ＳＳＳレア・スライムに転生した魚屋さん ～戦うつもりはないけど、どんどん強くなる～

２章

真実

「つーん、と鼻に来るのお。つーんがたまらん」

　キキン国王はもちろん、お供５人もにぎり寿司ばかり追加注文して、キキン茶を飲んでるね。
　にぎり寿司は、一貫づつネタが違う。
　異なる味を楽しめるのが最大の特徴。
　だから、食べるのが止まらなくなっちゃう。
　
　あらあら、ついに素手で掴んで食べ始めたよ。
　間違いじゃないね。お絞り（お手拭き）を用意しとこう。

　そろそろ満腹かな。
　腹が満たされれば機嫌も良くなる。
　今が頃合いだと思ったので、国王さんに商人ギルドの悪の実態をチクリました。
　取り締まる役人ビンソンと商人ギルド長アシダダムが結託して私腹を肥やしてると。

　しかし――。

　国王はかる～～く聞き流すだけ。
　繰り返し正論を語る俺に、『ふんふん、そうなのか～』と口を濁すだけ。
　
　妙だな。
　脚の一部を触手化し、カウンターの下から伸ばして国王の身体に分からないように接触。
　心の声を聞かせてもらおうかな。

　　
　ビンソン・ギインはギイン家の長男。
　ギイン家は、８００年もの昔から、キキン国を裏で支えてきた闇の一族。
　つまり、表沙汰にできないような仕事を、ギイン家がキキン国王にかわりこっそりやっていたわけね。
　
　最近だと、外区の周囲にも万里の長城みたいな壁を建る計画がある。
　キキン国は１０年前から急速に発展していて、外来者の定住割合が高い。

　だけど、２年前から人口増加は横ばい。
　問題は治安が悪い事だ。
　住みよい国の条件のひとつは、治安が良いことだよね。　

　人間の犯罪はもちろんだけど、このキキン国は、ボーンキラー・ウルフなどの獣系やアンデット系のモンスターによる被害が多い。
　先月のキキン国のモンスターによる死者は３０人、負傷者だと１００人を超える。
　被害者の殆どが、壁が無い外区（人口１０万）の住人。
　
　中心地に近い外区は、自衛軍、名衛軍がパトロールするので治安は良く、離れた場所の外区（主に農耕地）だと襲われ放題なわけ。
　ツェーン結界が強化されたけど、国の被害予測は３割減少と厳しい。

　ようは、外来者が新居を建てたくても、お金持ちが事業を始めたくても、高い壁に守られ安全な内区は飽和状態で、危険な外区しか空いた土地はないわけね。
　だから、広大な土地を有する外区も高い防壁で囲っちゃう計画。
　
　キキン地方の飛来モンスターは迷宮内のサキュバットだけだけど、ツェーン結界強化で問題なし。
　つまり外壁が完成すれば、いや計画が発表されただけで、キキン外区の地価は上昇し、あちこちに建設予定地の看板が立ち、人口は爆発的に増えちゃう。
　
　で、外壁建設なんだけど。
　まず、予定地を国が買い上げなきゃいけない。
　だけど、そこの地主や大農場主にしてみれば、少しでも良い条件で売りたいわけだから、当然交渉になる。
　さっさと工事を始めたいのに、土地の確保だけで時間がかかる。

　そこで、ギイン家の登場。
　地主たちをさっさと黙らせ交渉成立。
　同意を拒否する地主には、ギイン家お抱えの魔物使いが、ゴブリン、オーク、トロールなどで処理（殺させる、食わせて行方不明扱い）するわけだ。

　王族・キキン家が光りとするなら、貴族・ギイン家は闇だね。
　二つの一族がうまく役割を分担してこのキキン国が発展していったわけだ。　
　日本の歴史で例えるなら、殿様と忍者かな。
　議員とヤクザ――、おっとこれはフィクションの中だった。
　
　ギイン家の親族にあたるアシダダム・ロイトイも同様。
　キキンの表玄関と呼ばれる一角をまとめて、巨大宿泊施設の建設を目論むが、キキン国王の勘違いにより、ヒジカタに土地が渡り、計画は中断したまま。

　ううーん、やっぱりな～。
　おかしいとは思ったんだよ。
　ロアイドさんの店舗以外、全部アシダダムの宿屋や飲食店だもん。
　アシダダムが着々と買い占めて、最後残ったのがロアイドさんの居酒屋だったわけなんだ。
　


　にぎり寿司をたらふく食べたキキン国王が帰って行ったよ。
　肝心な事は一言も喋らなかったけどね。

　さーて。どうしたもんだろう。
　国の発展を考えれば、汚い仕事も大事だし。
　いや、でも放火や暗殺はやり過ぎだろう。
　
　外区の外壁は、一日でも早く建設したいのは分かるよ。
　モンスターに食い殺される人がゼロになるわけだし。

　キキン国王だって、本来ならギイン家の手を借りず、堂々と政治を進めたいはず。
　う～ん。
　難しいなあ。