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2章
ボディガード
しおりを挟むアハートさんにボディガードをつけることにしたよ。
SSの中で一番強くて冷静なエースを1階から呼び寄せ、心話で事情説明した。
エースの外見年齢は18歳。
そう、外見だよ。
実質は半年前に俺から分裂した個体だから、年齢は0、5歳かな。
人間だとやっとハイハイが出来るようになった赤ちゃんくらいね。
だけど、SSレアなので各ステータス値の成長が異常に高いね。
ステータス値が高いから、0,5歳児でも、立って歩くし、会話も詰まらない。
俺を心配したり、考えたり、特に記憶力は驚異的だね。
一度見た物は、写真のように正確に覚えてしまう。
唯一の欠点は、過去の記憶がないこと。
昔はああだった、こうだった。
人間の18歳が経験するだろう恋愛だったり、親や友人とのケンカだったり、
少年期にした虫取りや、くだらない遊び、祭りや、盆踊り。
人間の姿になり、人間として生きているからこそ、
それが欠点。
それが苦しみ。
それが悩みなんだよね。
エースは一言も口に出さないけど。
他のみんなもだけど。
俺もそうだし、SSたちにも共通する。
だからSSたちが、人間を前にすると、口数が少なくなるのは知能が高く、過去が無いからだとも言えるよ。
エースをボディガードにしたのは、アハートさんを守って欲しいからだけじゃないよ。
アハートさんと行動を共にすることで、キキンの政治や組織内部のこと、膨大な知識を得て欲しいのもあるね。
「分かりました、お父さま。アハートさまを命に変えても守りますッ!」
「うん。頼むよ、エース」
「では、よろしくお願いしますッ! アハートさま!」
お辞儀したエースに、アハートさんは軽い会釈で返す。
不思議そうな、がっかりした顔をしてるね。
どうして、魚屋見習いのエースさんがボディガード?
絶対に守ると熱く語ったわりには、剣を振った事もないような一般人じゃないですか!
そう思ってるんだろうね。
危機が迫れば、エースの凄さが分かるよ。
いや、早すぎて視認できないかな。
◆
俺はアハートさんとエースを連れて内区の宿泊施設へ向かったよ。
歩くのがキツイかな、と思ったけど、アハートさんはスタスタ進んでる。
いつもの白い軍服姿じゃないよ。
アンフィニ大司教さんに貰ったキキンでは珍しい健康的な超ミニのワンピースだね。
奴隷たちに着せるためだと、上位使徒(たぶんケイジだろうねえ)が言い出し、わざわざ作らせた物らしいけど、スカート丈が短すぎて、下心見え見えなんだけど。
今もスカートから覗いた、透き通るような真っ白い脚が眩しいね。
長い黒髪も、キューティクルがツヤツヤのピカピカ。
生えたばかりだからだね。
しかし、数時間前に意識不明だった重体患者とは思えない回復ぶり。
俺の細胞、
――SSS細胞が皮膚の生成以外にも影響をもたらしている、そう思う。
北門に到着したよ。
アハートさんのキュートなスマイルだけであっさり通過しちゃった。
俺たちの通行証も確認しないの?
門番が鼻の下を伸ばしてるんだけど。
◆
「あの……ヒトミさんとコウくんの手を借りたいのですが」
宿舎に到着早々にアンフィニ大司教さんにお願いしたよ。
アハートさんのボディガードに2人も加えたいからね。
物理的攻撃のガードは戦闘経験豊富なエースだけど、
他人の心が読めるヒトミさんの『心眼』スキル。
デーモンが近くにいたら分かるコウくんの『デーモン眼』スキル。
3人がアハートさんの周囲を監視すれば安全面がぐっと上昇するよね。
3日後には、船で帰国するアンフィニ大司教さんと御一行さまたち。
ヴァーチェへ到着には3ヶ月もかかるよ。
3ヶ月あれば、ビンソンの件が片付くだろうから、終わり次第、俺が2人を船まで送る計画だよ。
大司教さんが快く了解してくれ、
ヒトミさんとコウくんも協力すると言ってくれた。
アハートさんが3人とがっちりにこやかに握手した後、
俺の側まで来て、こっそり苦笑い。
いや、ちょっと怒ってるみたい。
俺に耳打ちしたよ。
「ヒジカタさんがわからなくなって来たわ。
ボディガードを選ぶのに、どうしてわざわざ、素人(しろうと)のエースさんと、奴隷2名なのかしら?
つとまると思う?」
「そこらへん。
後で詳しく話すので」
ちなみに、ヒトミさんが、アハートさんの足先から頭髪まで見てため息をついたよ。
アハートさんは華やかだからねえ。
羨ましいのかな。
俺の彼女と勘違いして、嫉妬してるわけじゃないよね。
だったら嬉しいけど。
いや、いけない、いけない。
ヒトミさんは、コウくんに譲ると決めたんだった。
コウくんはそんなヒトミさんが気掛かりなんだろうね。不安そう。
まだ告白してないな、この様子だと。
キキン滞在中に、俺が背中を押してやろう。
経験豊富に思えるかもしれないが、日本で俺はモテない部類だったよ。
どう告白すればいいか、実際は分からないね。
トライした事もないし。トライする勇気もなかったから。
どうでもいいね、こんな話し。
「あっ! ヒジカタ様だわ」
「ヒジカタ様よ」
「お戻りになられたわ」
「隣の方は?」
「お綺麗ね、フィアンセかしら」
「どうかな、違うんじゃないかな」
「どうしましょ、挨拶は。ヒジカタ様の奴隷と決めた私」
ざわざわと集まってきた奴隷さんたち。
今朝と同様、俺を取り囲んで井戸端会議を始めたよ。
キラキラとした憧れを見るような目を向けられ、照れくさくて、超恥ずかしいね。
日本で35年生きていたけど、こんな現象は発生してないよ。
もし俺が人間なら、アイドル気分でハーレムモードを満喫するんだけどね。
いや、違う。
俺が人間なら、
ヒトミさんに告白してる、
絶対。
でも、実際は人間じゃないスライムなわけで、バレるかと冷や冷やなんだよね。
「やあ、ヒジカタ。意外な場所で会うな」
後ろから声をかけてきたのは、アシダダムだったよ。
白衣は俺が洗ったから真っ白だね。よしよし。
ずっと維持するんだぞ。
「なんで、いるんだ?」
この豪華な宿泊施設もアシダダム家の資産らしい。
うーん。
裏で莫大儲けているんだな。
大富豪、益々繁栄か。
ヒトミさんが俺の手を握ったよ。
ドキッとしたけど、心話だね。
分かっちゃいるけど、ときめくね。
『このアシダダム、まだ、ヒジカタさんに敵意……、殺意があります。
3人の魔法使いを用意していて、暗殺するつもりですね』
さっそくヒトミさんがアシダダムの心を読み取ってくれたよ。
『ありがとう。助かるよ。
何かしてきたら、返り討ちにしてやるね』
『はい。でも、じゅうぶん用心してくださいね。
アシダダム自身も、まだはっきりとした計画は練ってない……、
あっ!
雇った魔法使いの1人がいます。壁際のホウキを持った青い眼の女です』
ヒトミさんの視線の先には、掃除をしている従業員の女がいた。
身長130くらいかな、21歳の割にはずいぶん子供っぽい灰色のおかっぱヘアー。
猫みたいな眼をした美人さんだよ。
首を傾げながらステータスを確認してみる。
―――――――――――――――――――
人間 ナリオール・キマイ 21歳 LV 5
生命力 45/48
魔法力 198/254
攻撃力 22
素早さ 15
知能 36
運 9
『火魔法』LV 3
『水魔法』LV 4
『雷魔法』LV 8
『補助魔法』LV 8
―――――――――――――――――――
完全な魔法使いだよ。
『放火犯のフォールを殺ったのは、ナリオールだろうか。
悪いが、ヒトミさん。心を読んでくれないか、あのおかっぱ娘を』
『はい!』
やがて、おかっぱ魔法使いの背後だ。
空間が渦巻き始め、中央が漆黒色に盛り上がってゆく。
アンデット・デーモンが召喚された時と全く同じ。
どんどんもりあがり、そこから、ドラム缶サイズのゴツゴツした赤黒い3本指の手が伸びてきた。
続いて、赤黒い水牛のような身体が登場したね。
でかいな。
市営バスくらいか。
前かがみにして二本足で立ち、
ブルドックのような頭部からは波打つ長い2本の角を生やしている。
魔法使いが命令を下したとき特有のデーモンの行動――、ホースのような長いしっぽを、ナリオールの腹に突き刺し、標的になる俺か、俺の側にいるアハートさんに向く。
意外だったよ。
大勢の人がいる宿泊施設で、迷いもせず召喚して魔法を使うなんて。
いや、放火犯人のフォールがそうだったように、大勢だからこそ、誰が魔法使いか特定しづらくなるからだね。
クリムダームド・デーモン L∨ 14
どれほど強いデーモンかなあ、とステータスを覗いてみたら、魔法も強いが、格闘もけっこうやるんじゃないかと思えるほど強かったね。
『分かりましたヒジカタさん。
掃除婦に扮したあの女が、雷魔法LV 8で、デーモンを召喚し、牢内のフォールを感電死させています』
そうか。
やっぱりそうなのか。
俺たちもフォールと同じ手口で殺ろうってわけか。
このナリオール・キマイ21歳。
ナリオールちゃんと、ちゃんづけしたほうが、お似合いなほど愛くるしいベビーフェイスの彼女が、人を虫を殺すくらいの気分で殺めていたなんて、ガッカリだね。
暗殺専門の魔法使いかもしれない。
しかも殺害されたフォール・ベベより強いレベル5だ。
21歳で28歳のフォールより強いとなると、少なくとも、フォールより多くの殺しをしているだろうな。
ナリオールが注目されるのを嫌ったんだろう、素知らぬ顔でホウキを動かしている。
『依頼主は、アシダダムですね』
『了解、ヒトミさん』
可愛かろうが、なんだろうが、殺人犯は殺人犯だ。
さ~て。
どう片付けようか。
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