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2章
超高速移動
しおりを挟む「おい! なにぼーっとしてやがる! ヒジカタ」
行こうと思ったら、肩を強く掴まれた。アシダダムだった。
「さっさと入れよ。中じゃ、お前の可愛い子が待ってるぜ」
「え、ああ。そうだな」
ヒトミさんは強制的に列に戻されてしまった。
どうする……。
俺が今ここで、ヒトミさんと妹のメグミさんだけ、どこか遠く離れた国に連れて行くことだってできる。
できるけど、彼女たちには『居場所発信』の効果で、直ぐに見つかってしまい、逆に逃げた罰を受けるだろう。
もしかしたら、『居場所発信』に察知限界距離みたいなのが、存在するのかもしれないけれど、確信もなくできない。
彼女たちを助けるには『呪縛の法術』を解く以外にないと思う。
法術をかけた者は、たぶん、この集団。
彼女たちを金で買ったのか、担保のかわりか、理由は分からないけど、とにかく女性たちは集団の物、財産、取得物。
以前、奴隷を見かけたとき、店主の奥さんに奴隷はそういう物だって、教えてもらった。
ひどい世界だと思うよ、ほんと。
だけど。
ごめん――。
本心は助けたいけれど――。
ヒトミさん、メグミさん、いや、ここにいる女性たち全員を助けたいけれど、この世界のルール(決まりごと)にそって成り立つ奴隷を、俺の感情だけでどうこうできない。
してはいけない、そう思う。
この世界で、あたり前になっている奴隷制度そのものを無くす。
廃止する方向に進んでゆく世の中になればいいのだけど。
実際、どうすれば、どうアプローチしてゆけばいいのかわからない……。
「ビビッて、入れないってか? おい、ヒジカタさんよぉ~♪」
アシダダムがニヤニヤしながら覗き込んできた。
「ああ、そうだな」
ヒトミさんに、――ごめんね、と心の中で謝り、踵を返してアシダダムの後に続いた。
「にっ、……げっ、げ、げて――――――っ!!」
それは突然だった。
泣き叫ぶ、絞りだすような高いかすれた声が上がった。
振り返ると、使徒に引きずられているヒトミさんの口が真っ赤だった。
「ゲフッ! ゲフッ……」
吐血している?!
血だらけの口で、なおも動かす。
「に、に、げて――っ!!」
逃げて……。
そう言いたいのか、俺に?
呪縛の法術にかけられると言語障害になる。
無理に話すと、喉が裂けるような痛みに襲われると聞いた。
なのになぜ?
「ヒ、ヒ、ジ、ジカタ! ゲホッゲホッ!
だ……だめっ! そこ、入っちゃ!! 殺、……れるっ!」
足元に血を撒き散らしながら、それでも叫んでいる。
―――――――――――――――――――
人間 ヒトミ・イエシタ 20歳
生命力 35/38
攻撃力 18
素早さ 29
知能 47
運 28
『心眼』
―――――――――――――――――――
そうか『心眼』
――他人の心が読めるスキル。
アシダダムの心を読み取ったヒトミさんが、俺に危険を知らせれくれたってことか。
自分が血を吐くのを覚悟で。
くそ――――――っっ!
一瞬でヒトミさんの側まで行き、掴んでいる使徒から引き離し、少し離れた妹さんの側までヒトミさんを移動させた。
それから、何事もなかったように、アシダダムの前に戻る。
その間、ざっと0,01秒。
「えっ?」
「なんだ?!」
「わああわわわ!」
「いったいどうして?」
使徒がぽか~んと口を開けたまま固まっているね。
ヒトミさんはもちろん、妹のメグミさんも目をまん丸にしているよ。
何が起こったのか誰も分からない。
分かるわけがない。
超高速移動している俺を、捉えられる生物って存在するだろうか。
隣のアシダダムは、俺がずっとここにいたと思ってる。
「アシダダムよ……お前、俺を葬るつもりだったのか?」
ニヤッとしたアシダダムは、「だからどうした? さっさと中へ入れよ」と言ったよ。
「そうか。良いだろう」
せっかく教えてくれたヒトミさんを、心配させるわけにはいかない。
超高速モードでアシダダムより先に侵入し、状況確認。
1階のフロアーには受付の40位のおっさん以外誰もいない。
残された2階の10の部屋のどれかにランちゃんがいるんだろう。
端から順に調べてゆき、5部屋目でようやく、パイを右手に持ち、口を大きく開けたまま、喉ちんこまで見えているSSランちゃん発見!
またちょっと大きくなった?
ランちゃんの足元には、食い散らかしたパイの欠片がたくさん散らばっているよ。
たくさん食べたみたいね。
まあ、いいけど。
部屋の角のテーブルには、ロングソードを持った男性(雇われ剣士?)が2名と、灰色のローブを纏った女性(魔法使いかな?)が2名、お茶を飲むところで停止していた。
はあ……。
この4名で俺を殺すつもりなんだ。
俺の動きに付いて来れないと、剣の達人だろうと、魔法が強力だろうと、なんの意味もないんだけどな。
食べている体勢のままのランちゃんを小脇に抱えて外へ持ち出し、アシダダムの前に立たせて移動終了。
0,05秒だね。
ランちゃんがハッと気が付き、きょろきょろしてる。
俺が側にいるのが分かって、「えへへへへ~」と舌を出したよ。
「お、お前! な、なにしやがった……」
びっくり顔のアシダダム。
「ん? あー、ちょっとね」
「ちょっとじゃねーだろ! なんで、この娘がここにいるッ!?」
「いろいろね」
「手品師か……お前?」
手品師も悪くないねえ。
だけど、今後、俺の身内に悪ささせないためにも――。
「いや違う……。魔法だ」
「魔法だあ~?!」
「そう、俺は魚屋だけどな、魔法使いでもあるわけよ。それも高レベルのな」
アシダダムが、じっと俺を睨みつけている。
「信じられないなら、そうだなあ……。今ここで、お前の右腕を吹き飛ばしてみようか?」
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