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★勇者へ告白

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「山柿! 生きてるかーっ!」

 信じられないけど兄さんの声が外から届いてきました。 
 セナお姉ちゃんを寝たままにして、勇者さまの様子を伺いに来たってことです。 
 あたしは美咲のお家に遊びにいっていることになっているから……。あっちゃー、見つかったら大変! 
 早く隠れなきゃ! どこにっ! どこどこ?
 部屋を出て2階の廊下を行ったり来たり、迷っていると、ガラガラとドアの音。

「なんだ。開いてるじゃないか」

 兄さんが入ってきました。もうダメ。
 直ぐそばにおトイレがあったので、急いでドアを開けました。

 途端あたしは、かっち――んと凝固。

 勇者発見!

 パジャマのズボンとパンツを下ろし、眼を吊り上げ、口をあうあうさせている勇者さまが便器に座っているじゃないですかっ! 
 大っきいのをしてたんです! 
 でも何で黙ったままなの? 
 訊ねてる暇はありません。あたしの身体は急いでいた勢いそのまま、トイレの中へと一直線に倒れ込んでいる最中なのですから。
 前方の草むらには、竹の子の里みたいなレベル1のおちんちんがぽつんとありますが、そこへ飛び込むわけにはゆきません。
 おちんちんに、もしものことがあっては一大事ですし、あたしが狙ってダイブした、はしたない女だと思われては侵害です。
 なので、くるりと宙で身体を反転させ、勇者さまに後ろから抱っこさている格好でお膝に着地しました。
 そしてドアをそっと閉じます。

「えっ? えっ! えっ!」

 流石の勇者さまも相当慌て、無理にあたしを退かそうとするので「隠れさせてっ」と腰にある勇者さまの両手をぎゅっと捕まえてお願いしたら、分かってくれたようで静かになりました。  

「へーっ。ここが坂本くんの家なのかー」
「おーい。いないのかー?」
「買い物かなー。勝手に上がらせて貰おうよ建成。ダメかなー」

 セナお姉ちゃんも一緒に来たのです! 

「まずいってっ! このままじゃ。愛里ちゃん愛里ちゃん、早くトイレから出てっ!」(ヒソヒソ)
「だ、ダメです。あたしだって見つかりたくないもん!」(ヒソヒソ)
「いや、でも、しかし、この状況がバレたら……」(ヒソヒソ)
「兄さんが刀を振り回しそう……」(ヒソヒソ)
「セナさんだって、監督だって、流石にこれはっ!」(ヒソヒソ)
「お兄ちゃん。愛里を追いださないで。ここにいさせて」(ヒソヒソ)
「あ……。ももも、もちろん……」(ヒソヒソ)
「あ、ありがとう。山柿お兄ちゃん……」
「……、……」

 お姉ちゃんに見られたら浮気してると思われるかな? 昼ドラの『しゅらば』とかいう凄いケンカになるのかな? それとも……。

 
『二人は肉体関係だったのね……』
『ごめんなさい、セナお姉ちゃん』
『いいわ。わかったわ。ここはウチが身を引いてあげる。ふっ。ウチはモテるから男なんか他にもわんさかいるからね』
『ありがとう、お姉ちゃん』
『愛里……』
『勇者さま……、……あっ、ダメです。こんな所で、そそそそんな』


 やがて、トントンと階段の床を叩く音が響き、ついに兄さんとお姉ちゃんが2階に上がりました。
 勇者さまが後からあたしを強く抱きしめ、その手は微かに震えています。
 あたしも緊張で胸がドキドキして、背中に勇者さまの心臓のドキドキが伝わってきました。

 太ももの裏側がチクチクして、くすぐったくて、そしてお尻にコツコツ当たる……、……コツコツ? 
 何でしょう、硬くて棒状の物があたしのお尻をノックしていますけど。

 これは……おちんちん?

 おちんちんは、さっき見たかぎりでは、ちんまりした可愛いハズなのに……はて、なんで? 
 確認したいですが、勇者さまにハグされているので身動きが取れませんし、今物音を立てるわけにはゆきません。

「あれ? 居ないぞ」

 兄さんの声がしました。勇者さまの部屋の空っぽのベッドを見たのでしょう。

「別の部屋なんじゃない? おーい坂本くーん! ウチが見舞いに来てやったぞー!」

 そして廊下を歩く音がして、トイレの前を通り過ぎ、別の部屋の畳を踏む音がパタパタと。

「何処行ったんだアイツ?」
「大丈夫なの、あの怪我で」
「まあ、山柿は凄まじい回復力を持っているからな。全治2週間っていっても、5日で治すかもしれないな」
「へーっ」

 少しすると、廊下を歩く音、靴を履く音、玄関の開閉音を最後に、シーンと静まりました。留守と思って出て行ったのです。

「「はう~っ」」

 溜め息を吐いたのはふたり同時でした。首筋にむわっと熱い息がかかり、ぞぞぞぞ~っとしました。

「ごめんなさい。お兄ちゃん。緊急事態だったんで」

「ううん。大丈夫だから」

「あの……、もういいんじゃないかな」

 なんのことでしょう。そっか! 

「はい。もう危機は過ぎました。安心ですねー」

「いや、そうじゃなくて。そろそろトイレから出ない?」

 まだ大っきいのを終えてないからかしら。あたしが座っているから出にくいのかしら? 

「あの……あたし重いですか?」

「いや、そんなんじゃないよ」

「そっかー。じゃー大丈夫です。あたしは気にしませんから、どうぞスッキリ出してくださいね」

 そんなことより、勇者さまと会話をしながらも、お尻にコツコツ当たっている硬い物の正体が気になって気になって。
 さっそく足を開いて下を覗いてみると、大きな筒がありました。

「あ……」

 これ、見覚えがあります。
 キノコロボちゃんのレバーです。
 手を伸ばして掴んでみると、熱くて硬くて、ぴくぴくして、やっぱり衣装部屋で触ったキノコレバーなのです。
 レバーの付け根を辿ると……、……、……。ん。あれ?

 勇者さまのちんちんがあった部分。
 これがおちんちん?! あのちんまり可愛いかったやつ? 進化して大きくレバーみたいになったってわけ?

「えっ! あっ、ちょ! 愛里ちゃん? いきなり、どどどど、どうしたのっ!!」

 勇者さまが慌て始めましたが、それ以上にあたしも慌てていました。
 つまりあの衣装部屋にいたキノコちゃんは勇者さまということになるわけで、あたしがぺろぺろしたのは勇者さまの大切なおちんちん。

 あわわわ……。あたしは無礼者でしょうか。
 おちんちんの最終進化形態――最強の武器といわれる勇者の剣(つるぎ)を弄(もてあそ)んでしまった――っ!
 とても良い塩味だな~、などと酢昆布程度に思っていた――っ!
 どどど、どうしょう……。
 救いは噛み付かなかったこと。あのときママが電話してくれて、ほんとうに助かりました。
 きっと勇者さまは、くすぐったかったでしょう。
 いや、歯が当たって痛かったかも。兄さんですらおちんちんは見せてくれないのに、勇者さまは何も言わずぺろぺろまで自由にさせてくれた。
 あたしが楽しむのを、とじっと耐え、無知な小学生のした事だと、広い心で許してくれていたんです。
 まさしく真の勇者。広すぎます心が……。
 
「あああ、あのあの、愛里ちゃん?」

「は、はい……」

「そろそろ、放してくれない、それ……」

「あっ、ご、ごめんなさい……」

 あたしったら触り心地が良い物だから、ついにぎにぎしてしまって、もう最悪ーっ!
 でもセナお姉ちゃんが、きのこレバーを触っていると最後はカルピスが出てくると言っていたけど、本当でしょうか。うーん、謎は深まるばかりです。

「このままじゃ、やっぱりまずいよ。トイレを出たほうが良い」

「えっ。どうしてー?」

 大っきいのが出そうなのでしょうか。

「このままじゃダメ? あ……もしかして、匂いですかー? だったらあたしはぜんぜん気にしませんから。お兄ちゃんのだったら、むしろ……」

 あっ! やだ。なに言ってるんだろう、あたしったらはしたない。

「いやでもね。愛里ちゃん? そもそもなんでここに?」

「はい。怪我をしたゆう――、山柿お兄ちゃんのお見舞いに来たんです」

「そうか。ありがとう……」

「はーい!」

「……、……いや、でもね。やっぱりこのまま僕の膝の上ってのは……」

「そんな、お兄ちゃんは、スタジオまで応援に来てくれたし、いつもあたしに優しいし、……その……」
 
 おちんちんだって、もっと進化するかもしれないし……、カルピスも出るかもしれないし……、なにより気持良いから、このままでいたいのです。
 勇者さまはうーん、と困ったお顔をされています。
 もしかして今がチャンスでは?! このまま気持ちを伝える……。
 こうやって再びトイレで遭遇したのも、きっと運命です。あたしたちはトイレで繋がっていて、だったら記念すべきトイレで告白なんて最高に素敵。
 後の勇者さまは急に黙ってしまって、うううう、と怪しいげな声を出し始めました。
 どうしよう。ドキドキする……。
 密着状態で告白したら興奮され、服を脱がされたりするかも。
 ――あぁ、紐パンティーが悔やまれてなりません。

 縛られるかも。
 ――なんと恐ろしいことでしょう。買ってきた麻縄が大活躍。うきうきしちゃいます。

 さっそくポケットの中からラブレターを取り出しました。
 ヘビ(勇者さまから貰ったマムちゃん)が上手く書けなくて苦労したラブレター。中の便箋には『すきです。つきあってください』とだけ書いてます。

「お兄ちゃん……」

 渡そうと決意し、思い切って膝の上でくるりと身体を動かし、勇者さまと向かい合う形になりました。
 しかし、それが引き金になったのでしょう、勇者さまは「あっ。愛里ちゃん、ちょちょ……わわわっ! ……ごめんっ!」と恥ずかしながら、もりもりと便器に盛大なとぐろを築かれました。
 全てを出し終わると大きく呼吸を数回して、「ごめんね……。ほんとごめんね」ともう一度あたしに謝りながらも、余韻に浸っているのでした。

「ううん、なんともないです。……あたしだって毎日するもん。ぜんぜん大丈夫だから」

 勇者さまは、あたしに大っきいのを見せた自分を責めているのです。

「あたしだって、ゆう――、山柿お兄ちゃんにおしっこをかけたから」

「ああ、そんなこともあったね。……でも愛里ちゃんは小学生で、僕は大人だし」

「そんなの関係ないと思う……」

 よし。だったらあたしも今ここで大っきいのをしてみるー。
 あっと、そうそう、その前にラブレターを渡さないと。 

「あの……これ」

 途端に差し出す手が緊張でぶるぶる震えました。

「え? あ、ありがとう……」

 勇者さまは少し驚いたような不思議そうなお顔で受け取ってくれました。  
 じっとラブレターの両面を見て、中から便箋を取り出して、真剣に読んでくれています。
 そうしてあたしの顔を見てから、また便箋を見ます。首をひねっています。
 小学生のあたしが告白したんですから当然です。でも、よかったよかった。
 ふと気付けば、お尻にコツコツしなくなっていて、下をみたら勇者さまのおちんちんが元の可愛いサイズに戻っていました。まさしく変幻自在。孫悟空の如意棒みたい。だから武器になると言うんですね。
 でも、どんな時に使うのでしょうか、この平和な日本でそもそも何と戦うのでしょうか。不思議です。
 落ち着いたら、勇者さまに訊ねてみようと思いました。
 



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