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2章
日本に似た国
しおりを挟む「ごちそうになった、ヒジカタ殿。また来る」
店を出てゆく大司教さんに使徒たちがつづく。
ケイジが「じゃ、後でね」とヒトミさんの肩をポンと叩き、長い黒髪に顔を埋めた。
「う~~ん、良い香りだ」
ヒトミさんが苦笑い。
妹のメグミさんはムスッとしたよ。
ランちゃんがトコトコ付いて行こうとしたので、呼び止めた。
「行かなきゃ」
「なんで?」
「だって、アフターしてあげる約束だもん」
「迷惑だよ、止めなさいって」
「彼が望んでいるのよ、止めないで」
「彼?!」
「彼ったら、あたちにどんどん寿司を食べさせて、なんとか繋ぎ止めようとしちゃって、かわいいの。『だいじょうぶ、他のお客ちゃんは、遊びだから、心配しないで』って言ったんだけど、彼ったら、ヤキモチ焼きなの。
それにあたちが見つめたら、ドキドキするみたいよ。
これは愛よ。遊びじゃない、しんじつの愛」
「相手は50歳のおじちゃんよ、ランちゃん」
SSのミキちゃんが言ったけど。
「いくちゅ離れていても、あたちたちの愛は揺るがないのよ」
「はあ~」
まあ、否定はしないよ、その部分に関しては。
ヒトミさんが深く頷いてくれたよ。
とっとことー、とランちゃんは出て行ってしまった。
◆
「実は、この米。私たちの祖国の米とは違うんですが、懐かしくて」
「どんな米なんですか」
楕円形で、モチモチしていると言う。日本の米と酷似しているな。
食事スタイルもスプーンでなく2本の棒を使い、野菜を塩で漬けたり、魚を焼いたり煮たり。
四季があり、比較的温暖な地域。主食が米なのも日本と同じだそうだよ。
「モチモチした米か……」
味わってみたい。確かめてみたい自分の舌で。
にぎり寿司を作るには、どうしても日本米でないと、あの味はだせないんだよね。
それに、――魚を煮る。
もし日本と同じ作りなら、醤油を使っているはず。
キキン国には魚醤(魚で作った醤油だね)はあるけど醤油はない。
日本だと魚醤はラーメンのスープの隠し味や鍋物の出汁に使うね。
俺個人的には白身の刺し身に限り相性は良いとは思うけど、なにせクセが強くて一般的じゃないんだよね。
だから、今のところ刺し身はオリーブオイルや香辛料で提供していたよ。
あしらいも、大根はあったからツマは作れたけど、漬けダレが洋風なので、どうしてもカルパッチョ風、サラダ風になっていたんだよね。
ヴァーチェ国に、刺し身や寿司と相性が良い醤油があるかもしれないね。
それに酢もあったら嬉しい。
本物のにぎり寿司をつくるなら、寿司専用の酢が必要だね。
キキン国には干しブドウやビールで作った酢はあるよ。
酢の物に使用するには問題ないけど、寿司との相性は最悪だと思う。
醤油と酢が手に入れば――。
欲を言えば、ワサビも欲しい――。
「しょうゆ? わさび? お酢?」
ヒトミさんが反応したよ。
俺の心を読み取ったみたいだね。
どんな物なのか、説明する……までもないかな。
「違うかもしれないけれど、似たような調味料があります」
「そうなんだ!」
行ってみたい。
ヒトミさんが広げたのは、この世界に来て始めてみる世界地図。
だけど、とてもよく似ていた俺の知る地球と。
キキンの国は、ちょうどオーストラリアの南の位置で、ヒトミさんのヴァーチェ国は、これも偶然だろうか、日本の場所にあった。
「お願いがあります、ヒトミさん……」
「はっ……はい!」
◆
男の子タイプのSS。
ハヤテ、ジン、エースの3匹がいるよ。
洞窟の結界が強化されたので、洞窟の中にこもってモンスターを倒す必要はなくなった。
だから3匹には巻き寿司を作ってもらっている。
営業中だけど、ハヤテたちに任せ、俺はヒトミさんを連れだしたよ。
はい。デートじゃありません。
「ヴァーチェ国まで行くのですか?」
きょとんとしているね。
そうだろう、そうだろう。
「今からですか?」
「ひとりだと、ヴァーチェに着いても、わけわかんないからね」
「……私、ヒジカタさんとなら、どこまでも……」
俯き、少しほっぺたが赤くなったよ。
「ありがとう」
心配なのは、ヒトミさんが耐えられるかだよ。
空の旅を。
はい。もちろん俺の身体に乗ってだけどね。
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