58 / 78
旅立ち
7
しおりを挟むsideティリル
『くそっ、ソラは帰ったか』
『ついさっきね。用事は終わったの?』
ソラ君が帰ったあと、どこからともなくグーフか現れた。あと数分早ければ会うことが出来たのに。彼は本当に甘いものが好きなようでいつもソラ君に創ってもらってるんだから。
『ふん。いつも通りの中身のない集まりよ。なぜお前は免除されてるんだ』
『僕はここの管理者だからね。いつ誰が来るかもわからないし。それにあんな堅物だらけの集まりになんて行きたくないもん』
『我だって行きたくないけどな』
グーフは盛大にため息をつく。よほど集まりたくないんだろう。まぁ僕も絶対に嫌だけど。アイツがいるし…。
神というものは無闇矢鱈に地上に住む人達に関わってはいけないとされている。今回のソラ君みたいな子は別だけど。
それを暇だからと特定の人物の人生を弄っている神が存在する。それが僕の嫌いなアイツだ。何度も注意をしたけど聞く耳もたずだし、神同士の私闘が禁じられているから力づくで辞めさせることも出来ない。
それをいい事にこの数百年好き勝手やっている。ソラ君の魂が地球にいってしまったのも多分アイツのせいだろう。
『そういえばソラは変わりなかったか』
『うん。元気そうだったよ。次の街に行くんだって』
『そうかそうか。奴は中々変わってるからな。我の加護もあまり使ってないようだし』
『そうだったね。エルフの子の時も、里をグーフの加護を使って調べればいいと伝えたのに「勝手に知ることはネルに悪い」と言って調べなかったもんね』
チームを作った日の出来事がよほどこたえたのか、ソラ君の意思はかたかった。僕達も別に本人が知りたくないならと強くは言わなかったけど。
『最近は図書館で勉強もしていたから我の加護を使うことも減ったからな。甘いものを創ってくれなくなったらどうしようか』
『ははっ。普通にお願いしたらソラ君は創ってくれるよ』
ソラ君は優しいからね。人を愛したいし愛されたいと今でも思ってる。彼の周りにはこれからもっともっと人が増えるだろう。その人たちが皆笑っている姿が想像出来る。
『ふんっ。またここに呼んで創ってもらうことにする。我は疲れたから帰る』
『今日来たばかりだからすぐには呼ばないようにね』
来たばかりというのにすぐに帰ってしまった。真っ白い空間にまた1人だ。ソラ君が居なければ机も椅子もない、本当に白いだけの空間。
『じゃあ僕はいつも通り仕事かな』
魂を司る神として、死んで魂となったものが次に生を受けられるようにする事が僕の仕事。その合間にソラ君にあったりグーフ達と話している。
『ソラ君に危険なことが起きなければいいけど』
転生する際にアイツから見つからないよう魂に少し細工をしているから大丈夫だとは思うけど。
他の神に興味を持たないやつだから僕達がソラ君に加護を与えてることも知らないはずだ。この空間に来ていることも知らない。
『旅に出ることになったんだし、アイツの動向にも注意しとかないと』
せっかく今世では楽しそうにしているんだから、人生を謳歌してもらいたい。
ソラ君がアイツにみつからないための方法を、今度グーフにも考えさせないといけないな。
ソラ君の(創ってくれる甘いものの)ためなら頑張ってくれるだろう
sideソラ
次の日…
俺たちは9の鐘がなる前に門の所に来ていた。サリアはまだ来ていない。
さて、どうしようか。このまま出ていってもいいんだけど…
「まさか行こうなんて考えてないよな?」
「ライド?」
「嬢ちゃん来るんだろ?なら待たないと」
「でも本当に来るか分からないし。9の鐘がなる頃ってお店も忙しいだろうし」
「サリアさんなら絶対に来ますよ。待つべきです」
ライドだけじゃなくてネルまでそんなこと言うなんて…。そんなに言うならちょっと待ってようかな。
「ソラー!!」
9の鐘がなる直前、2人が言った通りサリアが走って門のところに来た。お店も忙しいだろうに大丈夫なんだろうか。
「良かった。間に合ったんだね」
「本当は行こうかと思ったんだけど、2人が絶対に来るから待ってろって」
俺の言葉にサリアは溜息をつき、俺の後ろにいるライドとネルに頭を下げている。
そして顔を上げると俺にひとつの袋を渡す。
「なんだこれ?」
「お弁当よ。私が作ったんだからね。ちゃんと今日中に食べてよ」
「サリアが?」
確かサリアは料理が苦手だったはず。 ふとサリアの指を見ると全ての指に包帯が巻かれている。頑張ったんだろう。
「ありがとうサリア。嬉しいよ」
「う、うん。いいのよ」
サリアの気持ちが嬉しくて笑顔で感謝を告げる。サリアは顔を赤くしながら俯いてしまった。
「ソ、ソラ!また戻ってきてね!絶対よ!」
「うん。必ず戻ってくるよ。そしたら会いに行くから」
「絶対!絶対だからね!」
「分かってるよ。もうそろそろ行くね」
何度も言うサリアに驚きながらも約束する。俺としても村を出て初めて住んだこの街は村に次ぐ第2の故郷みたいなものだ。また遊びに来たいと思っている。
俺の言葉を聞いたサリアは安心したように頷いている。
気付けば既に9の鐘がなった後だった。最後にサリアに挨拶をすると俺たちは門を出た。
村を出る時も同じことを思ったかもしれないけど…これでようやく俺の旅が始まった。前回の1人とは違い今度は3人だ。楽しい旅になりそうだな。
胸踊る気持ちを抑えながら、次の街へと出発したのだ。
12
お気に入りに追加
1,281
あなたにおすすめの小説
異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。
称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
裏の林にダンジョンが出来ました。~異世界からの転生幼女、もふもふペットと共に~
あかる
ファンタジー
私、異世界から転生してきたみたい?
とある田舎町にダンジョンが出来、そこに入った美優は、かつて魔法学校で教師をしていた自分を思い出した。
犬と猫、それと鶏のペットと一緒にダンジョンと、世界の謎に挑みます!
水しか操れない無能と言われて虐げられてきた令嬢に転生していたようです。ところで皆さん。人体の殆どが水分から出来ているって知ってました?
ラララキヲ
ファンタジー
わたくしは出来損ない。
誰もが5属性の魔力を持って生まれてくるこの世界で、水の魔力だけしか持っていなかった欠陥品。
それでも、そんなわたくしでも侯爵家の血と伯爵家の血を引いている『血だけは価値のある女』。
水の魔力しかないわたくしは皆から無能と呼ばれた。平民さえもわたくしの事を馬鹿にする。
そんなわたくしでも期待されている事がある。
それは『子を生むこと』。
血は良いのだから次はまともな者が生まれてくるだろう、と期待されている。わたくしにはそれしか価値がないから……
政略結婚で決められた婚約者。
そんな婚約者と親しくする御令嬢。二人が愛し合っているのならわたくしはむしろ邪魔だと思い、わたくしは父に相談した。
婚約者の為にもわたくしが身を引くべきではないかと……
しかし……──
そんなわたくしはある日突然……本当に突然、前世の記憶を思い出した。
前世の記憶、前世の知識……
わたくしの頭は霧が晴れたかのように世界が突然広がった……
水魔法しか使えない出来損ない……
でも水は使える……
水……水分……液体…………
あら? なんだかなんでもできる気がするわ……?
そしてわたくしは、前世の雑な知識でわたくしを虐げた人たちに仕返しを始める……──
【※女性蔑視な発言が多々出てきますので嫌な方は注意して下さい】
【※知識の無い者がフワッとした知識で書いてますので『これは違う!』が許せない人は読まない方が良いです】
【※ファンタジーに現実を引き合いに出してあれこれ考えてしまう人にも合わないと思います】
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。
なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!
冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。
ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。
そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます
里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。
だが実は、誰にも言えない理由があり…。
※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。
全28話で完結。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる