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★愛里ワールドその7(パパだったんだー)

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 ちょうど勇者さまが猫のクッションを、マークⅢちゃんにプレゼントしている光景が空のスクリーンに映しだされていました。
 
「ほう……、勇者さまは気がききますな。それにあの子も、まんざらではないみたいですセミ」

「うううう……近い。……ちょっと近すぎぃ……うむむむむ……。離れなさい。
 ぐちゃぐちゃ文句を言うんなら、さっさと離れればいいのにっ!
 しれっと《嬉》《楽》《笑》《良》《好》なんて風船を浮かべちゃって、もう!」

「あの子はツンデレですセミ。男は弱いのですセミ」

「もうツンデレ……を……」

「どうされました、アイリさま?」

「女子力の高い女性だけがまれに獲得するというユニークスキル『ツンデレ』。
 女子だったら誰でも憧れる。
 50年修行しても身につかない女子もいるというのに、幼稚園児からずっと心の中に入っていたマークⅢちゃんが、もうツンデレを獲得している」

「大げさですセミ」

「効果は男を痺れさせ虜にする」

「そこは間違ってないセミ」

「勉強してたんだ心の中で。ずっと修行してたんだ。
 努力してたんだ。ああ、あたしも昆虫図鑑ばかり見てないで、塾か家庭教師でも雇って貰えばよかった……。
 アリとキリギリスの心境です」

「アイリさま……」

 ミンミンが疲労したときに見せる仕草――、複眼を緑色に変色させました。

「ミンミン……、同情してくれるの?」

「色んな意味で、早くマークⅢさまを取り込んだほうが良さそうですね」

「そうか、マークⅢちゃんを倒せば、レアスキル『ツンデレ』を労なく獲得できちゃうんだ! そうかそうか」

「ちゃんとした知識をですね」

「知識?」

 ミンミンは大きくため息を吐いて、何か言いたそうでした。
 そして突然、空に勇者さまの声が響き渡りました。

 聞こえているかな……愛里。

 スクリーンに勇者さまのお顔が映りました。
 つまりマークⅢちゃんの目前に、個性的な勇者さまのドアップです。
 なのにマークⅢちゃんは嫌がりません。むしろ幸せの風船を膨らましているじゃないですか!
 女子力が高いと、怖がるのに、場合によっては気絶もするのに、こんな都合のいいとこだけ、あたしと似ちゃって、ま、まあ……いいでしょう。
 マークⅢちゃんもあたしですから、結局はあたしだもん。

 愛里……、愛里……っ!
 僕の声が伝わっているのなら、返して欲しい。

 あっといけない、早くお返事しないと。
 マークⅢちゃんに対抗して、女子力が低くてもできるスキル『良い子ぶりっ子』を発動しました。
 勇者さまと久々のお話し、楽しいな。

 だけどあたしの背後ろから「この勇者、怖すぎ、たまらん」「こりゃ、オスでも引くな」などとモンスターが呟きだしました。
 背中の長剣をぶん回して半分にカットし、「ひええええーっ! だだ、大魔王さま、お……お許しをっ!」と懇願する声を無視してとどめを刺しました。

「アイリさま、ちっとばかし、やり過ぎでは?」

「勇者さまを侮辱する子は、仲間じゃないもん」

「そうですか……」

 しんみりとするミンミンを他所にして、あたしは勇者専用呪文を唱えます。
 
 ライディーン!

「な、なんと……外界の勇者さまに電撃攻撃をするなんて」

「気絶さえすれば、召喚できるもんね」

「それはそうですが……。容赦ないですねアイリさま……本当の大魔王みたいセミ」

「えへへへ、あたし、かしこい?」

 なんでかな。ミンミンは黙っちゃってます。
 早速『アレフカルトに降り立ったようです、大魔王さま』と、震えながらキノコモンスターが報告してきました。

「ありがとうー。特別なご褒美あげるね」

「えっ、あっ……いえ、その」と赤く広げた傘をピクピクさせながら後ずさりするサッカーボールほどのちいさなキノコちゃん。
 いつもモニターを監視しモンスターへの連絡をしてくれています。
 おちんちんに似ているので、けっこうあたしのお気に入り。
 だから、ご褒美(あくしょん・プチ・ばいおれんす・ロウソクたらし)をしてあげる約束をしました。

「め、滅相もない……」

「遠慮しないでいいよー」

 キノコちゃんは震えるほど喜んでいます。よかったー。

 あたしは特別衣装に着替えます。それから、再会のためにわざわざ準備していた特別アイテムを装着しました。
 
「へんしん……っ!」

「ど、どうしちゃったアイリさま! 股間になに付けてるんです!!」

「天狗のお面だよ」

「な、なんで?」

「ママの仕事場から召喚したの」

「泥棒じゃないですか!」

「借りたんだもん。黙って借りただけだもん。後で返すつもりー」

「再会するのに、わざわざ天狗のお面が必要なんですセミ?」

「カッコイイからだもん」

「よ、よく分からないセミ……」

「勇者さまはおちんちんの剣を装備しているでしょう?」

「はあ」

「あたし持ってないでしょ」

「女ですから」

「無いから、欲しくなるもん」

「それで天狗……」 

「どう? 硬くて長いお鼻がかっこいいでしょ。
 上向きに反り返ってくれればもっと素敵なんだけどね。ミンミンも一緒に装着しよっかー」

「人間性を疑われそうですセミ」

「セミだから問題ないよ」

「そういうことじゃなく……」

「勇者さまのおちんちん剣はもっとこう弾力があるなか、しっかりと中に芯があるっていうか、見ているだけで、ぞぞぞぞって感じちゃうのよ。
 触ったりペロペロしたら、もう飛んじゃうもん。
 このお面だとあの効果は再現できないけど、憧れだもの、せめて雰囲気でも、分かる? 分かるよね」

「分かったことにしときますセミ」


 ミンミンの背に乗って、アレフカルトまで移動し、ついに勇者さまを発見しました。

「今回は普通の服を着ているセミ」

「深いお考えがお有りなのよミンミン」

 トイレで便座プレイを楽しまれているように、ロリータ衣装を纏っての羞恥プレイを試されていた勇者さま。
 いまいち興奮しなかったのでしょうか、しっくりこなかったのでしょうか、研究の余地はまだあるようですね。
 あたしも頑張っていろいろ試していますからね。
 
 飛び降りて、勇者さまにジャンピング抱っこしようとした、その瞬間――。

『ちょ! なに寝てんだっつーの! さっさと起きろっクソ勇者!!』

 空のスクリーンにマークⅢちゃん怒りの豪雷が轟ました。
 
『オラオラオラオラ!!』

 勇者さまの顔がビンタで左右に振られ。閉じた目蓋をこじ開けてます。

『おーい! どうせ見てんだろ大魔王。卑怯なマネすんじゃねーし。あたしが起こしてやる。クソ勇者を心の世界からひん戻してやる!』

「あんなこと言ってますセミ」

「うむむむむむ……」

 いっそ愛里の身体にもライディーンを浴びせて気絶させ、この世界に召喚し、親玉マークⅢを直接倒してしまおうかとも考える。
 そのほうが広大な青の世界を征服するより、断然手っ取り早いもの。
 
「いやあ、もうすっかり思考が大魔王ですセミ」

「そんな、褒めなくても」

 黙って5つの目を点にしたミンミンに、「じゃ、やっちゃった方が良いわけね」と参謀役のミンミンに確認したら、「勇者さまに決めてもらったら、どうでしょうか」と冷静な口調で返されました。

「現実世界に戻るのか、戻らないのか――、つまりどっちのアイリさまを助けるのか――、そしてどっちを好きになるのか――、それは勇者さま当人が決断するべきものだと、そう思いますセミ」

「……そうか、そうだよね」

「それに、アイリさまだって、マークⅢさまを取り込むのなら、今まで数々のアイリさまを取り込んできたのなら、自覚を持たなければなりませんセミ。マークⅢさまや、他のアイリさまの意思を継ごうと努力するべきですセミ」

「他の愛里の意思を継ぐ?」

「今、大魔王アイリさまが、早く外の世界に出たいと思っているのと同じように、他のアイリさまだって夢や願いがあったはず。それらを、悪く言えば踏みにじってここまで征服してきたわけです。マークⅢさまの願いはもう分かっているはずですアイリさま」

「えっと……えっと……」

「無意識なのでしょうけど、都合よく天然になってはダメです。薄々は理解しているのに、知らない振りをしては、もうダメです。
 小学5年生なのですから、向き合わないと、それはアイリさまのお母様とお兄様の行為を目撃した事実ともです。
 忘れることでダメージを受けない。天然性格で受け流す。
 アイリさまの人格は心にダメージを受けない。完全無敵でしたが、もうそれも終わりにしましよう」

「ど、どうしちゃったの……ミンミン……まるで、まるで……パパみたい。亡くなったパパみたい……なこと言うの」

「私は、ミンミンは、アイリさまが心の中で作り上げた生き物です。ホネホネも、クモちゃも、みんな亡くなられたお父さまを慕っていたアイリさまのイメージが具現化した生物。
 たぶん私は、アイリさまの考えているお父さま本人のイメージが巨大なセミの姿に抽象化されたのでしょう。
 だからこう話します。お父さまだったら、こう叱ってくれる、諭してくれると、アイリさま自身が望んでいた、ずっと待っていたのです」

「じゃ、ミンミンは……パパ……」

「さあアイリさま。岩田愛里として、立派に行動してくださいね」

 大きなセミの、ミンミンのお顔が、亡くなったパパのお顔そっくりになっていました。

 

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