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☆告白

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『カミングアウトした愛里ちゃんを見習って、自分も宣言するだけって言ってただろ! チューだけいっちょ前に長い事やりやがって告白はできねーっーのかよ!』

 元K―1ファイター乗っ取られている愛里の心の世界から、マークⅢの急かす声が響いた。
 確かに言った。愛里に告白するつもりで言った。
 K―1野郎の売り言葉に買い言葉、岩田に背中を押されたのもあって、ああなってしまった。

(いや、でも……)

『さっさとコクりなって、こっちに愛里は全員揃っている』

(具体的にどの愛里かを指定して告白しろって要求か。
 いや、それ以前に僕が告白するってどうしてマークⅢが知ってんだ?)

『キモ勇者見てりゃー誰だってわかる―』

 い、いかん。強く思ったら筒抜けになっているし。

「はい。広島駅近くのホテルに中継を頂きましたー!」

 スーツを整えた綾小路がにこやかにマイクを持ってカメラの前に立った。ジャッジメントが再会したのだ。

「実はコマーシャル中に大変なことが起こっていたのです!
 なんとこの坂本氷魔さんが、いきなりあいりんを抱きしめ、嫌がるのを無理やりキスしたのす。小学生に接吻をしたのです――っ!」

 えええええ――――っ!
 何を言い出すこのおっさん!! 
 
「映像があるのでご覧下さい」

 カメラがまわっていたのかっ!

 K―1が僕を暴行しているシーンはカットされ、いきなり鼻血を出し傷だらけの僕が愛里をハグしているシーンから映像は始まった。
 
「見てください。坂本氷魔さんはあいりんさんに抵抗され血だるまになりながら、あいりんさんの口唇を奪っています。
 我々が止めるべきだったのですが、坂本氷魔さんに威嚇され情けなくも躊躇、脚がすくんでしまいました」

 うそつけよ。
 白々しい。
 テレビ画面に映るジャッジメントの東京スタジオは、見学者を含め出演者たちが騒いでいた。
 セナさんと岩田監督が困惑した顔で返答に困っているところからして、いままで僕を養護していたのだろう。
 しかし、僕が愛里に無理やりキスするという決定的に反論弁解できない場面を司会者に質問されて戸惑っているのだ。
 
「愛のないキス。愛のないセックス。二人の化けの皮を剥がしてしまいました――っ!」
 
(愛のないだってー)
(身体だけ目当てってこと? 昼ドラみたいなー)
(ひどーい。そんなわけないじゃなーい!)
(セックスなら中出しでがす!)
(きゃー、えっちーぃ!)
(幼稚園児だからわかりませ~ん♪)

 なぜか頭の中をいろんな愛里が騒いでいる。もう大混乱で僕の頭はパニックだった。

 違う違う! 絶対に違う!

 僕は、僕は……。
 今までもこれからも、それはもう一生かけて、幸せにするつもりで生きている。動いている。考えている。
 大好きな愛里だからこそ、大好きだからこそ、愛しているからこそ――。


 ……まじ?

 ざわついていた世界が嘘のように、ぴーんと張り詰めている。 
 ついさっき、どこからか、女の子の……愛里の……マークⅢみたいな声がした。
 明らかに僕の呟きに反応したって感じだった。
 聞こえたのか? いや……そんなはずはない。
 あれは僕の心の深層に向けたものであって、絶対に声に出して言ってないと確信しているし、心の声でも叫んでいない。
 いないはず……。
 たぶん……。

 なのにどうして? 
 ついに幻聴まで聞こえるようになってしまったのか? 
 今更ながら自分が両手を握りしめ、踏ん張ったポーズで固まったままだったのに気付いて、素知らぬ顔で身体の緊張を解いた。
 現実世界の綾小路、K―1(つまり愛里)、カメラマン二人が停止しているのもおかしい。
 時間が止まってしまったのか? 
 そういえばテレビ画面の映像も写真を貼り付けたみたいにまったく動いていない。
 愛里に近寄って、張り付いたような顔の前で手を振ってみたが、瞬きひとつしない。彫刻のようだ。

(幸せにするつもりで生きているだってーっ、きゃー!)
(身体目当てじゃなく、愛が目当てだったのよー、きゃー)
(わーい、やっぱりー)
(愛しているならセックスでがす!)
(幼稚園児だから嬉しい~っ♪)

 愛里の両目からだ。
 愛里たちの歓声が聞こえる。

(あたしも愛してるーっ!)
(わーい、あたちも!)
(身体で愛しているでがす!)
(幼稚園児でも愛しているよー!)

 信じられないけど事実だ。
 僕は唖然としながら、喧騒を聞いていた。

(ついに言ったなキモ勇者)

 マークⅢだ。
 どうなってるんだ、これ? こっちの世界が止まっているぞ。

(なーに、実際には止まっていない。キモ勇者だけが、キモ勇者の意識だけが、こっちの世界に入っただけ。
 それよか、肝心の部分を聞いてない。言え! いったい誰が好きなんだ?)

 マークⅢの声に混じり、他の愛里たちが騒いでいる。

((((((((そーよそーよ!))))))))
((((((((言わないとわかんなーい!))))))))

 誰って……ぼ、僕は……。

(キモ勇者が好きなヤツが主人格になる!)

((((((((そーなんだー!))))))))

 決められるか!
 誰かを選ぶことなんて出来やしない。
 てか、なんでいまなんだ?
 
(早く、早くしろっ! その一言でたぶん、全てが解決する)

 僕は、僕は……。

 愛里が、愛里たち全部が好きなんだからっ! 

 愛しているんだからっ! 決められるか――――っ!

((((((((きゃー♪ 愛しているだってー!))))))))
(あたちもー!)
(おらもー♪)
(あたしも!)

 愛里12人の声が返ったのを最後にピタリと静かになった。



 やりやがった……。
 
 一番ヘタレな結果で着地か。
 しゃーあんめーな。所詮キモ勇者だっつーの!

 マークⅢが気だるく言い終わったと同時に、沈黙を破って愛里たちが騒ぎ出した。

(きゃーきゃー、なにこれ)

 ばきっ! バラバラバラ!! ポンポン……ポン!

(どうなってるの、ここ!)

 ただ事ではない。
 ゴゴゴゴゴ……と地響きのような音とポンポンという甲高い破裂音。落雷音の後にポンポン。何かが落下するような激しい音が聞こえたかと思ったら、ポンポンポン!
 合間にポンポンという緊張感のない音をたてながら、心世界で何かが起こっている。

 マークⅢどうしたんだ! 
 愛里たちは無事かっ?
 
(まー気にすんな。何人か手足が消えてっけど)

 ええええええええええ!!
 するわい!!

 
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