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2章
威圧
しおりを挟む国王にお祝いの言葉を頂いた後、控室で着替えていると、
遅れて入ってきたアシダダムが俺の肩を強く引っ張ったよ。
近くにいたハヤテが、ビクッと戦闘時の顔つきになったので、右足の半分を触手化して伸ばしハヤテの顔をニコニコ顔に整えてから、足に戻したよ。
ちなみにその動きは、人間の眼で見れるレベルではないね。
控室にはちょうど、俺とハヤテしかいない。
だからアシダダムが強気に出てくるのかな。
「どうして、俺に譲ってくれなかったんだ、ヒジカタさんよー。
あれだけ頼んだのによー!
お前ほどの腕がありゃー、何処に出店しても客は来るだろうが!」
アシダダムは、あれから毎日俺の店にやって来ては、目に涙を浮かべ土下座して負けてくれと言ったんだよね。
俺は涙もろいほうで、ついアシダダムと固い握手を交わし、肩を叩き合ったりしたよ。
アシダダムが帰った後で、ハヤテやSSたちにお説教されたけど。
「悪いな。やっぱり俺は、刺し身で、いや、魚屋の仕事にウソはつけないんだよ」
アシダダムの言う通り、わざと汚く盛り付ける。
鮮度劣化した魚で刺し身を引く。
例えお客さん不在だろうが、刺し身対決も俺に言わせれば仕事にかわりはないよ。
自分の仕事に愛情を注げない魚屋が、お客さんを喜ばせる事など出来るわけがない。
なにより、俺にいろいろ教えてくれた魚屋のおっさんたちに申し訳が立たない。
大昔からずっと続いて来た日本の魚技術を、侮辱したことになると思うんだよね。
「なに、くそ偉そうに……」
アシダダムが俺の襟を引っ張り上げた。
「おれに勝ってさぞ気分が良いか?
どうなんだあ? ヒジカタよ。ヒジカタさんよお。
悪いことは言わねえ、あの土地を放棄しろ。
さもなくば――」
アシダダムが嫌らしい笑みを浮かべ小声で、
「出歩くとき、必要以上に注意しねえと、危険なことが起きるぜ~」
と俺を強く突き飛ばした。
飛ばされないで、その場で立っていることも出来たけど、人間ぽくないんだよね。
だから、アシダダムのパワーと押した方向から、それらしく1回転、2回転して仰向けに倒れておいたんだけど。
それより、ぶつかった拍子に長椅子を壊しちゃったよ。
けっこう高いんじゃないだろうか。
「お、お父さんっ!」
駆け寄ったハヤテに、手を出すな、と耳打ちする。
「だけど……」(ヒソヒソ)
「今、俺たちは人間なんだから」(ヒソヒソ)
「その顔は、分かってねえって顔だな、ヒジカタ!
いいか、よく聞け。
お前が1人で出歩くときは、偶然通り魔が襲ってくるかもしれねえし、オークにさらわれるかもしれねえ、食った飯が毒入りってこともある。
そういや、お前の寿司屋に幼い店員がいたなぁ、あの3人に不幸が訪れるかもしれねえぜ。
まあ、つまり、そういうことだ、ヒジカタ。
あの土地を放棄すれば、たぶん天災は起きねえぜ、へっへっへっ」
ふーん。
脅しもするんだ。
ハヤテやSSたちの言った通りになったぞ。
みんな凄いなあ。
予言者みたい。
「ふっ……、ビビッて話しも出来ねえか」
ツバをかけられた。
正確には、顔面に飛んできたツバをギリギリで避けて、通過後、元の位置に戻っただけね。
流石にツバは汚いよ。
「魚しかできねえ、つまんねえ男だな、お前は」
魚だけは完璧に出来る男と言い換えて欲しいね。
あ……。
ハヤテが爆発寸前だよ。
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