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1章
最期
しおりを挟むキキン城、王の間。
ローマ宮殿の内装を思わせるような豪華な部屋に、いかにも王様って感じの男、キキン国王が座る。
10メートルほど離れ、ひざまずいたロアンくんが、王様の声で顔を上げたよ。
「第一陣185名がツェーンの一層目で全滅? ファースト司令官もか」
王様が驚いて訊ねる。
「はい。残念ながら全員亡くなられました」
「今回は洞窟の偵察と拠点づくりが目的だが、それすら出来ずにか?」
「ツェーンの結界が、より弱まっていたようで、一層目とは思えないほどモンスターが強すぎて」
「……」
「今後は自衛軍だけでなく、名衛軍も参加しないと無理でしょう」
「それほどまでか」
「はい。自衛軍185名がわずか半日で全滅したのを考えると」
「むう……」
「ツェーン洞窟の入口に出没するボーンキラー・ウルフも、より大型で凶暴になっており、今までのような自衛軍10名体勢のパトロールでは対処が困難かと。
さっそくパトロールを自衛軍20名と名衛軍1名体勢に変更し、ツェーン付近の住民には、キキンの外区域に引っ越すよう説得しております」
そうなんだよ、洞窟を出るとき、俺たちは人間化し忘れたんだけど、それでも普通に出ちゃったんだよね。
ツェーン洞窟の結界は、レベル2以上のモンスターを拒絶したはずだけど、何かが原因で弱まったみたい。
説明テロップに『レベル9以上のモンスターを反発する』とあった。
だからレベル7のポラリスくんも素通りできたんだね。
ちょうどレベル8のボーンキラー・ウルフが出てきたので、アリシアの短剣で倒しておいたよ。
それから、俺はロアンくん似のイケメン姿に、ポラリスくんは素朴な青年姿に、それぞれ変身。
SSたちはボーンキラー・ウルフのマネかな、オオカミに変身して遊んでいたら、偶然ロアンくんがツェーンの様子を伺いに来ていたわけ。
俺が185名の自衛軍がモンスターに倒された事を告げると、嘘と思ったんだろうね、単独で洞窟に乗り込んで行き――。
5分後。
ロアンくんが大慌てで戻って来たよ。
信じてもらえたみたい。
ぜひ、俺を国王に合わせたいと言うので、ロアンくん似のイケメンのままでキキン城に入った。
もちろんSSたちは、小さなオオカミ姿のまま付いてくるけど。
ポラリスくんには、『洞窟で待機』、洞窟から出てくるモンスターの監視と、可能なら倒しておくように指示したよ。
もし手に負えない相手だったら俺に知らせるよう、連絡係にSS3匹を残しておく。
モンスターが、キキンの街を襲ったら、自衛軍でも防ぎきれないからね。
6匹のSSたちが、誰が残るかでじゃんけんを始めたから、強いもの順に俺が指名しちゃったんだよね。
「して、その後ろにおる者が1人で、ボーンキラー・ウルフを倒したと」
国王の視線が俺に刺さったよ。
俺がヒジカタの服装(兵士らしくない市民の格好)だから腑に落ちないんだろ。
「そうです。自分の名前も思い出せないほど記憶が欠落しておりますが、剣の腕は名衛軍(めいえいぐん)のトップより更に上かと」
「ほう……。アゼン国、ロアロク国、いやケズカラ国の鋭士かもしれんな」
「いずれにしろ名のある剣士に間違いはありません。知らずにツェーン内に踏み込み、モンスターとの戦闘で脳を傷つけたかと思われます。記憶が戻るまで、私の自宅で療養してもらうつもりです」
うまく話せないでいたら、ロアンくんはいい感じに受け取ってくれていたみたい。
国王も納得したみたいだ。
ロアンくんが、突然俺に話しを振ったよ。
王様に挨拶しなさい、って言いたいわけね。
「よろしくお願いします」
「ご苦労であったな。して、そなたは自衛軍の戦いを間近で目にしたのだな」
「あ、はい。争うような声が奥から聞こえてきたので駆けつけると、大勢の倒れたモンスターの中に兵が倒れていました。ひとりひとり、まだ息があるかと調べてゆき――」
俺は、いかに自衛軍が勇敢に戦い死んでいったかを王様に伝えた。
サキュバットの餌になっていただなんて、知らなくてもいい。
もし自衛軍が殺されていなければ、きっと勇敢に戦っていたはずだから。
兵士ならきっとそうしていたはずだから。
「壮絶な戦いだったようです」
「そうか……。貴重な自衛軍を死なせてしまったな、私は。遺族の者たちに申し訳ない」
「洞窟一層目だと、185名も行けば、誰一人傷つくことなく帰還できるはずです。王様の判断は間違っておりません。結界の強度チエックを怠った私たちの責任です」
ロアンくんが王様をフォローしている。
王様は、気持ちが落ち着いたみたい。
「うむ。……して、アレは……、そなたのずっと後ろにおるのは犬か?」
SSたちが、くう~~んと犬みたいに鳴いているよ。
オオカミの鳴き声を知らないよなあ。
「あ、いえ。オオカミでして」
「なんと」
「ですが、大人しく、人間に吠えたり、噛み付いたりは絶対にしませんよ」
「「「く~~ん」」」
◆
王様とのお目通りが終わってから、ロアンくんが『私と一緒に来て欲しい家があるのです』頼み込んできたよ。
なんとなく分かる。
どうアハートさんに、妹と弟が亡くなった事実を伝えたらいいか、困っているわけだね。
ロダン家(アハートさんの自宅)。
「とても残念ですが、自衛軍の全滅を報告しに参りました」
居間に通されて早々、ロアンくんが言った。
アハートさんは、半笑いしていて、ブラックジョークだと思っているんだろうね。
だけど、ロアンくんの凍りついた顔色は変わらない。
アハートさんが、物静かにうつむく。
「そ、そうですか……」
呟いただけ。
「……あ、ごめんなさい。私ったら、お茶をお出ししてないわ。いけない、いけない」
苦笑いで部屋から出て行き、少しして戻ってきた時には笑顔だった。
だけどアハートさんの出してくれたコップ。持つ手は小さく震えていた。
「あのう……ファーストとアリシアに、……ふたりに会ったのですか……」
一口飲んで、下ろした俺に訊ねたよ。
今の俺はヒジカタではない。ロアンくん似の記憶喪失した他国兵だ。
「はい。会いました。
ふたりは傷を負い。それでも仲間を避難させるため、しんがりを努めていました」
「そうですか……ファーストとアリシアらしい」
俺は二人が、いかに勇敢にキキン国のために死んでいったかを伝えた。
ウソじゃないよ。
もし、二人が――。
サキュバットに殺されず生きていたとしたら、この危機に直面していたら、きっとそうしていたと思うから。
「瀕死のふたりが、これを姉に渡して欲しいと……」
そう言って俺はテーブルに置き、アハートさんの前に滑らせた。
「……これは、ファーストとアリシアの」
アハートさんの薬指にはめられているのと同じ、ロダン家の家紋入り指輪。
家族全員が大切な時にだけはめる習わしなのだろう。
「なにか、なにか、言っていたでしょうか?」
「『戻れなくて、ごめんね』と」
アハートさんが涙ぐむ。
手の平に乗せて、愛おしむように頬ずりをすると、指輪が涙でキラリと光った。
「立派な最期でした」
ひとまず、おしまい
~~~~~~~~~~~
作者あとがき
最後まで読んでくれてありがとう!
ヒジカタの活躍? いかがでしたでしょうか。
ヒジカタとSSたちのお話しは、まだまだ続きてゆきます。
こちらも、よろしくおねがします!
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