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★勘違い 

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「あたし、あんたの事全然なんとも思ってないんですからっ! 勘違いしないでっ!! 近寄らないでっ!!」

 目を閉じると、すらすら言えるのです。
 でも羽沢くんの反応がない。
 えっ! とか、そそんなぁ……、とか、リアクションがありそうなのに、ショックで声がでないのかも。 
 やり過ぎかも。うーん。
 目を開けると、キョトンとしてます。
 HP満タン、全くダメージを受けてないです。
 あたしに「酷い事言っちゃダメだよ」なんて余裕で注意してます。

 無敵ですかこの男子! 精神力強すぎ! 防御力高すぎ!

「愛里ったら、困った子だなー」

 兄さんの声に振り返ると、

「いいかい愛里。思ってても口に出してはいけない事があるんだよ」

 いつの間にっ! というか、いつから居たのですか、兄さんっ!

 彼女さんに、知らないお兄さんお姉さんまで大勢います。高校が終わるのがお昼と知ってはいましたが、この商店街でなにか催し物でもあるのでしょうか。

「どうしてあんな事言ったんだ? 言われた人が悲しむとは思わなかったのかい?」

 聞かれちゃってます、大暴言。レディと正反対の態度。
 どうして、このタイミングでここにいるの? 見て欲しくなかった。
 ハタ織りを見られた鶴のように、飛んで逃げたい気分。

「えっ? あ、いや……ご、ごめんなさい……っ!」

 羽沢くんがにちゃにちゃ笑みを浮かべていて、もーっ! 腹が立つったらありませんっ!! 

「うむ。愛里が謝ったと言っておくよ。あいつも妹から食らうとは思ってもなかっただろう」

 あいつ? 妹?
 ブラックが他人事みたいに、しみじみ頷いていますが……まさか。
 
「愛里ちゃん。私の彼氏に酷い事を言わないねー」

 彼女さんが苦笑い。 
 私の彼氏……?  
 うそっ!

「……あのぉ……山柿お兄ちゃんは?」

「うむ。フラフラして先に帰った」

 やっぱり。
 ブラックにブチかましたつもりが、勇者さまに向かって暴言を吐いた? 
 勘違いされている。
 ぎゃ――っ! 止めてっ!!
 キョロキョロ周囲を見てもそれらしい姿はありません。

 あうあうあうあうあうあうあう……。
 幻滅されてる――っ!
 折角仲良くなったのに、チクチク以上目前なのに――――っ!

「んっ? 見かけない顔だが君は……」

 兄さんがブラックに気付き話しかけますが、そんなのどーだってイイ!

「はっ! 呉地西小学校三年二組、羽沢耕司(はざわこうじ)と言います。岩田さんとは隣のクラスですが、仲良くさせて頂いていますっ!!」

 にちゃにちゃしていたブラックが、途端にピシっと姿勢を正して一礼しました。豹変ぶり、どう? 
 そもそも、コイツが妙な事をしてくれたから、こうなったのです。くっそーっ、忌々しい。
 最大級の攻撃呪文をぶちかましたいですが、あたしはレディでもない普通の小学生。トホホです。

「ほう。ハキハキしていて、感じ良いな君は」

「はっ! ありがとうございますっ。尊敬する岩田建成(いわたけんせい)さんに褒められて嬉しいです」

 この言葉使い……、益々嫌になるけど、兄さんはまんざらでもないみたいです。
 騙されないで兄さんっ。変人なのよこの男子。
 言えるわけないし……うううっ。

「羽沢くんだったな。君は俺を知っているのか?」

「はいっ! お兄様の出られた高校剣道選手権全国大会の決勝戦。テレビで観戦して感動しました」

 お兄様?!
 その呼び方止めてっ。ブラックを身近に感じて悪寒が……。

「それ以来、お兄様を尊敬しているのです」

「ほう」

 嘘です。絶対に嘘です。
 決勝戦の翌日、学校であたしの兄さんがテレビに出たのが広まって、たぶん耳にしたブラックがダイジェストを見たんだと思います。

「うむ。それは嬉しいな。……で、羽沢くんも剣道をするのかい?」

「……うっ」

 テニス部でーす。やーいやーい!

「僕もお兄様みたいになりたくて、剣道を始めようと思っているのですが、学校には剣道部がなくて、どこかの道場を探しているところです」

 うーん。なんという切り返し。口から出任せにしてはウマ過ぎです。

「うむ。だったら良い道場を紹介しよう。丁度、綾部もいる事だし」

「えっ、私のとこっ?」

「この人の父親が道場をやってて、小学生の初心者も数名だがいる。俺も席を置いているから、どうだ?」

「はいっ! 是非お願いします」

「しょうがないわね。じゃ、パパに言っておこうかしら」

「綺麗なお姉さん、ありがとうございます!」

「……、……」

 どど、どうしましょ。トントン拍子に話しが進んでます。
 それにどうしちゃったの兄さん。
 ぼっちなはずなのに、ブラックとやたらと会話したりして。これってどう見ても気に入っちゃってます。相当お気にい入りになっちゃってます。
 いや、そんな事より勇者さまはっ!? 
 誤解されたままは嫌です。絶対!
 
 


 

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