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★帰宅すると 

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 玄関でクツを脱いでいると兄さんが興奮して飛んできて、「大丈夫だったかっ! 泣いていたらしいじゃないかっ!」と矢継ぎ早に訊ねてきました。

「いじめじゃないだろうな。愛里が有名人になって妬んでいる同級生からじゃないのか。そうだろう。そうに決まっている」

 ブラックが無駄口を叩いたのですね。もーっ!

「大丈夫だから、ほんと」

 兄さんに笑いながらリビングに入ると、ママと一緒にセナお姉ちゃんまでいて、二人に質問攻めされました。
 ママは純粋にあたしが心配だからで、セナお姉ちゃんは「坂本くんが愛里ちゃんを追っていったはずなんだけど知らない? 連絡が取れないのよ、アイツと」などと、心配なのは彼氏の勇者さまみたい。 
 
「うん。ぜんぜん知らない……」

 罪悪感はあるけれど、キッチンで黙ってカルピスをつくりました。

「どこほっつき歩いてんだ、アイツ……」

 おトイレで勇者さまがダウンしていたこと、あたしが会ったことをセナお姉ちゃんは知らない。

 あたしもキスしたんだよ、勇者さまと……。
 これでいっしょ。
 お姉ちゃんといっしょ。 
 それに、勇者さまはセナお姉ちゃんを放っぽいて、あたしを追ってきたんだよ。

 ハミングしながら、カルピスを飲んでいたら、ママとセナお姉ちゃんはお仕事の話題を始めました。 
 セナお姉ちゃんは時々携帯をチエックしたり、勇者さまに電話していましたが、どうしても連絡がとれないみたい。
 夕方になってしまいました。

「おかしい……。いくらなんでもおかしい。アイツがウチからの着信を無視するはずない。きっとなにか起きたんだ。かけれない状況……」

 そうお姉ちゃんが言い出したときに、勇者さまから《今、病院から帰って家で寝ている》と連絡が入りました。
 勇者さまの容態は酷そう。
 早速ママとお姉ちゃんが様子を見に行くそうで、あたしもついて行こうとしたら、「愛ちゃんはお留守番頼むわね」と先に言われてしまいました。えーん。
 ママたちが深刻な顔をして戻ってきたのは、夜の8時ころでした。

 勇者さまはあたしを探していたら、暴行現場に鉢合してしまい全治2週間の大怪我を負ったのだそうです。
 自宅で療養するそうで、秋のドラマの重要キャストに起用していたのを、外さざる負えないか、とママは難しい顔をしています。

「今回を逃すと来年になってしまうな。冬のドラマのどれかに坂本を差し込めないか……」

 セナお姉ちゃんが驚いた顔をしました。もちろんあたしもです。

「どうした? そんなにおかしいか。ゆくゆくは、愛ちゃんとの共演を視野に入れていたのだが……」

「えっ? そこまで買っているんですか……アイツを?」

「坂本を大学在中の4年間で、それなりの俳優のカタチに仕上げるつもりだ」

「いや――――っ、それは凄い」

「そうか?」

「あっ、いえ……監督にはそれなりのお考えがあるのでしょう。
 ただ、打ち上げの時もそうでしたが、あんまりアイツばかり眼をかけると……」

「反感を買うか?」

 いえ、まあ、へへへ、とお姉ちゃんは苦笑いしました。

「それでもまったく構わんよ、私は。間違いなく坂本はA∨以外でもいける。今回のキノコの敵役をやらせてはっきりと分かった。おいおい映画にも出演させてみるつもりだ」

「えらいお気に入りですね。まるで金の卵でも扱うよう。いや、ウチはアイツが好きだから、もちろん嬉しいことなんですけど。でも分かんないなー、どうしてそこまでに? やっぱ同郷のよしみとか?」

「それもあるが微々たるものだ。分からんかセナ、坂本の役者としての価値が」

「はあ……?」

「ふふ……いいか、セナよ。そもそも役者というものは立っているだけで、絵になる人間だ。
 一般人とは明らかに違うオーラを発しているわけだよ。
 集団に紛れていても存在感を際立たせる、そんな役者でなければならん。
 努力ではどうにもならないものだ」

「なるほど……。で、坂本ですか? 
 確かに怖い顔で威圧感は凄いですよね。怖がられるキャラなら最適でしょうが、どうなんだろー、襲ってくるようなレイプ犯人とか、せいぜい今回みたいなサスペンスの犯人役程度しか無理みたいですよー」

「普通ならな」

「何か考えがおありのようですね」

「うむ。坂本がサングラスをかけると、顔の怖さがなくなり、重厚さだけが残る。それにあの軍人ばりの体格だ」

「たしかに、アイツの身体は日本人離れしていますね。顔も彫りが深いし」

「外国の役者なみだ。そしてサングラスを取ればあのインパクト」

「主役でもいけると……?」

「じゅうぶんだろう、演技力さえつけばな。外見は悪だが中身は善のキャラ。しかもあの顔。客が見たらまず忘れないだろう」

「まあ、そうでしょうね。超個性的ですから坂本は……。なるほど、ギャップで魅せる役者ですか。アリかもしれませんね」

「見れば見るほどあの怖さがクセになる。自然と魅力的に感じる。誰も怖いなどと言うものなど居なくなるだろよ」

「たしかに、あの顔で主役をやらせると、話題にもなりますね」

 細かいことは分かりませんが、勇者さまが凄いことになりそうです。

「私は見てみたい。坂本をカッコイイと呼ぶ女連中をな」

「ははは。面白そうですけど、なんかヤダな。恋のライバルが増えそう」 

「だが問題なのは、坂本本人が俳優としての自覚が全くないことだな。今回はたまたま無事だったからよかったが、あれが顔に深いキズでも負っていたら致命傷だ。結果的に婦女暴行を未遂で済ませた功労者だが、まあ坂本らしいといえばらしいが」

「監督がそんなことをお考えだったなんて……。アイツが知ったら驚くだろうな~。ふふふふ」

「とにかく早く身体を治してもらわないとな。盆明けにはドラマの撮影が始まる。少々なら無理してでも働いてもらう」

 あたしを追っていて巻き込まれた……。名前を叫んだのも、きっとあたしが被害に遭っていると勘違いして。
 あたしを助けようとして怪我をしてしまったのです。
 ありがとう勇者さま。
 ありがとう。

 あたしに出来ることは、何かないかしら?
 治癒魔法でも唱えることが出来ればいいのですけど……。

 
 

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