SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)

文字の大きさ
上 下
41 / 182
1章

最期

しおりを挟む

 キキン城、王の間。

 ローマ宮殿の内装を思わせるような豪華な部屋に、いかにも王様って感じの男、キキン国王が座る。
 10メートルほど離れ、ひざまずいたロアンくんが、王様の声で顔を上げたよ。
  
「第一陣185名がツェーンの一層目で全滅? ファースト司令官もか」

 王様が驚いて訊ねる。

「はい。残念ながら全員亡くなられました」

「今回は洞窟の偵察と拠点づくりが目的だが、それすら出来ずにか?」

「ツェーンの結界が、より弱まっていたようで、一層目とは思えないほどモンスターが強すぎて」

「……」

「今後は自衛軍だけでなく、名衛軍も参加しないと無理でしょう」

「それほどまでか」

「はい。自衛軍185名がわずか半日で全滅したのを考えると」

「むう……」

「ツェーン洞窟の入口に出没するボーンキラー・ウルフも、より大型で凶暴になっており、今までのような自衛軍10名体勢のパトロールでは対処が困難かと。
 さっそくパトロールを自衛軍20名と名衛軍1名体勢に変更し、ツェーン付近の住民には、キキンの外区域に引っ越すよう説得しております」

 そうなんだよ、洞窟を出るとき、俺たちは人間化し忘れたんだけど、それでも普通に出ちゃったんだよね。

 ツェーン洞窟の結界は、レベル2以上のモンスターを拒絶したはずだけど、何かが原因で弱まったみたい。 
 説明テロップに『レベル9以上のモンスターを反発する』とあった。
 だからレベル7のポラリスくんも素通りできたんだね。

 ちょうどレベル8のボーンキラー・ウルフが出てきたので、アリシアの短剣で倒しておいたよ。

 それから、俺はロアンくん似のイケメン姿に、ポラリスくんは素朴な青年姿に、それぞれ変身。
 SSたちはボーンキラー・ウルフのマネかな、オオカミに変身して遊んでいたら、偶然ロアンくんがツェーンの様子を伺いに来ていたわけ。

 俺が185名の自衛軍がモンスターに倒された事を告げると、嘘と思ったんだろうね、単独で洞窟に乗り込んで行き――。

 5分後。

 ロアンくんが大慌てで戻って来たよ。
 信じてもらえたみたい。

 ぜひ、俺を国王に合わせたいと言うので、ロアンくん似のイケメンのままでキキン城に入った。
 もちろんSSたちは、小さなオオカミ姿のまま付いてくるけど。

 ポラリスくんには、『洞窟で待機』、洞窟から出てくるモンスターの監視と、可能なら倒しておくように指示したよ。
 もし手に負えない相手だったら俺に知らせるよう、連絡係にSS3匹を残しておく。 
  
 モンスターが、キキンの街を襲ったら、自衛軍でも防ぎきれないからね。
 6匹のSSたちが、誰が残るかでじゃんけんを始めたから、強いもの順に俺が指名しちゃったんだよね。
 


「して、その後ろにおる者が1人で、ボーンキラー・ウルフを倒したと」

 国王の視線が俺に刺さったよ。
 俺がヒジカタの服装(兵士らしくない市民の格好)だから腑に落ちないんだろ。 

「そうです。自分の名前も思い出せないほど記憶が欠落しておりますが、剣の腕は名衛軍(めいえいぐん)のトップより更に上かと」

「ほう……。アゼン国、ロアロク国、いやケズカラ国の鋭士かもしれんな」

「いずれにしろ名のある剣士に間違いはありません。知らずにツェーン内に踏み込み、モンスターとの戦闘で脳を傷つけたかと思われます。記憶が戻るまで、私の自宅で療養してもらうつもりです」

 うまく話せないでいたら、ロアンくんはいい感じに受け取ってくれていたみたい。
 国王も納得したみたいだ。

 ロアンくんが、突然俺に話しを振ったよ。
 王様に挨拶しなさい、って言いたいわけね。

「よろしくお願いします」

「ご苦労であったな。して、そなたは自衛軍の戦いを間近で目にしたのだな」

「あ、はい。争うような声が奥から聞こえてきたので駆けつけると、大勢の倒れたモンスターの中に兵が倒れていました。ひとりひとり、まだ息があるかと調べてゆき――」

 俺は、いかに自衛軍が勇敢に戦い死んでいったかを王様に伝えた。
 サキュバットの餌になっていただなんて、知らなくてもいい。
 もし自衛軍が殺されていなければ、きっと勇敢に戦っていたはずだから。
 兵士ならきっとそうしていたはずだから。

「壮絶な戦いだったようです」

「そうか……。貴重な自衛軍を死なせてしまったな、私は。遺族の者たちに申し訳ない」

「洞窟一層目だと、185名も行けば、誰一人傷つくことなく帰還できるはずです。王様の判断は間違っておりません。結界の強度チエックを怠った私たちの責任です」

 ロアンくんが王様をフォローしている。
 王様は、気持ちが落ち着いたみたい。 

「うむ。……して、アレは……、そなたのずっと後ろにおるのは犬か?」

 SSたちが、くう~~んと犬みたいに鳴いているよ。
 オオカミの鳴き声を知らないよなあ。

「あ、いえ。オオカミでして」

「なんと」

「ですが、大人しく、人間に吠えたり、噛み付いたりは絶対にしませんよ」

「「「く~~ん」」」
 

 ◆


 王様とのお目通りが終わってから、ロアンくんが『私と一緒に来て欲しい家があるのです』頼み込んできたよ。
 
 なんとなく分かる。
 どうアハートさんに、妹と弟が亡くなった事実を伝えたらいいか、困っているわけだね。



 ロダン家(アハートさんの自宅)。 
 
「とても残念ですが、自衛軍の全滅を報告しに参りました」

 居間に通されて早々、ロアンくんが言った。
 アハートさんは、半笑いしていて、ブラックジョークだと思っているんだろうね。
 だけど、ロアンくんの凍りついた顔色は変わらない。
 アハートさんが、物静かにうつむく。

「そ、そうですか……」

 呟いただけ。

「……あ、ごめんなさい。私ったら、お茶をお出ししてないわ。いけない、いけない」

 苦笑いで部屋から出て行き、少しして戻ってきた時には笑顔だった。
 だけどアハートさんの出してくれたコップ。持つ手は小さく震えていた。

「あのう……ファーストとアリシアに、……ふたりに会ったのですか……」

 一口飲んで、下ろした俺に訊ねたよ。
 今の俺はヒジカタではない。ロアンくん似の記憶喪失した他国兵だ。

「はい。会いました。
 ふたりは傷を負い。それでも仲間を避難させるため、しんがりを努めていました」

「そうですか……ファーストとアリシアらしい」

 俺は二人が、いかに勇敢にキキン国のために死んでいったかを伝えた。

 ウソじゃないよ。
 もし、二人が――。
 サキュバットに殺されず生きていたとしたら、この危機に直面していたら、きっとそうしていたと思うから。
 
「瀕死のふたりが、これを姉に渡して欲しいと……」

 そう言って俺はテーブルに置き、アハートさんの前に滑らせた。

「……これは、ファーストとアリシアの」

 アハートさんの薬指にはめられているのと同じ、ロダン家の家紋入り指輪。
 家族全員が大切な時にだけはめる習わしなのだろう。

「なにか、なにか、言っていたでしょうか?」

「『戻れなくて、ごめんね』と」

 アハートさんが涙ぐむ。
 手の平に乗せて、愛おしむように頬ずりをすると、指輪が涙でキラリと光った。
 
「立派な最期でした」




  ひとまず、おしまい


 ~~~~~~~~~~~

 作者あとがき

 最後まで読んでくれてありがとう!
 ヒジカタの活躍? いかがでしたでしょうか。
 ヒジカタとSSたちのお話しは、まだまだ続きてゆきます。
 
 こちらも、よろしくおねがします!
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

鍵の王~才能を奪うスキルを持って生まれた僕は才能を与える王族の王子だったので、裏から国を支配しようと思います~

真心糸
ファンタジー
【あらすじ】  ジュナリュシア・キーブレスは、キーブレス王国の第十七王子として生を受けた。  キーブレス王国は、スキル至上主義を掲げており、高ランクのスキルを持つ者が権力を持ち、低ランクの者はゴミのように虐げられる国だった。そして、ジュナの一族であるキーブレス王家は、魔法などのスキルを他人に授与することができる特殊能力者の一族で、ジュナも同様の能力が発現することが期待された。  しかし、スキル鑑定式の日、ジュナが鑑定士に言い渡された能力は《スキル無し》。これと同じ日に第五王女ピアーチェスに言い渡された能力は《Eランクのギフトキー》。  つまり、スキル至上主義のキーブレス王国では、死刑宣告にも等しい鑑定結果であった。他の王子たちは、Cランク以上のギフトキーを所持していることもあり、ジュナとピアーチェスはひどい差別を受けることになる。  お互いに近い境遇ということもあり、身を寄せ合うようになる2人。すぐに仲良くなった2人だったが、ある日、別の兄弟から命を狙われる事件が起き、窮地に立たされたジュナは、隠された能力《他人からスキルを奪う能力》が覚醒する。  この事件をきっかけに、ジュナは考えを改めた。この国で自分と姉が生きていくには、クズな王族たちからスキルを奪って裏から国を支配するしかない、と。  これは、スキル至上主義の王国で、自分たちが生き延びるために闇組織を結成し、裏から王国を支配していく物語。 【他サイトでの掲載状況】 本作は、カクヨム様、小説家になろう様、ノベルアップ+様でも掲載しています。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

処理中です...