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1章
潜入
しおりを挟む高い壁に囲まれたキキン城を含む内区。
いわゆる城壁都市だね。
初めて入ったけど、外のキキン街と全然違う。なんとなく、古代ローマ風だなあ。
キキン街はむき出しの地面に、木組みや草ぶきの家屋が多いけど、この城壁都市は均一な石で舗装された道路に、2~3階の石作りの建物がずら~っと隣接している。
高価なガラス窓や、下水道も整備されて凄いな。
水道管と公共の泉水があるのはキキン街と一緒か。
それに、荷馬車が通る道路とは別に、両端に一段高い歩行者専用道路があるよ。
住人も裕福な貴族が多いみたい。
外の庶民に比べて服装もリッチで、女性は象牙や珊瑚の首飾りをしているよ。
あ……、あの人、ウチでよく魚を買ってくれる人だ。
内区の住人だったんだね。
おっと! いけない、いけない。
見物に来たんじゃなかったね。
急いで引き返し、舎内に入ったら、さまざまな雑音に混じって、ファーストくんとアリシアちゃんらしき声が聞こえてきた。
実は、こっそり軍服の下をスライム化しているので、五感が鋭いんだよね。
声を辿り2階へ。
……違う、3階か。
降りて来る3人の自衛軍と素知らぬ顔してすれ違う。
右から攻撃力。
26、18、21。
そんなもんなの?
ついロアンくんの攻撃力56を基準にしてしまうからかな、3人が弱く感じるよ。
剣術、柔術、槍術、弓術も平均してロアンくんの四分の一だし、あの3人が自衛軍の中で特別弱いってことかな。
まあ、いいや。
1番奥の部屋。司令官室。
ふむふむ……、間違いない、この中から声が聞こえる。
さてどうしよう。
いきなり入って注目されるはイヤだね。
脚の一部を触手化し、ズボンの袖から出して床を這わせ、ドアの隙間から侵入。
先っぽを眼にして内部を観察したよ。
窓に暗幕をして薄暗いけど、スライム眼だから平気。
80畳ほどのフロアーに自衛官が……12名か。
俺が作った剣をテーブルに並べている。
しかし、この暗い中でよく平然と会話を――、あ!
ファーストくんとアリシアちゃん……、いや、もう、片鱗すらない。
衣服と持ち物(俺が渡した短剣)からふたりだと分かる生物――、その頭がコウモリになっていた。
それに、ここにいる全員のステータス表示は、サキュバット。
人間に化けたサキュバットが12名も集まって……なに、いったいどうなってんの?
「新たに加わった同胞たちよ、この中の人間となれ」
ファーストくんに化けていたサキュバットが示す部屋の角には、積み上げられた裸の人間たち。
首を噛みちぎられている。
……死んでいるのか?
一匹のサキュバットが近寄り、ひとりを無造作に引きぬいて、その顔面を凝視すると、みるみる同じ顔と体格に変化した。
「うむ。良いだろう。今日からお前は、この男だ」
そう言ってファーストくんが渡した書類を、変身したサキュバットが目を通す。
「なんだ。家族構成は、俺以外ぜんぶ人間じゃねえかよ」
「その物言い。注意しろよ。お前が成りすますモウメという男は礼儀正しい」
「止めてくれ。どうせなら、全部殺して食って、全員サキュバット構成がイイぜ」
「いずれそうするが、今はまだ早い。洞窟で新たなサキュバットが産まれるまでこの地に潜伏だ」
「へいへい」
残り9名のサキュバットが、それぞれ人間化してゆく。
「これで同胞は185名だ。キキン国を支配する日は近いぞ」
耳をすましていたけど、ファーストくんに化けたサキュバットを頭(かしら)とし、この国の自衛軍2000人を総サキュバット化し――革命。
サキュバットたちによるキキン国の統治。
そして、ツェーンの迷宮の結界を破り、彼らのボス、エインシェントが地上に出てくる。
最悪なシナリオだなあ。
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