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☆妖精との出会い、2

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 ……あれ?  

 硬からず柔らか過ぎず、サクサクとした触感と広がる甘味。
 予想外に美味しいんだけどこれ……。
 クッキーの形こそは素人だが、味はどうしてそこらへんのお店で売っている物と変わらない出来だ。

「あの、これ……、愛里ちゃんがつくったの?」
 
 この子のあどけない顔と小さな身体からは、キッチンでお菓子作りをしている風景が想像できないが。

「はい……」

 どうでしょうか? と心配そうな顔で見上げられる。
 うっわーっ、これまた可愛いんだけどっ!

「いやいや凄い。美味しいよ! ホント。驚いた」

 そう言って直ぐに二つ目を口に入れ、三つ、四つ目と関心しながら頬張った。
 これって僕の母さんのより美味しいんじゃないだろうか……。

「良かったー。ちょっと心配だったんです」

 緊張が溶けるような笑みに、又しても見とれてしまう。
 すると、愛里が中腰になって僕の口端にそっと手を伸ばす。あろうことかクッキーの欠片をつまみ、そのまま気軽くパクリと口の中へ入れて、にっこりとまた微笑んだ。

 まじでっ!!
 
 どっきゅ――――ん、と心臓打ち抜かれ、同時に意識がクラッと遠ざかる。

「えーと……、あのその……あのあの……」

 テンパるか、テンパっているのか僕がっ?? 
 口が別の生き物のように勝手にカクカクと動く。愛里の微笑みにドキドキが止まらない。
 小三女子に高三男子がときめかされてどうすんだっ! 何とか立て直せ僕っ。
 
 必死で糸口を探していると、丁度クッキーの隣に置かれた封筒に目が付いた。

「そそそ、それ、いいね」

「これですか?」

 と愛里の視線が封筒へ向かい、やれやれ一息。見つめられると猛烈に緊張してしまう。大丈夫か自分……。
 再びクッキーに手を伸ばす。何か食べて、口でも動かしてないと精神がもちそうにない。

「うん。とっても素敵だよ」

 努めて冷静そうに振る舞う。
 この子に悟られてはいけない、絶対にこのドキドキを。

「ありがとう。これはお友だちに教えてもらって、画用紙で作ったお財布なの」

「へーっ。そうなの?」

 そう言われれば長財布に見えなくもない。画用紙で出来た財布に、キラキラした折り紙を貼り付けていてとても綺麗だ。
 やっぱり子供だな、と思ったら緊張も溶けてきた。
 よしよし、なんとか持ち直したぞ。
 
「ここに貼ってあるのは、愛里が好きな生き物たちですよ」

「へー」

「まずこれがセミでしょ。これがヘビ。そしてこれがクモ」

 愛里は楽しそうに説明してくれた。そして中が見えるように広げてくれた。すると、おもちゃの紙幣が入っていた以外に――。

「わああっ!」

 突然僕の膝に飛び乗ったムカデ。いや、ゴム製のムカデのおもちゃだ。

「うふふふ」

 愛里は手で口を押さえて笑っている。可愛い。

「びっくりしたよ~」

「ごめんなさい」

「うん、もう大丈夫だ」

 両手でガッツポーズのオーバーアクションをしてみせる。

「よかったーっ。うふふ」

 笑った笑った。可愛い……。
 実はそれほど驚いたわけではなかったのだが、つい愛里を困らせたくて姑息なマネをしてしまった。反省反省。
 
「でもこれ、あたしが大切にしている物なの」

 喜んでいた愛里だったが、すこししんみりした口調になる。

「亡くなったパパが縁日で買ってくれたおもちゃなんです」

 岩田には母親しかいないと知っていたが、父親は亡くなっていたのか……。

「だから、いつも持っているの。このお財布はあたしのお気に入りなので、ムカデさんもここでお休みしているの」

「そうか」

 小さいのにしっかりしているのは、片親だからなのもあるのか。

「じゃ、その羽根も?」

 お皿残ったクッキー三個を全て口に投入。

「いえ、これはママが貰ってくれた物です」

「か、かわ、げふんげふん。か、可愛いねー。へーっ。げふんげふん」

 いかん! クッキーの一部が器官に入った。
 大丈夫ですかー、と心配そうな愛里に差し出されたカルピスを、んぐっんぐっと一気に飲み干す。途中背中をすりすり摩(さす)られていた。

「あ、ありがとう。ははは」

 かっこ悪い。かっこ悪い。超かっこ悪い。
 うおおぉぉっ、何やってんだ僕。
 僕は高校生なのに、年上なのに、相手は小学生なのに、親友の妹なのに……。

「うふふふふっ」 
 
 愛里は口に両手を添え、小さな身体をぴょこぴょこ笑いに合わせて動かせた。
 可愛すぎる。可愛すぎる。それになんて純粋なんだ。
 小三あたりだと皆んなこんな感じ? 
 ――いや違う! この子が、愛里が特別なんだ。

 だけどまずい。まずいじゃないか。
 僕に喜びを見せる幼女なんか初めて出会った。
 二次元じゃない、フィギュアでもない、生身だ。生(せい)ある幼女が僕に微笑むだって?
 こんな嬉しい幼女に出会ってしまったら、諦めていた想いが持ち上がってしまうじゃないか。

 僕は感動しながらキラキラ輝く愛里を見つめた。




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