転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ

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旅立ち

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「依頼の時となにも変わんないんだけど」

新しく旅の始まりだ!!と(俺的には)カッコよく出てきたものの、いつもの依頼と変わらない。こう何か違う気持ちがあると思ってたんだけどな。

「まぁそんなもんだろ。次の街に行ったら変わるかもしれないだろ?」
「うん」

まだクアールの街をでて1時間ほどだ。食料も十分にあるし急ぐことでもないか。

「2人は他の街に行ったことあるの?」
「俺は見習い鍛冶職人だった時に親父さんに連れられて、イダイには行ったことあるな。クアールの街は和気あいあいとしてるけど、イダイはなんか厳かって感じだったな」
「厳か?」
「まだ小さい頃だったからそう思ったのかもしれないな。とにかく息が詰まるような場所だったぞ」

そんな街もあるんだな。今の俺には生まれ育った村とクアールの街しか知らないからな。これからもっとたくさんの街や人を知るぞ。

「ネルは他の街に行ったことある?」
「私は奴隷だった頃に色んな場所に行きました」
「あ、ごめん…」

そうだった。ネルは白銀の獅子の奴隷だったんだ。他の場所で売買されていたのだから、知っていて当然だよな。それに気づかずなんて質問したんだろ。

「ふふっ、そんなに思い詰めた顔をしないでください。奴隷時代のことなんて気にしてません。たかが60年生きてるうちのたった10年なんですから。
それにこれからはソラさんが色んな場所に連れて行ってくれるのでしょう?」
「うん!!綺麗な場所に連れていく!!」
「でしたらもう大丈夫です。気にしないでください」
「わかったよ」 

ネルはそう言ってくれたがこれからは少し気をつけよう。どうも旅に出れたことが嬉しくて少し気が緩んでいたみたいだ。

それに今は街道を歩いているがいつ魔物が出てきてもおかしくない。気を引き締めないと。



けれど出発してから4日、特に何か起こることも無く順調に旅は進んでいた。


「なんか…思ったよりも拍子抜けだな。もうちょっと魔物とか出てくるのかと思ってたんだけど」
「うん。俺もそう思った」


イダイに行く道は森の近くを通っているため、ゴブリンが出てくることも少なくないそうだ。
けれど俺たちはゴブリンを見かけることは無かったし、探索の範囲内で確認することは出来なかった。

「まぁ何も無いんなら楽できていいな」
「まぁ、そうだけど」

地球には嵐の前の静けさって言葉があるんだよな。何も無ければいいけど。

4日目の昼頃、そろそろ休憩に入るかと考えていたところライドが急に立ち止まった。

「ライド?」
「血の匂いがする…」
「血の匂い?」

俺は全然分からないけど獣人族のライドは俺の数十倍鼻がいい。血の匂いがするのであれば誰か怪我をしているのだろう。

俺の嗅覚では限度があるので、探索魔法を使う。すると2キロ先に魔物と戦っている人達がいるのを見つけた。魔物は1匹だが、人間側が負けているようだ

「いた!!2キロ先。魔物と交戦中。手助けに入る」
「おう」「はい」

それぞれ速度上昇のスキルを使い一気に近づく。探索によって見た魔物の名前。クアールの街にいた頃には見たことない魔物だ。気をつけないと。

10秒後には目視で魔物と戦っているのが見える距離まで来た。負傷者も数名いるようだ。戦っている人は馬車を守るように盾になっている。

「ライドとネルは魔物をお願い。俺は負傷者を助ける」
「おいおい、魔物ってあれかよ」
「あれは…キメラじゃないですか」

そう合成獣キメラだ。この辺りにいない魔物のはずだ。そんならキメラがなぜこんな所にいるんだろうか。それに以前本で調べたキメラは体調2m程だったはず。けれど目の前にいるキメラは4mはありそうだ。

「回復したら俺も手伝う」
「おう」

そのまま二手に別れ俺は負傷者、ライドとネルははキメラへと向かっていく。

「大丈夫ですか。加勢に来ました」

負傷者は3人。どの人も怪我が酷い。骨折している人も入れば、出血が酷い人もいる。すぐさまカバンの中からハイポーションを取り出し怪我人にかけて、ヒールよりも回復力の高いハイヒールを1人ずつにかける。こうすることによって回復力が倍以上になる。

本当なら3人同時に回復できるヒーリングサークルを使う方が魔力も節約できるのだけど、ハイヒールよりも上位の魔法のため人目のある場所で使うのをやめた。それにハイポーション、ハイヒールで回復できる自信もあったし。


思った通り3人の傷は塞がり骨折も元通りになった。しかし失われた血はヒールでは回復しないので戦いに参加することは出来ないはずだ。
まだ意識も戻っていない3人の周りに風魔法で結界を作っておく。つでに馬車にも結界を作る。
これで攻撃されても暫くはもつだろう。

俺はライド達の方に行く。ライドとネル、他に3人の鎧を着た人物たちが戦っている。2人が加わったことによって防戦一方だったのが少しではあるが攻撃も入るようになったみたいだ。

5人が怪我をしていないことを確認し、キメラを鑑定する。

名前:キメラ
種族:魔物
体力:20000/30000
弱点:風

風魔法が弱点か。それなら俺とネルの出番だ。

「“風よ”」
「ギャァァァァァ」

風刃でキメラを攻撃する。やはり普通に剣で切りつけるよりも効果がありそうだ。それを見ていたネルと、鎧の男が風魔法でキメラを攻撃する。その間に残りの3人がそれぞれの武器で斬りつけている。
キメラが攻撃をしそうになると風刃で攻撃をしこちらをターゲットにする。俺に攻撃が向けはネルが攻撃をしてターゲットを移す。集団での戦いでキメラを翻弄する。

残りの体力が少なくなってきた頃、鎧の男が長い詠唱を始めた。これで決めるつもりだろう。

「“ーーー永久を吹く風よ 盟約の言葉により我が手に集い力となれ ブラム・ガッシュ”」

次の瞬間キメラの上空から風の槍が無数に降ってきた。逃げられないようキメラの周り四方に風の結界を張る。

「グギャァァァァァ」

全ての槍を受け止めたキメラは大きな咆哮を残してその場に倒れていった。鑑定しても体力は0。どうやら倒せたようだ。

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