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彼氏になって
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綾部さんは眉をひそめて僕の表情をチェックしている。
「でも嫌なのは、私と付き合うのが嫌って事じゃないわよねぇ?
まさかねえ~。うふふふ」
「その通りだ。
僕はあんたと付き合いたくなんか無い」
「まあ、斬新ね。冗談にしては」
「冗談じゃないっ!」
「あら、どうして?
分からないわ。不思議な事があるものねえ?」
しみじみ関心していやがる。
僕が有り得ない発言をしたみたいに考えてやがる。
合格率100%の受験の通知を待っていたような言い方しやがる。
なんちゅー傲慢ぶりだ。
悔しい。悔しすぎる。
そりゃー綾部さんほどの美人から告白されて断るような男はいないだろうが、
だがな……、
だが世の中そんな男ばかりじゃないってんだよ。
「なにか特別な理由があって……、
ああそうだわ!
受験ね。K大受験の合否が心配なのね。
大丈夫だから、貴方がもし落ちても彼女でいてあげるから」
もうブチ切れそうなんだが。
握った拳をもっと強く握りしめた。
「受験は無関係。
はっきり言おう。返事はNOだ!」
「は?」
僕は綾部さんの目を見て言った。
整った日本人形のような白い小顔は、きょとんと固まっていたが、徐々に紅色に染まる。
「嘘でしょ?」
「本当だ」
ふふふっと、照れ隠しで微笑むがぎこちなく崩れている。
「斬新ね。ウケルわ。
止めてくれない、そういうの」
返答をせずに、じっと綾部さんを凝視してやる。
「そうなの?
つまり私は振られちゃったというわけなのかしら」
強気の発言だけど、声は僅かに震えていて動揺が隠し切れていない。
段々と瞳が潤んきた。
あれ? えっ……。
自信満々だったのに。あれっ?
もしかして振られた事が無いのか?
しょんぼりしてしまって。
うっわああっ。泣いているっ! マズっ。
やっぱり女性に厳しい事を言うのは駄目だ。
綾部さんはお嬢様としてチヤホヤ育てられたから、怒られたり自分の意見が曲げられたりした事がないのかもしれない。
大体僕にラブレターを渡すだけで、どれほど回りくどい事をしたことか。
本当はドキドキなのにお嬢様としてのプライドで、今までやせ我慢していたのかもしれない。
見栄を張っていたのかもしれない。
急に湧き上がってくる罪悪感。
「あ、その……、ごめん。悪かった。
何と言うか……僕なんかとじゃ、綾部さんは吊り合わない。
そう言いたかったんだ。うん」
フォローしつつ断ればほど幾分かは傷が和らぐだろうか。
岩田を見ての反面教師だ。
「大丈夫かい?」
すっかり暗くなってしまった綾部さんに声をかけた。
「うん……。
全然大丈夫よ。ありがとう」
言葉とは裏腹に声のトーンは超低い。
俯いたまま綾部さんはポケットから謝罪文を取り出して僕にそっと差し出した。
「もう、これ……返す……。
今日は一日中ごめんなさい」
悲しそうに言い、
僕の手に謝罪文を置いてそのまま額を僕の胸板に付けた。
やった、助かったと湧き上がる感情より、ドキリとしてしまう対女子スキルゼロの僕。
「いいい、いや、その、僕だって悪かったよ。ごめん」
おいおい、胸で泣く気なのか、
こんなの人生で一度あるか無いかの大事件。
まるでリア充じゃないか。
勝手に込み上げてくる喜び。
女性と接触するだけで、こうも節操無く反応してしまう自分が情けなくて腹立たしい。
かといって突き放す事も出来ず、ただ彼女が僕の胸を飽きるまでじっとしているしかなかった。
暮れ行く景色の中、周りの通行人が僕たちを興味深く見やりながら通過してゆく。
「もう少しこのままでいさせて」
「お? お? おおおお、おう……」
かっちんコッチンに硬直してしまって、僕の肩にある綾部さん頭から、ふんわりと良い匂いがした。
学校中の男子から注目されている綾部さんとこんな凄い事をしてしまうなんて……。
早く離れてくれないだろうか。
綾部さんのサラサラの黒髪越し、白い首筋の奥に見えている淡いピンク色のヤツって……、
もしかしたら見てはいけない……、
いやあれは紐だからギリギリセーフか(セーフって何だ?)、
いやいや本体かもしれない。(そもそもブラで見てイイ部分ってあるのか)どっちにしたって、付き合ってもいない僕が、恋人でもない僕が見てイイはずはない。
慌ててそらした先、買い物帰りの近所のおばさんがニヤニヤしながら僕を見ていた。
違うんです、おばさん。
おめでとうじゃーないんです。
ついにやったねーとか思わないでください。
あぁ……もしかしたら……、
とてつもなく勿体ない事をしでかしているんじゃないだろうか……僕は。
奇跡は何度も訪れるものではないから奇跡なのだ。
「ありがとう……。最後に山柿くんにお願いがあるんだけど……」
ようやく僕の胸から離れてくれた綾部さんは、足元を見つめたまま呟いた。
同時に温もりも消えてなくなる。
「なんだろうか……」
なんなりと聞こうじゃないか。
その最後のお願いというのを。
謝罪文も返してくれたのだから。
僕は目いっぱいイケメンにでもなったような錯覚をしていた。
すると綾部さんは子供のような言葉使いで、
「あのね。あたしの彼氏になって欲しいの……」
へ?
「ダメかな?」
懲りてねーっ。こいつ全然こりてねーっ!
綾部さんは両手を合わせて可愛くお願いするのだった。
「でも嫌なのは、私と付き合うのが嫌って事じゃないわよねぇ?
まさかねえ~。うふふふ」
「その通りだ。
僕はあんたと付き合いたくなんか無い」
「まあ、斬新ね。冗談にしては」
「冗談じゃないっ!」
「あら、どうして?
分からないわ。不思議な事があるものねえ?」
しみじみ関心していやがる。
僕が有り得ない発言をしたみたいに考えてやがる。
合格率100%の受験の通知を待っていたような言い方しやがる。
なんちゅー傲慢ぶりだ。
悔しい。悔しすぎる。
そりゃー綾部さんほどの美人から告白されて断るような男はいないだろうが、
だがな……、
だが世の中そんな男ばかりじゃないってんだよ。
「なにか特別な理由があって……、
ああそうだわ!
受験ね。K大受験の合否が心配なのね。
大丈夫だから、貴方がもし落ちても彼女でいてあげるから」
もうブチ切れそうなんだが。
握った拳をもっと強く握りしめた。
「受験は無関係。
はっきり言おう。返事はNOだ!」
「は?」
僕は綾部さんの目を見て言った。
整った日本人形のような白い小顔は、きょとんと固まっていたが、徐々に紅色に染まる。
「嘘でしょ?」
「本当だ」
ふふふっと、照れ隠しで微笑むがぎこちなく崩れている。
「斬新ね。ウケルわ。
止めてくれない、そういうの」
返答をせずに、じっと綾部さんを凝視してやる。
「そうなの?
つまり私は振られちゃったというわけなのかしら」
強気の発言だけど、声は僅かに震えていて動揺が隠し切れていない。
段々と瞳が潤んきた。
あれ? えっ……。
自信満々だったのに。あれっ?
もしかして振られた事が無いのか?
しょんぼりしてしまって。
うっわああっ。泣いているっ! マズっ。
やっぱり女性に厳しい事を言うのは駄目だ。
綾部さんはお嬢様としてチヤホヤ育てられたから、怒られたり自分の意見が曲げられたりした事がないのかもしれない。
大体僕にラブレターを渡すだけで、どれほど回りくどい事をしたことか。
本当はドキドキなのにお嬢様としてのプライドで、今までやせ我慢していたのかもしれない。
見栄を張っていたのかもしれない。
急に湧き上がってくる罪悪感。
「あ、その……、ごめん。悪かった。
何と言うか……僕なんかとじゃ、綾部さんは吊り合わない。
そう言いたかったんだ。うん」
フォローしつつ断ればほど幾分かは傷が和らぐだろうか。
岩田を見ての反面教師だ。
「大丈夫かい?」
すっかり暗くなってしまった綾部さんに声をかけた。
「うん……。
全然大丈夫よ。ありがとう」
言葉とは裏腹に声のトーンは超低い。
俯いたまま綾部さんはポケットから謝罪文を取り出して僕にそっと差し出した。
「もう、これ……返す……。
今日は一日中ごめんなさい」
悲しそうに言い、
僕の手に謝罪文を置いてそのまま額を僕の胸板に付けた。
やった、助かったと湧き上がる感情より、ドキリとしてしまう対女子スキルゼロの僕。
「いいい、いや、その、僕だって悪かったよ。ごめん」
おいおい、胸で泣く気なのか、
こんなの人生で一度あるか無いかの大事件。
まるでリア充じゃないか。
勝手に込み上げてくる喜び。
女性と接触するだけで、こうも節操無く反応してしまう自分が情けなくて腹立たしい。
かといって突き放す事も出来ず、ただ彼女が僕の胸を飽きるまでじっとしているしかなかった。
暮れ行く景色の中、周りの通行人が僕たちを興味深く見やりながら通過してゆく。
「もう少しこのままでいさせて」
「お? お? おおおお、おう……」
かっちんコッチンに硬直してしまって、僕の肩にある綾部さん頭から、ふんわりと良い匂いがした。
学校中の男子から注目されている綾部さんとこんな凄い事をしてしまうなんて……。
早く離れてくれないだろうか。
綾部さんのサラサラの黒髪越し、白い首筋の奥に見えている淡いピンク色のヤツって……、
もしかしたら見てはいけない……、
いやあれは紐だからギリギリセーフか(セーフって何だ?)、
いやいや本体かもしれない。(そもそもブラで見てイイ部分ってあるのか)どっちにしたって、付き合ってもいない僕が、恋人でもない僕が見てイイはずはない。
慌ててそらした先、買い物帰りの近所のおばさんがニヤニヤしながら僕を見ていた。
違うんです、おばさん。
おめでとうじゃーないんです。
ついにやったねーとか思わないでください。
あぁ……もしかしたら……、
とてつもなく勿体ない事をしでかしているんじゃないだろうか……僕は。
奇跡は何度も訪れるものではないから奇跡なのだ。
「ありがとう……。最後に山柿くんにお願いがあるんだけど……」
ようやく僕の胸から離れてくれた綾部さんは、足元を見つめたまま呟いた。
同時に温もりも消えてなくなる。
「なんだろうか……」
なんなりと聞こうじゃないか。
その最後のお願いというのを。
謝罪文も返してくれたのだから。
僕は目いっぱいイケメンにでもなったような錯覚をしていた。
すると綾部さんは子供のような言葉使いで、
「あのね。あたしの彼氏になって欲しいの……」
へ?
「ダメかな?」
懲りてねーっ。こいつ全然こりてねーっ!
綾部さんは両手を合わせて可愛くお願いするのだった。
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