転生したら人間じゃなくて魔物、それもSSSランクの天狐だったんですが?

きのこすーぷ

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四話 少女と新たな道しるべ

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「女の子……?」

 美しい少女だった。
 四肢を鎖で 縛 いましめられてはいるが、曲線を描いたような肢体をしており。
 炎の光を鈍く反射しているブロンドの長髪は、今はくすんでいるが、以前は奇麗な煌めきをしていたのがわかる。
 蒼色の瞳からは生気が抜け落ちて見えるが、胸元が上下していることから、まだ生きてはいるようだ。
 どうしてこんな所に? この女の子は一体……。

 僕は、そんな疑問を抱きながら、さらに少女に近づいていく。
 すると、今まで微動だにしなかった少女の身体が、ピクリと動いた。
 徐に顔を上げ、ハイライトの消えた瞳で僕を見つめてくる。

「…………」

 少女が口を開いた。だが、なぜだろう……何も聞えてこない。
 それに気付いたのか、少女は唇を噛んだ。口元に血がにじむ。

「……っ」

 悲壮と絶望が入り交じっているような表情。
 どうしてだろう、この子を助けてあげたい。
 こんな表情……どれほどの悲しみや孤独を感じれば出来るのだろうか?

 いつの間にか、僕の手は少女を拘束している鎖に伸びていた。
 じゃらりと、鎖の擦れる音が響き渡る。

(ハクア……この鎖、壊せるかな)
『可能です。何かしらの魔法が掛かってはいますが、対象はその少女です。少女にとっては強固は鎖になっても、それ以外の者にはただの鎖です』

 そっか、なら大丈夫そうだ。
 僕のステータスはかなり高い。
 鎖程度なら、少し無理すれば引きちぎれるだろう。
 僕は鎖を両手で掴む。

「こっの、ちぎれろぉぉぉぉっ!」

 強引に引っ張った。
 鎖の輪が伸び始め、ピキピキと音がし始める。
 あと少し! 僕は精一杯の力を込めた。
 そして――。

「あ……っ」

 ――パリンッ。

 鎖がひきちぎる音。
 鎖はバラバラに砕け散り、宙で散々して消えていった。
 同時に、微かだが少女の声が聞えくる。
 やっぱりそうか。この鎖で声すらも封じられてたんだ……。
 僕は、倒れるようにして状態を崩した少女を受け止めた。

「大丈夫……かな?」

 そっと声を掛ける。

「助けて、くれて……ありが、とう」

 まだ声が出しにくいのだろう、途切れ途切れで少女は話す。

「ううん、気にしないで。ん?」

 僕の袖を少女がぎゅっと握った。
 その手は震えていて、どこか怯えているようにも見えた。
 まるで、小さな子供のように。

 少女が口を開く。

「一人に、しないで? 置いてか……ないで? もう……ひとりぼっちは、いや……だ……っ」

 蒼い瞳に大粒の涙がたまっていく。それは、雫となって頬を伝い流れた。
 ぽろぽろと涙を流し、少女は必死に僕の袖を掴んでいる。
 どこにも行かないで。寂しいのはもう嫌だ。そう訴えかけられているようだった。
 今だけは、この子の側に居てあげよう。
 名前すら知らない子だけれど、泣いている女の子を放っておけない。
 僕は少女の背中に手を回して、優しくさするのだった。



 ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △



「落ち着いた?」
「う、ん。もう、大丈夫……ありが、とう」

 僕たちは、先程の部屋の隅で座っている。
 少女の表情は、拘束されていたときよりすこし柔らかくなって見える。目元が赤いのは、あれだけ泣いたんだ、仕方ない。
 ってうか、改めて見るとすっごく可愛いな。
 無表情ながらに、口元は感情を表すように動くし、羞恥心を感じたときは、頬も赤く染まる。
 泣き終わって少ししたときの、あの恥ずかしそうな顔は忘れられない……!

「ん? どうした、の?」
「あ、いや、なんでもない! と、ところでさ……名前って聞いてもいいかな?」
「うん、問題ない……よ? 私は、リア……よろしく、ね?」
「僕はコハク。よろしくねリアさん」
「むぅ」

 リアさんの頬が膨らんだ。
 あ、可愛い。

「リアで、いい。私も、コハクって呼ぶ、から」
「わかったよ。それじゃリア、ここから移動しよう。そろそろこの洞窟から出たいんだよね」
「ねぇ、コハク……私が何者なのかとか、聞かない、の?」

 リアは瞳を不安の色でいっぱいにして聞いていた。

「うん、聞かない。だって、リアはリアでしょ? まだ出会って数分しか経ってないけど、悪いことをするような子だとは思えない」
「偽ってる、かも?」
「あはは、そうかもしれないね。だけど、いいんだ。この世界に来て初めての友達を大切にしたい。ただそれだけだから」

 我ながら言ってて恥ずかしいな……。
 でも、本心なんだ。
 それに、こんな不安そうな顔をして……この部屋に来たときのあの反応を見てたら、そんな風に思えないよ。
 これで騙されてたなら、その時はその時だ。

「とも、だち……えへへ」

 リアは僕の言葉を聞いて嬉しそうに、はにかんでいる。

「よしっ、それじゃ出発だ……と言いたいけど、道がないんだよね」

 僕は、頭を掻きながら言った。
 すると、リアが口を開く。

「えっと……ねぇ、コハク。あっちの方、なんだけど……地下に入っていく風の音が聞えて、くる」

 僕が魔物と戦闘を行っていた方を指さし、リアが言った。

「風?」
「うん。私、風の加護、もってる……から。たぶん、出口もそっちだと、思う」

 あれ、出口って上じゃなくて下だったのか。
 あのまま落とし穴に落ちないで進んでたら行き止まりだった?
 いや、でも。分かれ道も全部潰してきたし……。
 まぁいいや、後で考えよう。

「ん? 何か考え、事? ほら、こっち」
「あ、うん。今行くよ」

 リアが僕の裾をちょこんと摘まんできた。
 僕はリアに誘導を任せて進んでいく。
 その先には、先程は無かったはずの、地下へと降りることの出来そうな階段が出現していた。
 誰かに誘導されているのでは無いだろうか? そんな疑問が頭の中を駆け巡る。

「行こ?」
「……そうだね」

 だが、この先には出口があるかもしれないとリアが言っていた。
 ならば、まずは進んでみよう。

 足を踏み入れる。
 少し進むと、先程よりも明るい道が現れた。
 壁に繁殖している苔が発光しているからだろう。
 どこか、蛍の光に似ている。

「わぁ、奇麗……」

 横にいたリアが感嘆するかのような声を上げた。
 確かに奇麗だ。だけど、何か空気が違う。
 今までに居た所よりも、重いというか……プレッシャーのような”何か”がある。

「コハクどうした、の? さっきからずっと考え事、している」
「なんだか胸騒ぎがして」
「胸騒ぎ? なんでだろう?」
「わからない。まぁ、今気にしても仕方ないし、とりあえず進もうか」
「うん」

 心の中をざわざわとかき乱す何かに警戒しながら、僕は通路を進んでいく。
 所々に生えた巨大な水晶が、苔の光を取り入れた事によって、僕たちの影を大きく映し出す。
 コツコツと僕とリアの足跡が不気味に響いた。

 いくら何でも静かすぎる……ここには魔物がいないのか?
 僕が――そんなことを考えた瞬間だった。

『グオアアァァァァァァァッ!』
「「っ!?」」

 鼓膜を振わせ壊さんとしてくるような爆声が、洞窟を振動させた。
 ずる、ずる、と何かの引きづられている音が、段々と大きくなる。
 心臓の鼓動が早くなる。

 やばい!

 本能がそう訴えてくる。
 僕とリアはその場で息を殺し、微動だにしない。
 だが、そんな僕たちをよそに、目の前の通路から。

 ――大剣を持った鬼が現れ、僕たちの方を見た。
 

 
 



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