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☆自宅訪問

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 ――綾部さんは僕の部屋を見たいという。

 分からん。何が狙いだ?
 
 はっきりと何か希望を提示するわけでもなく、ただ僕を困らせるだけ。
 きっぱり断るにしても、まずは要件を訊いてからだそう。
 愛里の品位が名誉がかかっているのだから、そういえば愛里はトキメキTVの最終選考まで残っているわけで、これがもし主演レギュラーに選ばれてみろ、一躍有名人だ。
 こんな所で汚点をかぶるわけにはゆかない。

 仕方なく僕は綾部さんを連れて自宅へ向かった。
 綾部さんがお淑やかに僕の真横を歩いている。
 実の所、僕は戸惑っていた。

 初めて経験する事ばかりじゃないか……。
 学校帰りに女子と一緒に喫茶店に入ったのもそうだったが、現在女子と二人で歩道を歩くというのは、どうだろうか……。
 あれは遡ること小学校の体育の授業だろう、女子とペアになって二人三脚をした以外僕の記憶には無い。
 ペアになった女子は体育を休みがちになってしまったが――。

 綾部さんは全然気にせず歩いている。
 超美人の綾部さんの隣には恐怖顔の僕という超不釣り合いな二人なので、通行人に注目されまくっているのにだ。
 こんな空気が読めないところは岩田と良く似ている。
 岩田がもし女性だったなら、綾部さんみたいな女子になるのだろうか。

 僕は以前から綾部さんに疑問があった。
 良い機会だから訊ねてみようと思う。
 それは、

「あの……それにしても、綾部さんは僕の顔が怖くないのですか?」

 という事だった。

「怖いわ」

 やっぱり……。
 正直なご意見ありがとう。

「怖いわりには、表情にあらわれてないけど……我慢しているのですか?」

 綾部さんは僕を見ても、ごく僅かに顔を曇らせることはあるが、直ぐに微笑むのだ。
 怖い顔に慣れているとかだったりして。

「そうね……」

 と言って綾部さんは間をおいた。
 改めて、

「貴方だって、私の顔が素敵だと思わないの?」

 自分で素敵って言ったよこの人。

「ああ、綺麗だと思う」

「綺麗って言うわりには、喜びが足りないように思うのだけど」

 えっ。そう返してくるか!
 まあ、確かに。
 学校でも綾部さんと会話してる男子は、テンションが上げ上げ状態になっている。
 それは認めるが、『喜びが足りない』ってなんだ? 
 僕に小躍りして喜べと言いたいのか?

「それと同じよ」

 何がだ? 

「分かったよ」

「あら、頭良いのね」

「分かったのは、綾部さんが人をいじって遊んだりする性悪美人だってことだよ」 

 満足そうに綾部さんは頷いた。

「それで怒らない山柿くんは、やっぱり頭が良いのね」
 
 僕の精一杯の皮肉もするりと微笑んで受け流すこの人は、厄介この上ない。
 僕と真逆だ。相当恋愛を経験していやがる。
 




 到着した僕の自宅。
「ただいま~」と玄関を開けたら「は~い! おかえり~」と母さんの呑気な声だけが戻ってきた。
 
「おじゃまします~」

 だが綾部さんの声が廊下に響くと、スリッパを鳴らして母さんがぶっ飛んできた。

「えええええっっ!! どうしちゃったのさとしっ! あんたが女の子を連れてくるなんて」

 母さんは手で口を押さえてあわあわしている。少し目に涙を浮かべたりして「ついに、ついになんだね……」と感動しているみたいで、僕の肩をぽんぽん叩いているのだ。
 
 止めてくれ。恥ずかしい。
 母さんにとって悲願だったのか、女の子を連れて来るのが。
 達成になるのか、これが。

「はじめまして、綾部トモコと言います。
 今日は聖くんにお昼おごってもらって、誘われるまま来ちゃいました」

 おいおいおい、元々好感度抜群の上にこの口先だけのセリフ。
 君は大人になっても現代社会をうまく生きて行ける人だよ、ホント流石。

「あら~っ! そうなのぉ? この子ったら家では何にも言わないんだから」

 あ~もう。母さんニンマリ過ぎ。
 そのくだりもウザ過ぎ。

「そーなんですか。うふふふ」

「そーなのよ。うふふふ」

「……、……」

 つまんねー会話だ。

「なんだか、良い匂いですね」

 綾部さんが母さんの趣味を嗅ぎつけたようだ。

「さっき焼き始めたのよクッキー。後で味見してみてくれる?」

「わあ~っ! 楽しみにしてます」

 素直で明るい女の子って感じをビンビンにかもし出している綾部さんは、廊下に上がった僕に続く。
 母さんが用意したスリッパに、軽く笑みで会釈してから足を入れ、振り返って脱いだローファーをそろえ、その隣に僕の靴もきちんとそろえた。
 しっかりチェックしていた母さんが満足そうにうなずき、肘で僕を小突く。
 
「いい子じゃないの」

「そうだね」

 この現象をみるだけなら、僕だってそう思うって。
 
 うーん。
 これから二階の僕の部屋に綾部さんが入るのか……。
 クローゼットの鍵はしっかりと閉めたはずだし、見られて困るようなものは一切ないとは思うが……。

 うーん。



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