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☆フィギュアたち

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「じゃあね、山柿お兄ちゃん。今日はとっても楽しかったーっ!」

 山の上公園のてっぺんに差し掛かった滲む夕日。
 見舞いに来た愛里が手をふりふりしながら帰ってゆくのを、僕はぽわわわゎゎ~んとしながら胸の位置で両手を揺らした。
 こんなに綺麗な夕日を見たのはいつだったか。
 あぁ……幸せだなぁ……。

 ほのぼのしていたら、隣の若奥さんが家に入る音で、我に返り恥ずかしくなる。
 デレデレ顔を見られたか。怖顔とミックスされて気持悪い怖顔だったかも。
 えーいっ! どうでもいっ。
 部屋に戻ってクローゼットを開いた。

「凄いだろ……みんな」

 愛里が『今日はとっても楽しかったーっ!』マジで喜んでくれた。
 トイレの出来事を黙ってとお願いされたし、ベッドですごい雰囲気になったのに『今日はとっても楽しかったーっ!』だぞ。
 愛里が長い黒髪を乱し、仰向けになっていたのが目に浮かぶ。

 ムフムフムフ……僕も楽しかったよぉぉぉぉおおっ! 
 
『聖くん、本気なの?』

 彼女たちから声がした。

「なにが」

『愛里ちゃんを好きかってことに決まってるじゃない』

「もちろん。相性ぴったり」

『でも、どこまでなの?』

 そう言われて、僕のほんわかモードは停止した。

 どこまで……。

『彼女にする気ある? 
 恋人によぉ~出来るかなー。
 厳しい聖くんのパパに紹介してぇ~、納得してもらってぇ~。外でデートしちゃうんだー』

 そうだ。
 無理に決ってる……。
 僕の両親はもちろん、岩田や岩田ママにも僕たちを理解させる……、
 だいたい愛里と手を繋いでデートする僕って、まずカップルに見えない。
 幼女連れの危ないロリコンだ。

『ふふふふ。目が覚めたわね。残念だけど身を引くべきよ』
『そうよそうよ。生身の女の子でひどい目に合ったでしょ。忘れたの?』

「でも愛里は君たち(フィギュア)を褒めた。
『綺麗で、凄く可愛い』って。聞いてただろ『もっと見せて』とお願いもしただろ?
 あんな子は日本中探してもいない」

『ふふふふ』

「何がおかしい?」

『愛里ちゃんに惚れられてると決めて話してる。だからよ』

「いや……。見舞いに来てくれたし、ベッドで、あんな感じ……」

『相手は小学生の女の子。無邪気な子供よ?』

 さーっと血の気が引いた。視界が乱れる。
 今日はもう、彼女たちと会話は止めよう。
 クローゼットを閉じて、よたつきながら、ベッドに腰をおろした。

「そうだ……、そうだよ……」

 愛里が僕と同じ気持でいるか――。  
 見舞いに来たのは優しさで、純粋に僕の身体を心配してくれただけ。
 ベッドで見つめ合ったのも、分からずじっと固まっただけかも。小3が性に目覚めているわけ無い。
 愛里は怖顔の僕でも会話ができる優しい子。それだけでも凄いのに僕に懐いている……。
 僕って男は何を期待していた。下心で愛里を愛でていたのか。

 いかんいかん!
 教師を目指す人間の思考じゃないぞ。
 今はK大学入試だ! 勉強だ勉強! 

 参考書、K大入試過去問題集を広げた僕は、何度も浮かぶ愛里を消しながら左手を走らせた。
 
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