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日本ですか?
しおりを挟むノブナガは、女の子の胸ポケットに入っている。
ポケットのボタンをされたので、出ることはできない。
出る気はないが。
ほのかに膨らみかけた成長期特有の女の子の右胸は、なんとも温かくて、ミルクのような甘い香りがして、ぷにぷにしている。
ほんのりと膨らんだ胸の先端は、シャツの生地越しだというのに、それでもコリコリした豆突起が感じられた。
ノブナガ・マコト、25歳独身、彼女いない歴25年。
このような未知との遭遇は、人間だったら絶対に体験できない。
できるわけがない。
ひしひしと感激して、キノコでもいい事あるじゃん、とノブナガは心の中で小躍りした。
「やだ、これむずむずするーっ♪」
「もこもこしているね。出したら?」
「気持ちいいから、このままでいいの」
気持ちいいだとっ?!
愛撫をしたわけではない。
ただ、ポケットの中で根を動かしただけ。
皮膚が目であり耳であるというキノコの特徴から、根を細く伸ばしてポケットの隙間から出し、外の様子を伺っているけど。
良いのか?
そ、そんなに良かったのかっ?
ノブナガ・マコト、デートもした経験がない25歳独身、彼女いない歴25年。
たかが、少女に気持ちいいと喜ばれただけで、ハイテンションになってしまったのだった。
ところが――、
根の先端からの映像。
雑木林を抜けると、陽の光が注ぐ田舎の風景がノブナガの眼に飛び込んできた。
山から流れる川のほとりに小さな水田があり、ブタ人間の集落と同じワラの民家がぽつぽつ点在している。
あぜ道に沿って木の電柱が続いていた。
電柱。
つまり電気がある世界。
ノブナガは集落とブタ人間の衣服や持ち物から、ヨーロッパだと中世時代、日本だと戦国時代ていどの水準だと決めつけていた。
もっとも、ブタ人間の集落に持ち込まれたときは、拉致され慌てていたので、電柱があっても気づかなかっただけかもしれない。
ノブナガは女の子のささやかな胸の感触も忘れ、光景に見入ってしまう。
「おかえりー。たくさん採れたー?」
「採れたよーっ!」
女の子たちは、母親らしき女に手を振り、古びた民家に入る。
正面には土間。釜戸と流し。
電気は通っていないようだ。
外の電信柱は、昔のなごり。
ガスはまだらしい。
姉が手際よく薪をくべ、小枝に火をおこす。
水道の蛇口はない。
水は雨水を樽に溜めるか、川に汲みに行くかだろうな。
妹が草履を脱いで向かったのは、奥の部屋。
そこには、ノブナガが見慣れた畳があった。
日本?
日本語といい、やっぱりここは日本。
それに妹は草履を脱いだ。
日本独特の家に上がる作法。
やがて妹が静かに手を合わせるその前には金箔の仏壇。
菊の花と白黒写真。
線香はなく代わりだろう、キノコがお供えされていた。
チーンと懐かしい音が響き渡った。
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