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五話 新たな世界へと
しおりを挟む『グオアアァァァァァァァァァァアッ!』
僕達を見つけた”鬼”は、 人 を見ていなかった。
視界に映るのは己の糧となる食――喰らうべき物だと、血走った目をぎらつかせていたのだ。
そこに人は映らない。映る物は彼の食。
僕はそれを感じ取り、一瞬思考を停止させた。
隣に居たリアも、その場から動こうとしない。いや動けないでいるようだった。
狂い荒ぶるその咆哮に身の毛がよだち、僕たちを恐怖という鎖で縛り上げる。
その間。
ずる、ずる、と大剣を引きずり、鬼は僕たちに近づいてくる。
身体が……心が、野生が――最大限の警報を鳴らしていた。
まずい、このままだとまずい!
鬼が大剣を振り上げる。
もう、だめだ。
だが、その時――動き出す一つの影があった。
「危ないっ避けて!!」
身体に衝撃が走った。
見ればそこにはリアがしがみついている。
僕が動けない中、リアは危険を回避するために動いたのだ。
「た、助かったよリア」
「無事で、良かった……でも、状況は、最悪。まさかオーガ……それも、亜種が出るとは、思わな、かった」
あれがオーガ。
漆黒の体毛と、強靱そうに見える隆起。
二本の角は赤く、血で染まっているようにも見えた。
「戦うしか、なさそう」
「うん。そうだね……戦おう」
それしか生き残る道も、ここから出る道も無いんだから。
僕は剣を構えて対峙する。
オーガはそれを見て、忌々しそうに僕の元へとよってくる。
大人しく食べられとけよと、そうでも言いたげに。
『マスター、リアさんと協力してください』
(うん、わかってる)
僕はハクアの助言に小さく頷き、リアに声を掛ける。
「リア、僕と協力して戦おう」
「うん、まかせ、て。私は支援魔法と攻撃魔法で応戦するから、接近戦はコハクに任せる」
リアは僕の方に手をかざす。
次の瞬間、身体中から力があふれ出してきた。
すごい……身体が軽い。
「よし、行くぞッ!」
僕はその場から一瞬で飛躍し、オーガの懐へと入った。
だが、切りつける瞬間。
視界の隅から、大剣が迫ってくるのが見えた。
僕は剣の軌道を変え、迫り来る大剣を受け流す。
思考演算と、リアの掛けてくれた魔法。
二つが合わされば、こうも戦いやすいのか。
……ガキンッガキンッ。
僕の攻撃がオーガの一撃を受け流す。
大丈夫、剣もまだもちそうだ。
リアが強化してくれたのだろう。
強度が段違いに上昇している。
一瞬の予断もゆるなさい攻防。
激しくぶつかり合った刃からは火花が散り、甲高い音が響き渡る。
「コハクッ、伏せて……!」
「わかったっ!」
リアの声が耳に届き、反射的に伏せた刹那。
すさまじい熱量を持った火球がオーガに直撃した。
それは、大気を焼き。振わせる。
「グオアァァァ……ッ」
オーガに明確な隙。
今だ。今しかない!
イメージしろっ!
剣に炎を纏わせて、一本の大剣と化す。
その姿を!!
脳を焼き切らんばかりに加速させ、イメージを鮮明にしていく。
だめなんだ、この骨の剣じゃコイツの皮を切り裂けない。
早く。もっと早く。そして、確実に!
僕の気持ちが具現化していく。
手元からは赤い魔力があふれ咲き、剣に溶けこむかのように、吸収された。
そして――それは昇華した。
急激に刀身を伸ばし、先程のリアの魔法に負けない熱量を放出している。
いける。これならいける。
だが、油断をするな。
一瞬で、最短で、一直線に――攻撃をたたき込むんだ!
「やあああああああああっ!」
刀身がオーガの右肩に触れた。
それは、焼き付ける炎の熱量で刃を研磨させ。
いともたやすくオーガの身体を切り裂く!
「グオアアァァァァァァァァァァァ!」
豪炎する。
オーガの叫びは次第に消え、右肩が胴体からずり落ちた。
切れ口からは血が出ることはなく、溶解し固まっている。
おわった……終わったのだ。
死闘を切り抜けたんだ。
「おっと……」
ふわっと身体から力が抜け落ちた。
地面に叩きつけられる……はずだったのだが、リアが受け止めてくれたらしい。
痛みの代わりに、柔らかな感触が伝わってくる。
優しいなこの子は。
「お疲れ、コハク」
「うん、リアもお疲れ様。流石に死ぬかと思ったよ」
はは……と疲れながらに僕は笑う。
だが、そんな僕にリアは真剣眼差しを送ってきた。
「もしコハクが死んでたら、私も逃出さずにこ、こで死ぬ覚悟は出来てた、よ」
「……どうして、そんな覚悟を?」
「また、一人になるくらい、なら……せめて最後に出来た友達と、同じ場所で死にたい、から?」
「……そっか。なら、二人とも生きててよかったね。さて、すこしここで休もっか」
少し重くなった雰囲気を変えるべく、僕は提案する。
「うん、そう、だね。私も疲れた……」
こうして、僕達二人の初めての戦いが終わった。
▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △
「そろ、そろ……だよ」
「ふあぁ……やっと」
あれから数日が経過した。
リアの風の加護で出口までの風の流れを発見したらしく、ここまで進んできたのだ。
それはそれは長かった……。
そういえば。こころなしか、壁に繁殖している苔が少なくなっている気がする。
風が通っているからだろうか?
「そこを曲がったら、もう外が見える、と思う」
「あ、ほんとうだ。光が射している!」
久しぶりの光陽に、なぜだか心が躍る。
僕達は光陽の射込んできている外へと、足を進めた。
「んん~~ぅ!! 外!」
「外、だね……!」
清々しい外の風。
久々に嗅いだ新鮮な香りだ。
「さて……と」
これからどこに行こうかな。
まずは街か……それか村か。
何はともあれ、無事に洞窟から出られたことと、リアと出会えたことに感謝して、進んでいこう。
僕とリアは、歩み始める。
これからのことに思いをはせながら……。
こんばんは、作者です。
これにて、洞窟編が終了しました。
さてさてさて。これからコハクとリアは、どんな場所へとおもむき。どんな出会いをして行くのでしょうか?
そして忘れてはいけないクラスメイト達。
ここから世界がどんどん広がっていきますよ~!
では、次回。
またお会いしましょう。
ここまで読んでくださってありがとうございました!
これからも、転生天狐をよろしくお願いします。
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