上 下
7 / 11

七話 冒険者になってお金を稼ぎたい

しおりを挟む
「戻ってきてしまった……」

 離れたのは良かったんだけど、身分証明書が必要なことを、あのインパクトのせいで忘れていた。
 お金を稼ぐにも身分証明書が必要なようで、結局ここに戻ってくるしかなく、僕は渋々扉の前に立っている。
 あの後、リアが僕に鞭を振ってきそうで怖かったんだからな……。

「コハク? 早く入ろう?」
「あ、えっと……うん。そうだね」

 すぅ……はぁ。
 軽い深呼吸。
 もう何があっても驚かないぞ!

 ――ガチャ。

「ごめんくださーい……ってあれ?」

 ドアを開けると、そこには先程のようにカオスな光景は目に入らなかった。
 見間違え……?
 それはないか。リアも影響を受けてたし。
 いや、まず受けないで欲しいんだけどね!

「あら、可愛いわね。どうしたの? 何か用事かな?」

 奇麗な人だ。
 翡翠色の髪を後ろで束ねており、目つきはおっとりとしていて、物腰も柔らかそうだ。
 そんな女性が、扉で止まっている僕達に声を掛けてきた。
 僕は、用件を女性に伝える。

「身分証明書を発行したくて」
「うん、お金を、稼ぎたいし」

 リアが僕に続いて口を開いた。
 女性はそんな僕達を見てクスリと小さく肩をふるわせ、微笑みかけてくる。

「女の子二人で来たの? ふふっ、こっちにいらっしゃい」

 女の子二人?
 え、もしかして僕も女の子としてカウントされてる?

「あ、あの! 僕は男です!」
「な、なんですって……っ」

 僕がそう言うと、女性は戦慄を覚えたかのような表情で見つめてくる。
 な、なんでだろう。なんだかゾワゾワする。
 え、まって?

「鼻血、でてますよ?」
「はっ! 私としたことが。ごめんなさいね、つい興ふ……いえ、びっくりしちゃって」

 今、すごく危ない言葉が聞えてきそうだったんだけど!?
 女性はポケットから取り出したハンカチで鼻を拭いている。
 お~い、拭いてるのに鼻血が止まってませんよ~。

「とりあえず、こっちにいらっしゃい。私はここの職員なの、だから手続きしてあげるわ。ささ、こっちこっち」

 右手で鼻を押さえ、左手でて招いてくる。
 僕とリアは女性の後を進んだ。
 
 その先にあったのは、銀行などでよく見る間口のようだった。
 女性は、一度中に入って、テーブルを挟んで僕達と向かいあう。

「はい、これに名前とか書いてねー。文字は書けるかな?」
「書いてもらっても大丈夫ですか?」
「ええ、かまわないわよ。そっちの女の子も私が書いても良いかな?」
「うん、おねがい、します」

 僕達は女性に名前など必要なことを聞かれ、少ししたところで筆が止まる。
 
「よしっ、これで書類は完成ね。ついでに冒険者の登録もしちゃう? お金を稼ぎたいって言ってたし、クエストで薬草を集めるだけでもいいからね」
「えっと、お願できますか?」
「えぇ、まかせてちょうだい。だけど、冒険者になるには、戦闘による実技試験を受けないといけないんだけど大丈夫?」

 実技試験か。
 でも、それなりには強くなってるつもりだから、きっと大丈夫なはず。
 今の自分が、人とどれだけ戦えるのか気にもなるし。

「はい、大丈夫です」
「おっけー、すぐ終わらせるから待っててね~」

 再びすらすらと筆を走らせていく。
 先程と違い、僕達の情報は提示済みのため、早々に書き終わったようだ。

「おわりっと。試験は今からでも大丈夫かな? コハク君は剣士で、リアちゃんは……魔道士かな?」

 僕達の格好を見て判断したのだろう。
 間違ってはいないので、今からでも大丈夫という事を含め、肯定の意味を込めて頷いておく。

「それじゃ、そう伝えておくわね。あと、もし合格すれば、これからはクエストを受けていくと思うんだけど、その時は私の所に来てね?」
「どうしてです?」
「あなた達の担当になりたいのよ。ね、いいでしょ?」
「それはかまわないですけど……」
「うん、いい、よ?」
「やった! それじゃ、ギルドマスターに君達のことを伝えてくるからちょっと待っててね!」

 そういって窓口の奥にある扉に入っていった。
 面白い人だなぁ。
 なんか、憎めないって言うか。
 視線が少し嫌だけど……気のせい……だろうし?

 この ネイヴィアス 世界の冒険者ギルドは変態が多いのかと思ったけど、あの人達だけだったのかな。
 よかったよかった。

『マスター、フラグというものがありましてね?』
(だ、大丈夫。いい人っぽかったでしょ?)
『それはそうですが……いえ、なんでもありません』

 うん、きっと大丈夫なはず……はずなんだ!
 ハクアと頭の中で会話していると、隣に居たリアが僕の袖をつまんできた。

「なにかな?」
「ううん、なんでもない。ほら、戻ってきた、よ」

 どうしたんだろ?
 まぁ、何でもないって言っているし、気にしなくても良いのだろう。
 リアの言ったとおり、奥の扉が開き、女性が出てきた。

「はい、それじゃあ広場に行こっか。そこで試験をするからね~」
「はい」
「うん、良い返事だね。えっと、コハク君の相手は剣士で、リアちゃんの相手は魔道士だよ。同じ職の冒険者が相手してくれるから、遠慮無く頑張ってね!」
「わかりました、ありがとうござます」
「あ、それと大切なことを忘れてた」

 女性は胸に手を当て、口を開く。

「私の名前はロレッタ。これから仲良くしましょうね?」
「は――」
「もちろん……せ・い・て・き・な意味でね」
「ぶはっ!」

 性てっ!?
 何言っちゃってるの!
 それに、危うく返事しそうになったよ!
 
 あぁ、もう……やっぱりこの世界のギルドはおかしいよぅ。

 と、そんな僕をよそに。
 隣に居るリアは、ロレッタさんが何を言っているのかは分っていない様子だった。
 首を小さく傾げて、頭の上にハテナを浮かべてる。

 うん、リアはそのまま純粋なままでいてね?

「ほら、行くよ? 嬉しいのは分るけど、今は試験が先だからね」
「いや、嬉しくないですからね!?」
「またまたぁ、ほっぺた赤くしていっても説得力無いよ~」

 周りに居る冒険者達は、僕のその様子を見てニヤついている。
 くそー……からかわれてるな僕。

 そんなことを考えながら、僕達はギルドの施設の一環である広場に着いた。
 地面は土で固められ、一段高い位置からぐるりと囲む観客席。
 広場って言うよりかは、闘技場に近いだろうか。

 その中心に、二つの人影があった。
 一人は、剣を腰に差し、もう片方は杖を持ってる。
 いかにもってかっこうだな。

「君達が試験を受けに来た子だね。君がコハク君かな?」

 剣を差した方の男が僕に近づいてきた。
 見た感じ、青少年にしか見えない。
 燃えるような赤い髪と、同じ色の瞳をしている。

「はい、そうです」
「それじゃ、少し離れようか。この広場を君とリアさんで半分こだ。わかったかい?」
「分りました」
「うん、それじゃアンナもリアさんに色々教えてあげてて」

 そう言って、少年は杖を持った少女に声を掛ける。
 宝石の方に輝くアクアブロンドの髪を、首で揃えた可愛らしい少女だ。

「うん、わかったよ。そっちも頑張ってね」
「ありがとう」

 二人はそんな会話をして、僕達を誘導する。
 リアが寂しそうに僕を見てたけど、すぐに会えるんだ。
 頑張ってほしい。
 僕はこちらを向くリアに頷いて見せた。
 すると、リアの表情が柔らかくなる。
 よかった。
 
「ここまでくれば、大丈夫かな。もう始めちゃうけど準備は大丈夫かい?」
「はい、大丈夫です」

 そう言って、腰に差していた剣を抜く。
 骨の剣から鉄の剣へ変わっているのは、ここに来るまでに作ったからだ。
 なにやら、リアは加工? が得意らしい。
 道中で見つけた鉄を含んだ石を僕が溶かして、後はリアに任せた。
 何をしているかは見ないで欲しいと言っていたから、行程は見ていない。
 これなら、心置きなく打ち合いが出来るだろう。

 少年が大きく息を吸い込んだ。
 そして、

「さぁ、はじめるよ!」

 そう高らかに宣言した。
 こうして、僕達の冒険者になるための試験が開始されたのだった。


しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。 書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。 【第七部開始】 召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。 一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。 だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった! 突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか! 魔物に襲われた主人公の運命やいかに! ※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。 ※カクヨムにて先行公開中

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

処理中です...