59 / 78
旅立ち
8
しおりを挟む「依頼の時となにも変わんないんだけど」
新しく旅の始まりだ!!と(俺的には)カッコよく出てきたものの、いつもの依頼と変わらない。こう何か違う気持ちがあると思ってたんだけどな。
「まぁそんなもんだろ。次の街に行ったら変わるかもしれないだろ?」
「うん」
まだクアールの街をでて1時間ほどだ。食料も十分にあるし急ぐことでもないか。
「2人は他の街に行ったことあるの?」
「俺は見習い鍛冶職人だった時に親父さんに連れられて、イダイには行ったことあるな。クアールの街は和気あいあいとしてるけど、イダイはなんか厳かって感じだったな」
「厳か?」
「まだ小さい頃だったからそう思ったのかもしれないな。とにかく息が詰まるような場所だったぞ」
そんな街もあるんだな。今の俺には生まれ育った村とクアールの街しか知らないからな。これからもっとたくさんの街や人を知るぞ。
「ネルは他の街に行ったことある?」
「私は奴隷だった頃に色んな場所に行きました」
「あ、ごめん…」
そうだった。ネルは白銀の獅子の奴隷だったんだ。他の場所で売買されていたのだから、知っていて当然だよな。それに気づかずなんて質問したんだろ。
「ふふっ、そんなに思い詰めた顔をしないでください。奴隷時代のことなんて気にしてません。たかが60年生きてるうちのたった10年なんですから。
それにこれからはソラさんが色んな場所に連れて行ってくれるのでしょう?」
「うん!!綺麗な場所に連れていく!!」
「でしたらもう大丈夫です。気にしないでください」
「わかったよ」
ネルはそう言ってくれたがこれからは少し気をつけよう。どうも旅に出れたことが嬉しくて少し気が緩んでいたみたいだ。
それに今は街道を歩いているがいつ魔物が出てきてもおかしくない。気を引き締めないと。
けれど出発してから4日、特に何か起こることも無く順調に旅は進んでいた。
「なんか…思ったよりも拍子抜けだな。もうちょっと魔物とか出てくるのかと思ってたんだけど」
「うん。俺もそう思った」
イダイに行く道は森の近くを通っているため、ゴブリンが出てくることも少なくないそうだ。
けれど俺たちはゴブリンを見かけることは無かったし、探索の範囲内で確認することは出来なかった。
「まぁ何も無いんなら楽できていいな」
「まぁ、そうだけど」
地球には嵐の前の静けさって言葉があるんだよな。何も無ければいいけど。
4日目の昼頃、そろそろ休憩に入るかと考えていたところライドが急に立ち止まった。
「ライド?」
「血の匂いがする…」
「血の匂い?」
俺は全然分からないけど獣人族のライドは俺の数十倍鼻がいい。血の匂いがするのであれば誰か怪我をしているのだろう。
俺の嗅覚では限度があるので、探索魔法を使う。すると2キロ先に魔物と戦っている人達がいるのを見つけた。魔物は1匹だが、人間側が負けているようだ
「いた!!2キロ先。魔物と交戦中。手助けに入る」
「おう」「はい」
それぞれ速度上昇のスキルを使い一気に近づく。探索によって見た魔物の名前。クアールの街にいた頃には見たことない魔物だ。気をつけないと。
10秒後には目視で魔物と戦っているのが見える距離まで来た。負傷者も数名いるようだ。戦っている人は馬車を守るように盾になっている。
「ライドとネルは魔物をお願い。俺は負傷者を助ける」
「おいおい、魔物ってあれかよ」
「あれは…キメラじゃないですか」
そう合成獣だ。この辺りにいない魔物のはずだ。そんならキメラがなぜこんな所にいるんだろうか。それに以前本で調べたキメラは体調2m程だったはず。けれど目の前にいるキメラは4mはありそうだ。
「回復したら俺も手伝う」
「おう」
そのまま二手に別れ俺は負傷者、ライドとネルははキメラへと向かっていく。
「大丈夫ですか。加勢に来ました」
負傷者は3人。どの人も怪我が酷い。骨折している人も入れば、出血が酷い人もいる。すぐさまカバンの中からハイポーションを取り出し怪我人にかけて、ヒールよりも回復力の高いハイヒールを1人ずつにかける。こうすることによって回復力が倍以上になる。
本当なら3人同時に回復できるヒーリングサークルを使う方が魔力も節約できるのだけど、ハイヒールよりも上位の魔法のため人目のある場所で使うのをやめた。それにハイポーション、ハイヒールで回復できる自信もあったし。
思った通り3人の傷は塞がり骨折も元通りになった。しかし失われた血はヒールでは回復しないので戦いに参加することは出来ないはずだ。
まだ意識も戻っていない3人の周りに風魔法で結界を作っておく。つでに馬車にも結界を作る。
これで攻撃されても暫くはもつだろう。
俺はライド達の方に行く。ライドとネル、他に3人の鎧を着た人物たちが戦っている。2人が加わったことによって防戦一方だったのが少しではあるが攻撃も入るようになったみたいだ。
5人が怪我をしていないことを確認し、キメラを鑑定する。
名前:キメラ
種族:魔物
体力:20000/30000
弱点:風
風魔法が弱点か。それなら俺とネルの出番だ。
「“風よ”」
「ギャァァァァァ」
風刃でキメラを攻撃する。やはり普通に剣で切りつけるよりも効果がありそうだ。それを見ていたネルと、鎧の男が風魔法でキメラを攻撃する。その間に残りの3人がそれぞれの武器で斬りつけている。
キメラが攻撃をしそうになると風刃で攻撃をしこちらをターゲットにする。俺に攻撃が向けはネルが攻撃をしてターゲットを移す。集団での戦いでキメラを翻弄する。
残りの体力が少なくなってきた頃、鎧の男が長い詠唱を始めた。これで決めるつもりだろう。
「“ーーー永久を吹く風よ 盟約の言葉により我が手に集い力となれ ブラム・ガッシュ”」
次の瞬間キメラの上空から風の槍が無数に降ってきた。逃げられないようキメラの周り四方に風の結界を張る。
「グギャァァァァァ」
全ての槍を受け止めたキメラは大きな咆哮を残してその場に倒れていった。鑑定しても体力は0。どうやら倒せたようだ。
25
お気に入りに追加
1,325
あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる