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1章
本拠地
しおりを挟むアイテム収納庫内には、生け捕りしたサキュバットが62匹入っているよ。
さて、後何匹いるんだろうね。
ポラリスくんは例外として収納庫には入れない。
「ポラリスのシッポ、ちょっとおいしいね」
「触覚もなかなかだよ」
「……あのう、SS様たち。飛行の妨げになるので、かじらないでくれませんか?」
「いいじゃん、ちょっとくらい」
「さっき再生できるって、いってたじゃないよ」
「バツだよ、バツ」
「おしおきだよね」
「「うんうん」」
まあ、収納庫に入れなくても、SSたちにイジられて(おやつとも言う)、じゅうぶん気の毒なんだけどね。
◆
「この先です」
そうポラリスくんが示す洞窟の突き当りに、人間がひとり入れるくらいの、扉も何もない入口があった。
「サキュバットの本拠地?」
「そうです」
さっさっ、と俺だけ高速移動。
覗いてみると、野球場ほどの円形で、全ての壁面の岩にはサキュバットの生活が彫刻として描かれていたよ。
素人目でも、けっこう価値ある芸術品に見えるぞ。
見上げると彫刻はおわん型の高さ20メートルほどの天井まであり、その天井にはコウモリ人間がうじゃうじゃ逆さまにぶら下がっていたよ。
かなりキモい。
天井の中心にはくぼみがあり、たくさんのバナナ型の卵と一緒に、一回り大きいサキュバットがいた。
あれがボスだろうね。
引き返して尋ねる。
「はい。そうです。……私たちの生みの親」
ポラリスくんが悲しそうに言ったよ。
「そうか」
「……」
「じゃ、ここから先は、俺ひとりで行くからね」
文句を言い出したSSたちを黙らせて、ポラリスくんと共に1つ前のフロアーに下がらせる。
安全のため、それと、これから始まる光景を見せたくなかったからね、特にポラリスくんには。
皆の姿が見えなくなってから、俺は部屋の中心まで進んで見上げる。
ザワついている、ザワついている。
突然スライムが出現したからね。
「な、なにっ、スライムだと?!」
「あれです! しんがりを殺ったのは」
「異常な速さだ。レアか」
「所詮はスライム。核を傷つければすぐ死ぬ」
「「「おお!」」」
掛け声がした途端、周囲から天井から、サキュバットたちが斬りかかってくる。
ピンチみたいだけど、ヤツらが俺のところに到着するより早く、俺は身体のバネだけで垂直ジャンプし、ボスの隣りの天井にくっついたよ。
「う……はぁ? ああ?」
ボスは半開きの口をカクカクさせ、両眼は俺の前いた場所と今の俺とを行ったり来たり。
スライムらしからぬ身体能力だったかなあ?
20メートル下では、サキュバットたちがポカーンと棒立ち。
取り敢えず硬直していたボスの回復を待つよ。
もいいいかな?
「あのお……、あなたたちサキュバットの事情は把握したつもりです」
「……?」
あれ、様子がおかしい。
「えっと、あなたがサキュバットのボスですよね」
苦笑いして「我こそは王だ」と言ったよ、この大きなサキュバット。
スライムごときが何を言ってる、呆れて物が言えないって感じなんだろうなあ。
まあ良いよ、言いたいことだけは、ちゃんと言わせて貰うね。
「提案なんですけど……。あなたたちが洞窟から逃れ、地上で生活したいのならですね、侵略するのでなく、人間や他のモンスターと共存する方向で、まずは話し合いをしませんか?」
ボスの考え次第で、アイテム収納庫送りにはしないつもりだよ。
「……共存だと」
「はい。せっかく会話ができるわけですし」
「共存。人間とか」
「そうです。助け合って暮らすのは良いですよ」
「……」
おっ?
考えているみたい。
このボス、意外と分かるモンスターかもしれないね。
だったら――。
「ですが、まずその前に。
あなたたちがキキンの民185名の命を奪った――、犯罪の償い、遺族への謝罪を含め、あなたたちに――」
・
・
・
・
・
・
1分後。
がら~んとしたサキュバットの本拠地。
ほぼ全てのサキュバットを、アイテム収納庫に入れちゃったよ。
途中で斬りかかってくるんだもん、全然話にならなかったな。
サキュバットって好戦的な種で、ポラリスくんは例外中の例外だったんだね。
せっかく彫刻の技術は素晴らしいのに。
「なっ……なんなの、早い、早すぎるっ、このスライム?!」
「自衛軍の舎内で同胞を殺ったのはお前だなっ!」
荒い息を吐くこの2名をあえて最後に残したよ。
アイテム収納庫にすら入れるつもりはないからね。
俺が加工した剣をぷるぷる震わせ構える、ファーストとアリシアに化けていたサキュバット。
なんで分かったかって?
それは右手の薬指に、ロダンの家紋入り指輪をはめているサキュバットは、世界中探したってこの2名しかいないからね。
速攻2名を触手でぐるぐる巻きにし、そのまま最高速度でダッシュしたよ。
ギュ――――ンッ、とポラリスくんとSSたちの脇を抜ける。
見えなくなった後方で、「ヒジカタがとおったよー」「いそいでポラリス!」とSSたちが騒いでいるね。
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