのを確認してから、焼台を収納庫に収める。
ランちゃんには、青ちゃんを連れて店に帰るよう言ったよ。
「今から向かうのですね」
「そのつもりだけど」
「私もご一緒してもよろしいですか。
間違って違う山を消してはいけないですし」
「いいけど……どうやって」
お姫様抱っこを希望したよ。
でもジャンプ飛行は強いG(重力加速度)がかかる。
「やめたほうが良いと思う。ヒトミさんも気絶したし」
「私はヒトミさんとは違いますから」
「いやあ~、もし、アハートさんに何かあったら、ロアンくんに申し訳が立たないし」
「ロアンとは、もう何でもありません。ただの友人、いえ、同じキキン住人と言うだけですから」
ちょっと怒ってるみたい。
別れたってこと?
どんな経緯があったのか知らないけど。
「だから、はい。どうぞ! 同じ細胞を共有した私たちですので、遠慮なく」
まるでシャル・ウイ・ダンス。
俺の手を取り、密着してきたぞ。
「はあ……」
意味が分からないなあ。
『い、いや……そんな……』
アハートさんが、後ろに組んでいた俺の手を解き握手をしているよ。
異種間心話(ナイショ話だね。何処でも良い、他人の身体に触れると、触れた相手と心の中で会話ができる俺だけの能力)だけど、
コツさえ掴めば、相手から一方的に俺の心へ話しかける事ができるよ。
正直、あまり嬉しいものじゃない。
むしろやめて欲しい。
今のアハートさんもそうだけど、いきなり心の中へ入って来られ、それまでの思考が吹っ飛ぶから。
言い方は悪いが《ドッキリ》に近いね。
後ろから『わっ!』と脅かされたのと変わらない。
1番嫌なのは女性に触られ、別の意味でドキドキしちゃう事も、ちゃんとアハートさんに伝わってしまう事。
女性免疫ほぼゼロの35歳おっさんの心の揺らぎがバレバレになっちゃう。
ヒトミさんが心眼で敵の心を読み取り、俺の手を握り心話で伝える――、
何度も握手している俺たちを見て、アハートさんも真似しはじめたわけ。
最初は重要な話しだけだったのに、今では小声で話せばいいことまで、わざわざ心話で伝える。
今もいたずらめいた顔のアハートさんから愉楽の感情が流れ込むから、俺の狼狽ぶりが楽しいんだろうね。
『私の思惑通りになるわ』
『よかったですね』
『でも、あの気持ち悪いうなぎを、こんな美味しくさせるなんて、凄いわ』
だらだらと心話してくるぞ。
そろそろ手を離してくれないかなあ。
『だらだらで悪かったわね。
まだ手は離さないから』
手を握ったまま、迂闊に愚痴はこぼせないんだったね。
『そうよ。だから、分かるでしょ。私の気持ちも』
不思議な事を言い出したアハートさんは、俺が気持ちを読み取ろうとする前に、手を離しニコッとしたよ。
「やっぱり、読ませてあげない」
はあ?
踵を返したアハートさんは、声を高くして皆に話し始めたよ。
「皆さん。如何でしたでしょうか?」
ざわざわする人々。
「この、うなぎの蒲焼……。
登場したのは、たった2日前です。
しかしながら、濃厚で深い味わいは外区の民に好評で、長い行列ができるほどです。
新しいキキンの名物となると思い、カタリヤさんに食べてもらいました。いかがでしたでしょうか?」
カタリヤさんに返事はない。
口に残った蒲焼きの味を思い返しているのかな。
やがて――。
「お、美味しかったわ……」
怒ったように言い捨てたよ。
「良かった。
満足してもらえたみたいで」
「……美味しかったけど……」
奥歯を噛み締め、俺を睨みつける。
「な、なにか……?」
「……お、……おかわり頂戴っ!」
あ~、
なんだ。
「それと、早く広めなさい、この蒲焼きっ!」
◆
カタリヤさんの土地を買えたよ。
だけど。
「この場所って……」
外壁建設予定地より2~5キロも奥ばかり、しかも小さなハゲ山も加わっていた。
外区の繁華街辺りは売らないとしても、建設予定地近くも売らないんだ。
「誰が全部売ると言ったかしら?
どこを売るかは、私の勝手でしょ!」
建設完了すれば、壁に囲まれた土地は地価が上がる。
どれだけ上がるかは、欲しがる人・需要度に比例するけど、とにかく、
モンスターの被害がありながら、それでも経済が活発なキキン国だから、外壁完成後は、壁内の土地は爆上昇するだろうね。
わざわざ、底値の今売る馬鹿はいないって理由(わけ)だね。
「そりゃまあ、そうだけど……」
でもなあ~。
予定地じゃない土地(ハゲ山など)を買っても使い道がないよ。
地図でも分かるように、ハゲ山から15キロ奥地は、モンスターが巣食う渓谷があり、さらにその向こうは俺の生まれた北山がそびえている。
「いえ、買わせていただきます、カタリヤさん」
意外だろ。
いいのか国王さん、黙ってて。
俺を制したアハートさんは、契約書に自分のサインをし捺印、それからキキン国の受領印を押した。
◆
持ち込んだうなぎは綺麗になくなり、満足した公人たちは城内に戻って行ったね。
芸人たちは演技を開始し、国王も客席につく。
片付けを始めた俺たちに、アハートさんが近寄る。
「お話しあります、ヒジカタさん」
そういやいつの間にか、ヒジカタさまから、ヒジカタさんに呼び方が変わったよね。
いいけど。
「はあ……、いや、俺も訊きたい事があったから」
「何故無意味な土地を買ったか――、ですね」
外壁建設予定地の購入は絶対無理だとアハートさんは言う。
「ビンソンと同じ手口を使えば別ですが……、するつもりはありません。
それで、提案しました国王に。
予定地より外の区域購入を――」
「……」
「外側は荒れ果てていて、モンスターの出現率も高く、使い道がないので売り手はいます。
なので、密かに予定地より2~10キロ先の土地をあえて購入しています」
「いや、分かるけど、なんで?」
「……非公開です。ヒジカタさん。
外壁をもう2~10キロ外側に建設します」
「……あ」
土地が確保できないなら、確保出来る場所に壁を建てるわけだね。
「父の計画を、最初から全部組み直すわけで、躊躇ったのですが」
予算計画もゼロからだ。
いや、土地を買ってから、壁の場所決めをして予算を出すわけか。
逆だね。
よく国王が賛成したなあ。
それだけ、実現したかったわけか、この計画を。
「ただし、キキン国が購入したとは明かしません。
この計画を知るのは、王と私たちだけ」
バレると、地主が警戒するからだね。
「あくまで購入者は民間業者か、他国の貴族として。購入目的も、放牧、開墾用」
土地登記も偽名で登録すれば問題ない。
(ズルだけど、まあ、これくらいはOKだよね)
あ~、そうか!
エースとハヤテが顔を変え、民間業者や他国の貴族になりすまし、地主と交渉したわけね。
「今でも、当初予定地の買い取り行為は進めています。ダミーですけど」
「なるほど。
あくまで、なかなか土地を買えない国を装っているわけね」
1ヶ月前から着々と土地購入は進んでいて、今日のカタリヤの土地を加えると8割以上完了になると言う。
「流石です」
ちょっと嬉しそうなアハートさん。
「そこで、これを見てください」
バッと広げられたキキン国の地図には、購入済みの土地が赤色で示してあった。
アハートさんが、今日契約した部分を書き加える。
起伏を意味する等高線上がほとんど、つまり山の傾斜面。
これだと万里の長城みたいな、山に建った外壁になるなあ。
「問題は、この標高3000メートルの高山です」
「カタリヤさんのハゲ山かあ」
「はい。このままでは、横断する形で壁を建てないといけない」
富士山とほぼ同じ。
手強いぞ。
「かと言ってキキンよりに迂回して建てると未購入の区域にかかり、北山側に迂回すると渓谷に入るわ」
「むむむむ……」
詰んでる。
買っちゃダメな物件じゃないの。
「そこで、ヒジカタさんにお願いがあります」
俺に何ができるだろうか。
「この山を消して欲しいのです」
「はい? はいはい?」
山って聞こえたぞ。
「……えっと……もう一度」
「良いですよ。
先ほど購入手続きを済ませた、標高3000メートルの山を1つ消して下さらない?」
「消す……」
「取り敢えず1つだけで結構ですわ」
「取り敢えずもなにも、……等高線上の土地全部を?」
「ええ、他は後からで良いので、まずはあの山を消し、さら地にして欲しいのです」
さら地って……。
そうか、だから、俺にさら地化させるつもりで、ほいほい斜面の土地を購入したんだ。
一言、欲しかったなあ。
神さまじゃないんだけど、俺。
「どうやって消すわけ?」
「魔法でパッと消せないのですか」
「いやあ~」
簡単に言うよねえ。
「丸焦げで、死ぬ寸前だった私を、ヒジカタさんが救ってくださったわ」
だからって、山を消せるかどうかは分からない。
「飛べば大気圏の突破もでき、私の肌もすべすべに」
山を消すのに関係無い能力だけど。
「どんな物でも入る四次元ポケットを持っていますし……」
どんどん関係なくなるよ。
ドラえもんは好きだけど。
「それに、美味しいうなぎの蒲焼きまで」
とりあえず、何でも言っちゃってるわけね。
「なんとかなると思うのですが……」
肩を落とし、俯いてしまったアハートさん。
「困ったわ。もう買ってしまったし」
俺の顔をチラチラ見て、大きなため息をひとつ。
「どうしたら、いいのかしら。
このままだと、標高3000メートルの山に壁を建設しないといけなくなるわ。
国家予算を大幅に越え、完了までいったい何年かかるのかしら……」
クフ王のピラミットだったかな、建設に100年以上かかったらしい。
今回はそれ以上だろう。
「う~~ん。ちょっと、試してみますか……」
「できるのですねッ!」
「いや、まだでき「ありがとうございますっ!! ヒジカタさん!!」
聞いちゃくれないのね。
まあ、できるはずないと決めつけている俺も悪いわけで、
山を消すには――。
富士山レベルの山を消し去るには――。
試しに強く念じてみると、意外にもテロップが流れはじめたよ。
~ スクロペトゥム・スペーニェレ ~
~ ルス トゥルエノ アパガル ~
~ ジャーマ・フシール・エタンドル ~
~ ブロンデー スキアー・アオスマッヘン ~
~ プロクス・クリュスタッロス・スウィッチオフ ~
・
・
・
・
一応できちゃうんだ。
凄いな俺。
可能な技名が続々流れるけど、ネーミングだけじゃ意味がさっぱり分からない。
そう思ったら、テロップが増え、1語づつ詳しい説明が始まった。
ビームや熱で焼き消す系、風や衝撃で吹き飛ばす系などいろいろあるけど、
熱でも衝撃でもない、亜空間に移動させる消去系の最強技を試してみる。
パグローム・ツアンサ・アオスマッヘン
舌噛んじゃうよ。
声に出さず、強く思うだけでも技が発動すみたい。良かったー。
地図で消す位置をよく確認してから。
「念のために聞くけど、今から山を消していいわけ?」
「はい。できれば」
「まさか人間はいないよね」
登山中の人間ごと消したら大変だよ。
「立ち入り禁止区域です。放牧もしていません。
モンスターの巣が多く、危険で誰も近寄りませんから」
「そうか、分かった」
焼台を引っ張って高い木々の陰に入り、人気がないのを確認してから、焼台を収納庫に収める。
ランちゃんには、青ちゃんを連れて店に帰るよう言ったよ。
「今から向かうのですね」
「そのつもりだけど」
「私もご一緒してもよろしいですか。
間違って違う山を消してはいけないですし」
「いいけど……どうやって」
お姫様抱っこを希望したよ。
でもジャンプ飛行は強いG(重力加速度)がかかる。
「やめたほうが良いと思う。ヒトミさんも気絶したし」
「私はヒトミさんとは違いますから」
「いやあ~、もし、アハートさんに何かあったら、ロアンくんに申し訳が立たないし」
「ロアンとは、もう何でもありません。ただの友人、いえ、同じキキン住人と言うだけですから」
ちょっと怒ってるみたい。
別れたってこと?
どんな経緯があったのか知らないけど。
「だから、はい。どうぞ! 同じ細胞を共有した私たちですので、遠慮なく」
まるでシャル・ウイ・ダンス。
俺の手を取り、密着してきたぞ。
「はあ……」
意味が分からないなあ。
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