SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)

文字の大きさ
上 下
55 / 182
2章

呪縛の法術

しおりを挟む

 キキン国王の席についた姉妹たちは、ほろほろと涙をこぼしている。

「……う……うぅ……」

「大丈夫ですか、お客さま?」

「……う……うぅ……」

 姉妹の様子がおかしい。
 嬉し泣きだと思っていたが、苦しそうだ。

「どこか、お身体の具合でも?」

「……う……うぅ……」

「大将大将! 呪縛の法術にかかると痛くて喋れないんだよ。
 泣き声でも喉が裂けるように痛い。無理に喋ると吐血するって話しだ」

「そ、そうだったのか」

 姉が紙にペンを走らせたよ。

(親切にしてくれて、ありがとうございます)

 そう書かれていた。

 喋れないわけじゃなく、痛いから喋らないのか。
 今苦しいのは、泣き声すらも苦しいみたい。

「いや、もう、俺のほうこそ、事情が分かんなくて、ほんとうに申し訳ありません」

「……う……うぅ……」

 いかん。
 また泣きそうに、あわわわ。
 苦しそうだよ。
 こりゃ俺がいたら、迷惑だな。

 
 ◆


 翌日。 

 寿司屋のトビラが開くやいなや、武具に身を包んだ自衛軍3名が踏み込んできたよ。

「いらっちゃい……ませ……、でいいの?」  

 接客に向かったSSが顔だけ俺に向ける。

 そうなんだよ。
 どう見ても寿司を食べに来たって感じじゃないんだよね~。
 真ん中の自衛軍が俺を睨みつける。

「キキン国王がお呼びだッ! ヒジカタ!」

「国王?」
「大将に何の用だ?」
「なにか悪いことでもしたんじゃ……」

 お客さんがざわついている。

 たぶん……、いや、間違いなく、俺が国王限定席にあの姉妹を座らせたからだな。
 あっちゃ~。
 
 今日もカウンターの1番端っこで巻き寿司を少しづつ食べている姉妹が、心配そうに俺を見たよ。

 あららら、瞳をうるうるさせはじめたぞ。 
 あーなんか、責任を感じちゃってるみたい。
 
「そうだそうだキキン王と約束してたの、すっかり忘れてたー。
 いやーまいったまいった、俺としたことがあー」

 誤魔化したつもりだったんだけど――。

「みえみえですよ」
「大将、ウソが下手くそですねー」
「不器用だな、大将」

 お客さんにはバレバレだから。

「お出かけ、お出かけ♪」
「お着替えしなくちゃ」
「「「ねーっ」」」

 3匹のSSたちがキャピキャピしながら、一列になって3階へ上がっていったぞ。
 付いて来る気かよ。
 

 ◆

 
 国王の間。

 豪華な椅子に座る国王が、難しい顔をしているよ。

「うーむ。それはいかんのお。いかんいかん」

 国王の席に姉妹を座らせた事情を、分かりやすく説明してはみたんだけど、納得できないのかなあ。
 所詮、国王もそこまでの人間だったってこと?

「そうでございましょう。そうでございましょう」

 そばに立つビンソンが、めっちゃ嬉しそうなのが、腹が立つんだけど。    

「ヒジカタよ。こちらのキキン国王にどう言い訳するつもりだぁ? 
 奴隷をだな――。貴様は王専用の席に薄汚い奴隷を座らせたのだからな! 奴隷だぞ!」

 奴隷奴隷、うるさいなあ。
 だけど――。

「約束を守れず、申し訳ありません」
 
 一応は謝罪する。
 だって、国王と約束したのは事実だし、事情はあったにせよ、破ったのは俺だからね。

「申し訳ないでは済まないだろう。
 奴隷を王の席に座らせるという事はだな、つまり貴様は奴隷とキキン王を同等に捉えていると言うことだ。
 薄汚い奴隷と頂点に君臨する我らがキキン国王が同じ。
 王を侮辱し、いや、このキキン国すべてを見下している。そうに違いあるまい!」

 なんだこいつ?
 勝手に尾ひれをつけて、言いたい放題じゃないかよ。
 
「あー、いや、ビンソンよ。
 余はかまわん、かまわん。
 余がいかんと申したのはだな、ヒジカタの店に座席が12しかないのがいかん、という意味だ」

「……へ?」

 ビンソンの勝ち誇ったような顔が、ヌケ顔に変わったよ。

「つまり、ヒジカタの寿司屋が繁盛し過ぎて困っとる。
 客に迷惑をかけておる。そういうことであろう、ビンソンよ」

「いや、まあ、そうです……はい。
 王のおっしゃる通りで御座います」

 ビンソンが渋々合わせているのが、面白いね。

「うむ。ようは、座席を増やせばよい」
 
 よいって……。

「余も一度行ってみたが、ヒジカタの店は狭すぎるわい。
 2階に上がるのも不便よのう。もっと大きな店で営業すればよいではないか!
 席がたくさんあれば、余の特等席を貸すこともなかったであろう。のうビンソンよ」

「ははーっ! 見事な推察と解決策。
 流石はキキン国王。お見事で御座います!」

 観点がずいぶん違うけど、あながち間違いとはいえないね。
 しかし、ビンソンのやつ、王のご機嫌取りばっかしやがって、気に入らないな。

「ではヒジカタよ。早々に現在の店を大型店にするよう命令する」

 簡単に言うなあ。
 それが出来ないから、苦労してるんだけど。

「まあ、そうですけど国王。なかなか商売に向く出店場所が無くて」

「ほう。店を開く場所とな……」

「はい」

 キキンの外区域に商店街が東西に2つあるけど、どちらも空きはないんだよね。

「おお、そうじゃ! 一昨日の火事で焼け落ちたあそこはどうじゃ? 
 西商店街からも離れておらんし、アゼン国やロアロク国からの荷馬車が通る角地じゃ。
 キキン国の表玄関みたいな場所じゃ」

 一昨日の火事?
 知らないぞ。 

「こ、国王っ! あそこはアシダダムが出店を希望しておりまして、ほぼ決定でございますっ!」
 
 急にビンソンが割って入ったぞ。
 いらいらしているし、慌てている。
 怪しい。裏がありそう。 

「そうなのか? 正式な決議を終えたわけなのか」

「いえ、決議は明日の予定でしたが……」

 ビンソンが口ごもる。俺に目線を向けたが直ぐに王へ戻したよ。
 
「アシダダム以外に希望者が不在だったので……」

 希望者不在?
 火事で跡地が(競売か何かは知らないけど)一般に開放されていた事自体知らないから。

「書面決議か」

「その通りでございます。
 アシタダムに本決まりだと連絡しておりまして。
 アシダダム自身も、すでに焼け跡の整地を始めております」

「そうか」

「そうでございます、国王」

「うむ。ならば、まだヒジカタにもチャンスはあるな!」

「え? え? 
 いや、しかし国王。
 アシダダムはあの地で刺し身屋の開業を決めておりまして、工事も着工しており――」

「かまわんだろう。決議はまだなのだから。
 よし、余は決めたぞ。
 アシダダムの店。ヒジカタの店。
 どちらの店が、キキン国の看板場所に相応しいか。
 刺し身をそれぞれが造り、余が食べ比べてみて美味い方の店を建てる。
 どうじゃ、ビンソン。名案ではないか」

「……、み、見事なアイデアでございます……」

 ビンソンさんの困った顔が、おもしろいんだけど。
 しかし、また、料理対決なのか?
 

しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

処理中です...