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仕返し

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 何処か変わった? 

「ねねよ」

「なーに。パパー」

「パパな、身体を鉄にしたんだけど……」

 ノブナガが言った途端、黄色いキノコが右腕を振りかぶった。

「ねねソ――――ドッ!!」

 ざくっ!

「痛――っ! 何すんだ??」

 いとも簡単に貫通してしまった。
 身体はアストロン状(鉄)にはならず、柔らかいキノコのままだった。

「もろいねー」

「言うなよ。
 そう簡単に鉄になるとは思ってなかったんだからー。
 実験だから、実験」

 鉄分を多く含んだ食材に変化しただけのように思われる。
 ねねソードみたいに、身体の一部分だけ鉄に特化するなら可能だろう。
 イメージ通りにはならないのは、レベルが関与しているからかもしれない。 

「ねねよ、そろそろ抜いてくれ」

「はーい!」 

 ならば、4本の脚だけに鉄を《配合》。
 歩行してもミシミシいわない強度のある脚にならないだろうか。
 やってみる。

 ガチッ!

「見ため、変化なし……か」

 ねねに鉄化させた脚を突いてもらった。

「あれ。硬いよパパ」

「うむ。脚の表面を鉄の膜が張り、脚の内部も少し硬くなったようだな」
  
 小走りしてみたが、この脚はしっかりと地面を踏んでいる。
 まずは良しとしよう。
 これがレベル2の限界であり、今後レベルが上がってゆけば、イメージ通りに改造出来ると考えるべきか、それとも、所詮はキノコだから、完全な鉄脚にはならないのか。
 まあ、結論を急ぐ必要はない。

 ただ、キノコ神の指令。
『この世界から、忌々しい豚を一掃するのじゃ。
 人間とキノコが共存する世界にするのじゃぞっ!!』 
 キノコ神の冗談とも思えるドМ命令どおりに、行動するのは癪だけど、
 それでも人間を奴隷にしている豚人間を駆逐する、殲滅してゆくのは大賛成。
 ぜひ、そうしたいものだ。

 ねねのカッターナイフのような腕。己の鉄でコーティングされた脚。
 自身を改造することにより、世界から豚間とんげんの駆逐が本当にできるかもしれない。
 ノブナガは、俄然やる気が出て来るのだった。
 
 早速、改造したボディに慣れる為、荒い夜道をあちこち移動してみたところ、改めてノブナガは4足歩行が疲れにくい歩行だと実感した。
 体重を4つの足に分散するからとても安定している。
 慣れれば犬程度には早い移動も可能だろう。

 速度無視で、安定感を優先するなら、4足でなく6足か。
 いや、いっそムカデのような多足歩行が一番安定するだろう。

 もっとも不安定なのは、立った状態の2足歩行だ。
 移動するたびに長い柄と登頂の傘が左右に揺れてしまう。 
 人間は2足歩行だけど、脚骨に付いた筋肉や、関節の微調整、両脚全体に広がる神経などにより、知らず知らずにバランスを保っている。

 だからキノコであるねねが、いくら足先を鉄製ハイヒールみたいに強度UPしても、キノコは繊維質の集合体だから、体重を支えながらの屈伸運動には向かない。
 そもそも植物は動くようにできていないのだから。

 ねねが2足歩行にこだわるのは、前世の人間だった事がそうさせているのかもしれない。
 本人も自覚していない前世体験。
 ねねの細く長い脚。しなやかな身体のラインは、人間の女性を模している。

「ねねも、4足歩行にしたらどうだ?」

「ううん。あたしはこれがいいのー。
 かっこいいし、綺麗だもんねー」

「そうか。でも、無理すんなよ」

「うん」
  
 ねねの身体が悲鳴を上げなければいいが。
 ノブナガは、少しだけ心配だった。 

 
 ◆


「パパー。その豚間とんげんって何処にいるわけ?」

「ふもとの村だ」

「やっつけに行こうよ!」

「いや、それは」

 ねねに言われ、ノブナガは考える。
 ノブナガが撃退したゴゾンゴの事。人間村の事。

 ナイフが勝手に豚の尻に刺さるわけがない。
 ゴゾンゴは、ミキの家族の誰かが自分の後ろに周り、ナイフを差し込んだ、と考えるだろう。
 従順で無抵抗だった奴隷が、主人に手をかける。
 人間が、主に殺意を抱いていたと。
 日頃の虐げられた扱いに、溜まっていたうっ憤が爆発したのだと。
 
 いずれヤツは、ミキたち奴隷人間を罰しに来る。罰というより見せしめ。
 例えば、気に入らない人間を何人か殺して、豚に歯向かう者は、こうなる、と人間に恐怖を植え付ける。
 ミキたち家族だけにではない。人間村の奴隷たち全員に向けてだ。

「なに言ってんだ、ねね」

 無理だよ、と言いかけてノブナガは止まった。

 ゴゾンゴの生活を見る。
 豚間とんげんたちの暮らしを観察する事で、仕返し阻止のヒントが浮かぶかもしれない。
 いや、そうか。
 
「どうしたのパパ?」

「寝込みを襲えば、可能かもしれない」

「でしょー」

「良いアイデアが浮かんだよ。
 俺たちキノコにとって恐竜のような豚間とんげんでも、簡単に殺せるかもしれない」

「ねねソードで刺して殺しちゃうわけねー」

「いやー、それはどうだろう」

 


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