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ワザと

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 どうして安城さんがここに……っ!

 ぼくを尾行してきた? 
 なぜそんな真似を……。

 母さんは驚いた表情で、口を半開きにしたまま黙っている。
 我が子に説教をしようとしたら、いきなり見知らぬそれも金髪の子供が現れ『あたしが悪いんです』と玄関で立っているのだ。

 母さんとしてみれば、説教から徐々に怒り爆発という一連の流れを止められ、拍子抜けしているところだろうし、どういう返答をしていいのか困っているのだろう。

 すると安城さんは母さんに向かって、ぼくに部活案内を依頼したことから、待ち合わせをすっぽかしたことまでを事細かく説明し、いかに自分に不備があったのかを、こんこんと言い募ったのだった。

 凄過ぎる……。
 安城さんにとっては初対面になるぼくの母さん、しかも怒っている時に自分の考えをきちんと伝えるのは簡単じゃない。
 普通なら言いたいことの半分も告げず、大人の意見に流されてしまうところだろう。

 だが彼女は違った。
 凛とした態度で、つらつらと言いのけ、あの厳格な母さんを納得させたのだ。

 こんなマネ……自分にできるか? 
 できるわけない、絶対。

 怒りをぶつけるほこ先が我が子ではなく、既に謝っている他人様の子供になってしまった母さん。
 いくら怒りっぽくても、悪いと自覚している女の子を怒るようなマネはできない。

 結局、妹のお迎え事件は安城さんの大胆な行動でうやむやとなり、ぼくは怒られずにすんだ。
 話しが終ったと理解した妹が、テレビの電源を入れる。
 聴こえる子供番組の笑い声を後ろに、ぼくは思った。

 安城ねねって…………、なんとカッコイイのだろうか。
 外見ばかり良くお金持ちで、何も知らないお嬢様育ちだと思い込んでいたけど、全然違うじゃなか。

 安城さんがぼくとの約束を忘れたことは間違いない。
 だけどそれを償つぐなおうと頑張っていたのも違いない。
 車で送ってくれた事だって……、いまだって。

 たった一度の失敗だけで、彼女の全てを否定してしまったぼくに……、
 あの容姿だけで、つまらない人間と決めつけていたぼくに問題があったのだ。

 ああ……、ぼくは安城さんになんと冷たい振る舞いをしてしまったんだ。
 どう謝ればいい……。

 ぼくはバカだ。
 外見の良し悪しに関係なく、人には長所と短所がある。
 今ごろになって、この当たり前のことに、ようやくたどり着いたなんて……。


 彼女が母さんに簡単な挨拶を済ませ出てゆく。

 何か声をかけなくては……。
 そう思ってはいるのだけど、細い通路、錆びた階段を降りる安城さんを黙って着いてゆくだけのぼくだった。

『ありがとう、怒られるところを助けてくれて』そう言わなきゃいけない、それに冷たい態度をしたことを謝らなきゃいけない。  

 そう頭の中では思い描いているのに、口を通して言葉が出てこない。
 保育園で彼女に怒りをぶつけた手前、どうしても素直にはなれない。
 あっさり手の平を返すみたいで恥ずかしくてなにも言えなかった。

 逆に『そもそも、彼女が待ち合わせに遅れたから、こうなったのだ。だから、ありがたがる必要なんてない』などと、卑劣な考えすら頭に過よぎってしまって、自分がもの凄くちっぽけな人間に思えて情けなくなってくる。

「ごめんね遠山くん。妹を迎えにいかなくちゃいけなかったんだね」

 黙ったままのぼくに、高級自家用車の手前、振り返った彼女は優しく言った。
 それは言ったというより、ぼくから、なにかしらの言葉を期待しているようで。
 だけど、彼女の顔は見れないし、かといって声もかけれない。
 精一杯出たのは、

「そんなこと……」

 だけだった。

 安城さんの穏やかだった青い瞳が徐々に落胆を宿す。
 ぼくの心は押しつぶされそうだった。

「……じゃ、……また明日。学校でね、遠山くん」

 消え入りそうな声で告げた彼女は後部座席に乗り込み、オレンジ色に染めつつある通りを静かに走り去って行く。
 ぼくは車が消えた先を長い間、ただ呆然と見つめ続けた。







部分別小説情報
掲載日2013年 07月16日 16時00分最終更
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