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第2部 学園

第5章 いざ王都へ

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 聖ガルモンド学園クラス分け試験の四日目。俺とアンは学園のある王都に行くために準備をしていた。メリーやアンの専属メイドのラナさんも同じように準備を進めている。
 学園には寮があって、学生はそこで学園にいる四年間、そこで暮らすことになる。この寮は一つの領地につき一棟あり、同じ領地の貴族家の子供は同じ寮で暮らすことになる。もちろん、個別の部屋もあるし従者も一人まで連れて行くことができるので、家族以外の人がいるという点を除けば今までとさほど変わらないだろう。
 驚いたことにメリーも入学するらしい。一応、聖ガルモンド学園は貴族しか入れないので、メリーも貴族の一員ということだ。メリーに話を聞いたところ、彼女は禁忌の森で保護されてからライトア領の男爵家のケルアー家の養子になったらしい。保護してくれたのがケルアー家当主のラウル・ケルアー様だそう。このラウル様は元々平民だったのだが、ライトア領を襲ったドラゴンを退治した功績が認められて、貴族家になることを特例で認められたらしい。そして、魔族であるメリーをどうするかという話になった時、誰もメリーを引き取りたがらなかったらしく自ら養子にすると言い出したらしい(お父様はフィアリー家に入れたかったらしいが、そうすると他の領地からライトア領の他貴族が「何故自分たちのところではなく、領主家に魔族を引き取らせたのか」と、批判を受けるらしいので言い出せなかったのだとか)。それで、お父様はケルアー家に入ったメリーをメイドとして雇ったのだとか。あと疑問になったのがメリーの年齢についてだ。メリーの実年齢は五六なのだが、表向きは一六ということにしているらしい。そっちのほうが色々と都合がいいのだとか。まあメリーは絶対に五六には見えないし、なんなら一四とかでも十分にいける容姿だからなあ。一部を除くけど。
 メリーも「カイ様と一緒に学園に通えます!」と喜んでたし、俺もメリーと学園に通えるのは嬉しいからいいことなんだけど。
「カイ様。終わりましたか?」
「あと少しだよ」
 メリーが部屋に入ってきて声をかけてくる。
 俺の部屋に来るってことは、メリーもう終わったのか? 早いな。女子って色々と必要だろうから準備は時間かかるイメージあるんだけど。
「メリーは終わったの?」
「はい。とっくに」
「早いね」
「まあメイド服と外に出るときの暑苦しい服と制服と下着と寝間着だけなので。まああとは生活必需品ですかね」
「え? 私服とか化粧品とかいらないの?」
「私服なんて持ってないですし、私化粧してませんよ? 触ってみてください」
 メリーに手を掴まれ、彼女の頬を触らせられる。
 すべすべだぁ。いや、触ってもしてるかどうかわからないんだけどね。でもメリーって化粧なしで肌こんなに綺麗で美人なの? 凄いな……。それにしても私服持ってないのか……。王都に行ったらプレゼントしてあげようっと。
「あとは制服入れて……。よし。メリー、終わったよ」
「そうですね。出発は明日の朝なので時間はまだたっぷりとありますよ」
「そっか。じゃあアンの様子でも見に行こうかな」
 嫌な予感するし……。
「わかりました」
 メリーと一緒にアンの部屋に向かう。
「アン、準備進んで……」
「わーん。カイ助けてー」
 部屋に入った瞬間、アンが抱きついてきた。もうこのシチュエーションと柔らかい感触には慣れたな。
「おっと。どうしたの?」
「準備が終わらないよぉ」
 あぁ……。やっぱり……。
 アンは旅行とかお出かけの準備が苦手だもんな……。中高の修学旅行のときも俺が手伝ってようやく終わったからな……。今も洋服やら何やらが部屋中に散らばっている。片付けは得意な方なのに、なんでこういう準備が苦手なんだか……。
「はいはい。手伝いますよ」
「わーい。カイ大好き!」
「わかってますよ」
「むう。冷たいなあ」
 これからの準備に気が重いだけです。
「で、何が終わってないの?」
「全部」
「は?」
「全部」
「まじか……」
 こいつ家事は得意なはずなのに……。まず広げすぎなんだよ。
「はあ……。とっとと準備進めるぞ」
「はーい」
「メリー、申し訳ないけど手伝ってもらってもいい?」
「はい。わかりました」
「じゃあ。この箪笥から見るね」
「え? あ。カイ、その箪笥は……」
 箪笥の引き出しを開け、中にあった衣類を取り出す。それは……、
「へ?」
 アンのブラだった。
「大き……」
「カイ! 見ないで!」
 アンの顔がみるみるうちに赤くなる。
「カイ様。大きいといってもGカップくらいしかないですよ。ちなみに私はHカップです」
 メリーが横に来てそう言ってきた。
 いやGカップって……。十分大きいでしょ……。
「ちょっとメリー! なんでそんなこと知ってるの!?」
 しかもあってるのね……。というかメリーHカップもあるのか……。
「メリーそんなにあるんだ……」
「はい」
 胸を張って自慢げなメリー。胸の話題してるし、メリーの胸が強調されて視線がついついそっちの方に……。
「んー。カイ、どこ見てるのかなー?」
「ア、アンの顔です……」
 頭を固定されて強制的にアンの顔の方を向かせられる。にこにこ顔なのに目が笑ってないのがまた怖い。
「別にカイになら見られてもいいんだけど……。でも、まだキスもしてないし……」
 アンがなにか小声で呟いている。
「え?」
「なんでもなーい。ほらほら、下着は自分でやるからカイは私服の方をお願い」
「お、おう」
「あとで私のブラも見ますか? なんならあげましょうか?」
 メリーが俺の耳元でそう囁いてきた。
「え? あ、いや、いいです……」
 背後からのアンの視線が痛い!
 そんなハプニングもありつつ、アンの準備は進んでいき……、
「お、終わったー。やたー」
「よ、ようやく終わった……」
 ようやくアンの準備が終わった。
 いや、ほんと。アンはいらないものも持ってきて「これいると思う?」っていちいち聞いてくるんだもん。……疲れた。
 色々と散らばっていたものも片付けたから、余計な時間までかかったよ……。
「ありがとう。カイ、ありがとうね」
「おう……。メリーにもお礼言っておけよ?」
「うん。メリー、ありがとう」
「いえ。お構いなく」
 メリー手際よかったな。無言で着々と荷物詰めてたもんな。今も全然疲れている様子ないし。
「よ、ようやく終わりましたか……」
 途中から準備に加わってくれたラナさんも随分と憔悴しきった様子。
「ラナ、手伝ってくれてありがとう」
「いえ……お構いなく……」
 台詞はメリーと同じはずなのに受ける印象が違うのはなんでだろう……。
「ラナさん、うちのアンがすみません」
「カイ!? どういうこと!?」
「大丈夫です……」
 ああ……。不憫だ……。
「そういえばラナさんも昔、聖ガルモンド学園の生徒だったんですよね?」
「はい……。もう五年も前のことですがね」
「どんなところなんですか?」
「ふふ……それは行ってみてからのお楽しみです。私も初めて行ったときは驚きましたよ」
「「へー」」
 あ、そういえば。
「そういえばアン。化粧品とか荷物に入れてなかったけど大丈夫なの?」
「え? 私いつもすっぴんだけど?」
「……」
 お・ま・え・も・か。
「どうしたの?」
「……何でもないです」
 アンとメリーは何なの? すっぴんでこの可愛さは犯罪じゃない!?
「はぁ。疲れた。俺はお風呂入るよ」
「あ、私も入ろうっと」
「じゃあ私も入りますね」
「え? メリーも入るの?」
「はい。今日の仕事は終わっていますし」
「……前みたいに冷たい水かけないでよ?」
「約束できかねます」
「そこは約束してよ!」
 キャーキャーと騒ぎ出す二人(主にアン)。もう仲裁するのも面倒だから放置しよ。……ラナさん。そんなに懇願するような瞳で見られても仲裁はしませんから。さてさて、お風呂でゆっくりしますか。

 朝。いつも通りメリーの胸元に抱かれた状態で起きた。いつもより早い時間。まだ若干眠い。
「メリー。そろそろ起きないと」
「んぅ……。ん……」
 むぎゅぅ
「あ、あのメリーさん?」
 ネグリジェがずれて胸が見えそう。見えそうだって。
 いっこうに起きる気配がないメリー。
 仕方ない。最終手段だ。
「メリー。お・き・て」
 むにぃ
「カイひゃま、いひゃい。いひゃいれふ」
 頬をつまむとメリーは涙目になりながら目を覚ました。
「むぅ。もうちょっとカイ様を堪能してもいいじゃないですか……」
「そんなことしてる暇ないでしょ? 遅れるよ?」
「はい……」
 ベッドから降りてそのまま着替えようとするメリー。
「ちょ。なんでこの部屋で着替えるの?」
「別にいいじゃないですか。学園行ったら毎日同じ部屋で過ごすんですよ? 気にしてたら生活できませんよ」
「そ、そうだね」
 メリーに背を向けて俺も着替える。むっちゃドキドキした。
 着替え終わったらアンやメリー、ラナさんと一緒に朝食を食べる。
 そして出発の時。
 見送りにはお父様、お母様、マーサや執事長のロバートさん。その他大勢が来てくれた。
「向こうでも元気でいるんだぞ」
「怪我や病気には気を付けてね」
「はい」
「長期休暇には戻ってきますから」
 そんな長い別れでもないしね。
「アンお姉ちゃん、カイお兄ちゃん。私も二年後に行きますから待っていてくださいです」
「うん。待ってるね」
「マーサも頑張るのよ?」
「はいです!」
「ところでお父様。護衛とかっていないんですか? いや、まあ大丈夫だと思うんですけど」
「まあ……メリーがいるから大丈夫だろう」
「へー。メリーってそんなに強いんですか?」
「それは本人に聞いてみるといいぞ」
 メリーの方を見る。
「道中で機会があれば」
「うん。楽しみにしてるね」
 メリーと囁きあう。
「そろそろ時間だぞ」
「そうね。二人ともいってらっしゃい。ラナ、メリー、二人をよろしくね」
「「はい!」」
「「かしこまりました」」
 こうして俺達四人は王都に向けて出発した。

 ライトア領はガルモンド王国の南の端にある領地なので、中央に位置する王都までは結構距離がある。馬車だと一日半かかるのだ。
 ライトア領を出て街道に出た。この街道はガルモンド王国全土に張り巡らされていて、基本的にすべての領地に行けるそうだ。街道の脇には森や野原、山などがある。そこには魔獣が棲息していて、行商人などを襲う被害がたまに起こっている。ボーッとしながら街道を進んでいると、気が付いたら道をそれていて魔獣に囲まれていた、ということがあるとか。誰かが襲われる度に付近の領地の貴族家が駆除に来ているらしい。
 馬車の中で俺はアンとメリーに挟まれて座っていた。
 三人掛けの席が二つあるんだから、二人ずつ座ればいいのに……。
 最初はどちらが俺の隣に座るかでもめていたが、ラナさんの「三人掛けですし、二人がカイ様の左右に座ればいいのでは?」という一言でこのような形になった。
 馬車に揺られながら、俺達は周囲の風景を眺めていた。
「わぁ。カイ、馬車がいっぱいだよ!」
 アンが興奮している。珍しい。こんなに多くの馬車を見る機会が無かったのかな?
「そうだね。ほとんどが行商用の馬車じゃないかな? あとは人の移動用かな」
「なるほど……」
 アンが物珍しそうに外を見ている。
「メリーには前聞いたけど、アンってあまり外に出たことないの?」
「そうだねー。基本的に屋敷にいたね。特に不自由なことはなかったし」
 アンは箱入りのお嬢様のようだ。
「ところで、メリーには前聞いたって……いつのこと?」
「え? ああ。前に元の家族に会いに行った時かな……ってアンさん、顔が怖いよ!?」
「……で?」
「え?」
「なんで、私は連れて行ってくれなかったのに、メリーは連れて行ったの!?」
 アンが俺の肩を軽く揺さぶりながら叫ぶ。
 痛いです。頭が揺れて痛いです。
「それは、アラン様が私を連れて行くようにカイ様に仰ったからですよ」
 俺の代わりにメリーが答える。
「……カイ、次行くときは私も連れて行ってよ」
「それはいいけど、長期休暇まで待ってね」
 そう言うとアンは明るい表情をして
「うん!」
 と頷いて、俺の手を握ってきた。
 機嫌が直ったようでなにより。やっぱりアンは笑顔の方が可愛いな。手を握ってくるのは予想外だったけど。
 俺とアンが手を繋いでいる姿を見て、メリーが羨むような、でもそれを抑えるような表情をした。
 ふむ。
「ほら」
「!?」
「手、繋がないの? そういう風に見えたんだけど……違った?」
「え? いえ、違くはないんですが……。じゃ、じゃあお言葉に甘えて……」
 メリーの顔が真っ赤になる。耳の先まで真っ赤だ。
 普段は結構アピールしてくるのに、こういう時は恥ずかしがるのか。照れているメリーを見るのは新鮮だな。
 両手にアンとメリーの温もりを感じる。
 幸せだなぁ。
「両手に花ですね」
 ラナさんがからかってくる。
「ラナさん……、反論できないから言わないでくださいよ……」
 くすっ
 俺の返答にアンとメリーが同時に笑った。

 お昼頃。
 ぐう~
 アンのお腹から可愛らしい音が聞こえてきた。
「お腹減ったの?」
「うん……」
「まあ普段なら昼食食べてる頃だもんね」
「調べたところもう少し行くと野原があるそうです。馬車に乗る前にサンドイッチを作ってきたので、休憩がてら昼食にしませんか?」
 メリーの言葉にアンが目を輝かせた。
 数分後。野原に着いた俺達は馬車を降り昼食を食べ始めた。
「こういうの、なんかピクニックみたいでいいね」
「ピクニクみたいというか、ピクニックだけどな」
 メリーの作ってくれたサンドイッチはとても美味しい。
「メリー、また腕を上げましたね」
「恐縮です」
 ラナさんがメリーを褒める。メイド間の上下関係が垣間見えた気が……。
「そういえば、ラナさんってライトア領出身なんですか?」
「いいえ。私はライトア領の隣のクトゥル領出身です。伯爵家の娘ですよ」
「へー」
 伯爵家か。メリーよりも貴族社会では立場が上だからああいう上下関係もあるのかな?
「そういえばラナさんのことって全然知らないですね。色々聞いてもいいですか?」
「ええ。いいですよ」
「じゃあ……好きな人とかいないんですか?」
「私、結婚してますよ?」
「え?」
「カイ気づいてなかったの? 執事長のロバートとラナ、夫婦なんだよ?」
「……」
 知りませんでした……。ロバートさん、若いのに執事長という超優秀な人材なのに、浮いた話を聞かないなあと思っていたら、奥さんがいたとは……。
「そっち、どっちから告白したんですか?」
「あ、それ私も気になる」
「はいはい。話しますから、そんなに前のめりにならないでください。……いざ話すとなると恥ずかしいですね……」
 その後、ラナさんの恋バナで盛り上がった。
 ピクニックは楽しかった!!!

 夕暮れ時。馬車は森に囲まれた街道を進んでいた。
 それにしても、一日中馬車に乗っているためやることが何もない。
 アンは退屈すぎて俺の膝枕で寝ている。メリーは寝てはいないものの、俺の肩に頭を預けながらボーッとしている。ラナさんはずっと読書してるね。
「メリー。暇だね」
 アンの髪を左手できながらメリーに声をかける。
「そうですねー」
 メリーとも右手を繋いでいる。
 何してるわけでもないけど幸せだなあ。
 そんなことを思った次の瞬間、
 突然、馬車止まった。
「どうしたんですか?」
「森から魔獣が……」
 御者の人が悲鳴に近い声で答える。
 …………さっきの言葉、フラグだったか?
「アン、起きろ! 魔獣だから!」
「んん……。むにゃ……」
 起きる気配がない。
「カイ様。ここは私が」
 突然メリーが立ち上がって言った。
「大丈夫?」
「はい。それに機会があったら見せるって約束しましたじゃないですか」
 何だろう。俺より小さいはずのメリーの体が大きく見える……。
「それじゃあ、行ってきますね」
 メリーが馬車の扉を開けて外へ出ていく。俺は窓から顔を出し、その様子を見守る。
「心配せずとも、メリーに任せておけば大丈夫ですよ」
 ラナさんが声をかけてくる。
「え?」
「あの子、戦闘力は高いですから」
 ラナさんがそう言ったとき、メリーは御者の人を避難させて、臨戦態勢に入ったところだった。
 魔獣は全部で十匹。犬のような風貌だ。
 魔獣達が一斉にメリーへと襲い掛かる。
「『闇槍あんそう』」
 メリーがそう呟くと、虚空から黒い槍が出現し、メリーへ一直線に走っている魔獣達に襲い掛かった。
 魔獣は全滅。十秒もかからなかった。
 え!? メリー強!
 メリーは森の中へ魔獣の死体の処理へ行き、すぐに帰ってきた。
「お待たせしました」
 メリーが馬車へと帰ってくる。
「お疲れ様。ありがとう」
「いえ。お構いなく」
 メリーは涼しげな顔だ。
「さっきの魔法、何?」
「さっきの魔法ですか? 闇属性中級魔法の『闇槍』です」
「へー」
 なかなかに凄い魔法だったな。
「そういえばメリーの適応属性って何?」
「闇と光ですね。一応風は少しだけ使えますが」
「特異属性二つなんだ。凄いね」
「ありがとうございます。でも元々魔法の属性に、基本属性・特異属性という区別はないんですよ?」
「え? そうなの?」
「はい。魔族はそういう区別はしていません。人間は闇、光、治癒を使える人が少なかったのでそう呼んでいるだけです」
「へー」
 人間の視点から見て、珍しいから『特異』なだけで、魔族はその限りではないと。
「メリーって魔法を誰かに教わったの? そんな話は今まで聞かなかったけど」
 俺がそう質問すると、メリーの顔に影が差した……ように見えた。
「…………父です」
「メリーのお父さんって……ラウル様?」
「いえ……。私の……本当の父です。魔界にいる」
 メリーの本当の父。今まで全く触れてこなかった、メリーの家族についてだ。全く知らないことに好奇心をいだいた。
「メリーのかぞ……」
 メリーに、家族について聞こうと彼女の方に向く。メリーを見た瞬間に違和感を感じた。メリーの様子がおかしい。何かに怯えているような……、そして何かを願っているような……。
「いや。やっぱりなんでもない」
「え……?」
 メリーが驚いた顔をする。
「気に……ならないんですか?」
「まあ、気にならないと言えば嘘になるけど、そんな顔されたら聞きづらいよ」
「え? あ……」
 メリーの目が丸くなる。呆けた顔だ。
「今は無理に、とは言わないから。いつか話せるようになったら教えてね」
「……はい。ありがとうございます……」
 メリーが目に涙を浮かべ頭を下げる。
「いや、いいよ。メリーはもう家族みたいなものだから」
「……ありがとう……ございます……」
 メリーが控え目に抱きついてくる。彼女の体は震えていた。メリーの頭を撫でる。少しでも不安が薄らぐように。
「……」
 ラナさん。読書するふりしながらチラ見してるのバレてますからね。
「んぅ……。ん……。むにゅ……」
 あ。アンに膝枕してるのすっかり忘れてたわ。

 翌朝。メリーが起床した振動で目が覚めた。
「メリー、おはよう。今何時?」
「七時です。すみません、起こしてしまいましたか?」
「大丈夫。普段なら起きる時間だからね」
 メリーと見つめあう。メリーが顔を赤くした。
 昨日、メリーの家族についての一件があったからなのか、メリーの好意が増大してる気がする。昨日寝るときも、俺の膝の上で寝ようとしてきたからね。え? いつも通りだって? 以前のメリーならしない……と思いたい。
「カイ様……。改めて、昨日はありがとうございました」
「ううん。メリーにも秘密はあるだろうしね」
「いつか……必ず話します。いえ、話さねばならない時が必ず来ます。その時まで……待ってください」
「うん。メリーがそう言うのであれば」
「ありがとうございます」
「はい。この話はもうおしまい。お昼ごろには学園に着くんだっけ?」
「はい。その予定です」
「アンとラナさんは……まだ寝てるね」
 アンとラナさんは熟睡、いや爆睡している。というかラナさんメイドなのに早起きしなくていいのか?
「カイ様。窓の外を見てください」
 窓の外を眺めていたメリーが声をかけてきた。メリーの言ったとおりに外を見る。
「あれは……」
「あの遠くに見える大きな街が王都です」
「あれが……王都……。アン、起きて。王都が見えてきたよ」
 俺の肩に頭を乗せて寝ているアンに声をかける。
「うにゅ……?」
 アンが寝ぼけ眼で窓の外を見る。
「おー。大きーい。むにゃ……」
 アンが俺に再びもたれかかってくる。
 アンめ……。また寝たな……。まあ馬車で寝るとどうしても睡眠が浅くなっちゃうから仕方ないのかもしれないけど。
 王都まであと少し。これからどんな生活になるのだろう。
 俺は期待に胸を膨らませながら、だんだん近づいてくる王都を眺めていた。

 お昼前。俺達の乗った馬車は王都へと着いた。
「人いっぱいだね」
「王都は広いだろうからね。その分人も多いんじゃないかな」
「だねー」
 俺とアンが王都の人の多さに驚いて外を眺め続けていると、馬車は聖ガルモンド学園に到着した。守衛の人に許可をとり、校門をくぐって進んでいく。
 馬車の中から眺めた感じでも、聖ガルモンド学園は広い。魔法訓練場が何ヶ所もあったり、各領地の寮も敷地内にあるからだろう。
 質が高くて充実した設備に目を奪われていると馬車が止まった。
 そうやらライトア領専用の寮に着いたようだ。

 俺達四人が馬車を降りると、馬車はライトア領へと戻っていった。御者の人は寝ずに走り続けてくれたから感謝しないとな。
 寮の玄関前に一人の女性がたっている。
「お出迎え、感謝いたします」
 ラナさんが代表して挨拶をしてくれた。
「いえいえ大丈夫です。ライトア寮へようこそ。寮母のハンナ・フォスです。現フォス子爵家家長の母です。歓迎会の準備をしているところですので、先に部屋に行って荷物を置いてきましょう」
「「わかりました」」
「では案内しますね。えっと……生徒は三人って聞いていたのですが……」
「こちらのラナさんはアン様の専属メイドですので、生徒ではありません。私は一応生徒ですが、こちらのカイ様の専属メイドですのでカイ様と同じ部屋で大丈夫でございます」
「二人は同じ部屋ですね、わかりました。とういうことはそちらの二人も同室で大丈夫ですか?」
「はい。お願いします」
「それではついてきてください」
 寮母さんが歩き出し、俺達はそれに続いた。

 寮の構造は、一階が共用スペースや大食堂などで、二階は生徒の部屋になっている。
 寮の部屋に入るとそこは広々とした部屋が広がっていた。まあ、ライトア領の自室よりは狭いんだけど、それでも十分だ。三人ぐらいは入れそうなお風呂もあるし。
 部屋に荷物を運び、整理をしていく。それが終わると、メリーと談笑をした。他愛のないことだけど。
 談笑しているうちに時間は経過し、夕方になってきた。
「おーい」
 アンが突然部屋に入ってきた。
「どうした?」
「私、寝るのはこっちの部屋でもいい?」
 ………………は?
「は? なんで?」
「え、だってメリーばっかりずるいじゃん」
「ずるくないです。専属メイドの特権ですから」
「お父様とお母様の目が無くなって、メリーがどんな行動に出るかわからないし」
 ……。確かに。
「……だめ?」
 その上目遣いは反則……。
「はぁ。しょうがない。特別だぞ?」
「やたー」
 アンが大喜びしている。そんなに喜ぶことか?
「しょうがないですね。アン様は甘えんぼさんですからね」
「そんなこと言ったら、メリーだってカイに抱きついて寝てるじゃん」
「え、まあ、それは……」
 メリーが顔を赤らめさせながらこちらをチラチラ見てくる。
 ……もしや、メリーが抱きついて寝ている状態に慣れている俺って異常!?
「とにかく、私も今日からこっちで寝るから」
「でも大丈夫なの? ラナさんとか」
「ラナなら大丈夫。私がこっちで寝る、って言ったとき最初は反対してたけど、「ラナ一人だったら私を気にせずに通信機でロバートと話せるよ?」って言ったら、「ぜひ!」って掌返ししてたから。それに普段は隣の部屋で過ごすし」
「ははは……」
 なんでだろう。そのシーンを容易に想像できてしまった。
 ところで通信機というのは、所謂携帯電話のようなものだ。まあこの世界に電気なんてものは無いから魔力で動いているんだけどね。
「歓迎会の準備ができたので一階に下りてきてください。あれ? もう一人はどこですか?」
 その時寮母さんがやってきた。
「あ。呼んできますね」
 アンが部屋を出ていく。
「えっと……あなたは?」
「カイ。カイ・フィアリーです」
「あぁ。領主家の方ですか。これは失礼を」
「いや、堅苦しいと逆にやりづらいので……」
「そうですか。いやでも……。まあ、本人がそう言うならそうしますね。それでカイくん。さっきの女の子は?」
「あぁ。妹のアンです」
「妹さんでしたか」
「お待たせー」
 そのときアンがラナさんを連れてやってきた。
「それでは行きましょうか」

 一階に下り、大食堂へと向かった。大食堂には既に先輩達が揃っているようだ。
「それでは、三人……四人? どっちでもいいや。とにかく新入生の歓迎会を始めます」
 司会役の先輩が歓迎会を信仰してくれる。
「じゃあ私から自己紹介。私はクレア・ローレル。ローレル伯爵家の長女でこのライトア寮の寮長です。今年から四年生です。わからないことがあったら何でも聞いてね」
 俺の三つ上ってことは十九歳か。それにしても随分と童顔で小柄だ。新入生と言われても信じてしまうかもしれない。
「それでは自己紹介をお願いします」
 クレア先輩が俺達に対して促してくる。
「わかりました。初めまして。フィアリー公爵家長男のカイ・フィアリーです。一応領主家ですが、皆さんの後輩になるので遜った態度をとられると逆にやりづらいので、できれば普通の先輩後輩として接してください。よろしくお願いします」
「フィアリー公爵家長女のアン・フィアリーです。カイの双子の妹です。カイと同じで、普通の先輩後輩として接してください。これからよろしくお願いします」
 俺とアンがまず自己紹介をする。
「公爵家の子供って地位に溺れて威張るやつが多いって聞いてたけど、二人は違うな」
「そうだな」
 先輩達が囁き合っている。
 あの……思いっきり聞こえているんですが……。
 次にメリーが前に出る。
「ケルアー男爵家養女のメリージュ・ケルアーです。見ての通りの淫魔族で、カイ様の専属メイドをしております。生徒としてもお世話になるのでよろしくお願いします」
 メリーが自己紹介すると何人かの先輩が顔色を変えた。
「魔族?」
「魔族って例の?」
「なんでこんなところに」
「そりゃ学園に通うためだろうよ」
「大丈夫なの?」
 ひそひそ
 一人一人は小声でも複数人が集まればそれなりの大きさになる。それ抜きにしても念のため意識をそっちに集中させていたから細部まで聞き取ることができた。
 聞き捨てならないな……。
 俺は一言言ってやろうと前に出ようとした。すると、
「大丈夫です」
 メリーが俺を手で制して小声で囁いてきた。
「でも……」
「本当に大丈夫ですから……」
 口ではそう言って笑っているが、その笑顔は寂しげだ。
 やっぱり言わねば……。
「あのー。若干重苦しい雰囲気ですが、自己紹介しても大丈夫ですか?」
 ラナさんがクレア先輩に尋ねる。
「え? あ、はい。お願いします」
 クレア先輩が答える。
「では。初めまして。クトゥル領テルム伯爵家次女のラナ・テルムです。アン様の専属メイドをしております。一応学園を卒業しているので皆様の先輩にあたりますね。主従共にこれからよろしくお願いします」
 ラナさんが礼をし、元いた位置に戻る。
「それでは」
「少しいいですか?」
 ここしかない。そう感じた俺は声を上げた。
「はい。カイくん何でしょう?」
「すみません。流石に許容できないことがありましたので」
「っ!? カイ様!」
 メリーが声を上げる。それでも俺は引かない。
「ごめんメリー。でも言わずにはいられないんだ」
「でも……」
「私も気に食わなかったからね。カイが言ってくれるなら私の出る幕は無いよ」
 アンも後押ししてくれる。
 改めて先輩たちの方に向き直る。
「俺が話したいことは皆さんお分かりだと思いますが、メリーのことです。メリーは確かに魔族です。ですが魔族だからといって偏見でメリーを判断したり、不条理な行為をするのは主として容認することは到底できません」
 場には緊迫した雰囲気が漂っている。その場にいる全員が俺に注目している。少し怖い、でも引くことはできない。これからの生活のために。
「もしメリーに手を出したり、傷つけるようなことがあれば容赦はしません。たとえ先輩であっても」
「カイ様……」
「そうだね。その時は私も許しません。それを念頭に入れておいてください」
「アン様……」
 ふう。何とか言えた。アンも援護射撃してくれたし、効果はあるだろう。
 先程小声で魔族だなんだかんだ言っていた先輩達を見る。大半の人は俯いていたが、一人だけメリーを睨み続けている人がいる。
 正直言って不快だ。
 俺はメリーの前に立ちはだかり睨み返す。
「じゃ、じゃあ食事にしましょうか」
 クレア先輩が不穏な空気を感じたのか明るく言った。彼女のその一言で不穏に空気は霧消した。折角の歓迎会だし、楽しむとしよう。
 歓迎会の食事は立食形式だ。各々好きなものをとり、自由に食べられる。
 俺達のところには先輩達が代わる代わる挨拶に来た。みんな悪い人ではなさそうだ。……さっきの睨んできた先輩以外だけどね。過敏に反応し過ぎなのかな? でも何か嫌な予感がするんだよな。
 そんな中、一人驚きの先輩がいた。
「初めまして」
「あ、始めまして」
 それは歓迎会も終わりに近づいてきた頃。
 女子の先輩が俺に声をかけてきた。どこかで見たことのあるような顔だ……。
「私の名前はサーシャ・カルヴァール。カルヴァール子爵家の次女です」
「え? カルヴァールってミーシャ先生の……」
「ええ。やっぱり姉さんは有名ですね……」
「あ、いえ。確かにミーシャ先生は有名かもしれないですけど、俺とアンはミーシャ先生に家庭教師をしてもらっていたので」
「あ、そうだったんですか。姉さん、凄いですよね」
「そうですね」
「私とは比べ物になりませんから……」
 あれ? 暗いな。
「あ、そうだ。アン。ミーシャ先生の妹さんだって」
「え? 本当?」
 アンが俺達の方へやってくる。
「初めまして。アン・フィアリーです。先生にはお世話になりました」
「いえ。姉さんは大丈夫でしたか?」
「はい! とても凄い人でした!」
「そうですか……。よかったです」
 サーシャ先輩の顔に影が差す。
 どうしたんだろう。
 サーシャ先輩は「それじゃあ仲良くしようね」と言って、友人らしき人達のところへ戻って行った。
 その後も先輩は挨拶に来たり、話に来たりして時間は経過していき、歓迎会が終わるのは二二時頃になった。

 歓迎会が終わり、片付けは寮母さんや先輩達がやってくれるということなので、俺達は一足先に部屋へと戻った。
「メリー、お風呂どうしよっか?」
「……カイ様が先でいいですよ」
 メリーは浮かない顔だ。さっきのことを気にしているのだろうか。
「じゃあ先に入るね」
「はい……」
 メリーのことが気になりながらも俺はお風呂に入った。
 全身を洗い、湯船に浸かりながら、さっきのことを考えていた。
 いくらなんでも、あの先輩の反応は過剰な気がする。念のために気を付けておこう。
 十分に体が温まったところでお風呂を出る。そして寝間着に着替える。
「メリー、出たよ」
「……わかりました」
 メリーは相変わらず元気がない。お風呂にも乱入してこなかったし……。乱入しないのが普通なんだけどね!
 メリーは重い足取りでお風呂に向かって行った。
 心配だなあ。
 十数分後。
「カイ様、出ました」
「わかった。……っ!?」
 メリーの姿を見て俺は息を呑んだ。
 服装はいつも寝るときに着ているネグリジェだ。しかし、彼女はお風呂をあがったばかり。
 しっとりと濡れた髪。火照って上気した顔。それぞれがいつも以上に彼女の色気を増大させている。
 なんだろう。すごくドキドキする。
 俺の心が乱れに乱れていると、メリーが思いつめた顔をして俺の方へ来た。
「カイ様は……」
「?」
「カイ様はどうして私を……私を庇ったりしたのですか?」
「どうしてって、そりゃ」
「あそこは私だけが悪者になれば済んだ場面です! カイ様があんな風に先輩方に対立する必要なんてなかったはずです! それに今回のことでカイ様に悪評がついたりしたら……。私なんか……私なんっ!?」
 俺はそれ以上メリーに自分を卑下してほしくなくて、無意識のうちに抱き寄せていた。
「カイ……様?」
「メリーは何も悪くない。確かにメリーは魔族だし、俺達とは姿が違うかもしれない。でもメリーはメリーだ。俺の専属メイドで、俺を胸に抱いて寝たり、いろいろ突飛なことをするけど、仕事もちゃんとこなして、気が利いて、一緒にいて楽しくて、信頼できる。それが俺の考えているメリーだよ。それにメリーがあんな風に悪意に晒されているのに助けようとしなかったら主失格でしょ?」
「でも……」
「大丈夫。心配はいらないよ。俺はいつどんな時でもメリーの味方だ。アンだってそうだと思う。だから一人で抱え込まなくていいし、遠慮する必要は無いよ」
「カ、イ、さま……わたし、は……」
 メリーの体を抱きしめる。メリーが俺の胸元に顔をうずめる。安心させるためにメリーの頭を撫でる。
「――――――――――――」
 メリーは声もなく泣いた。
 周囲から注がれる悪意に耐え続け、感情に蓋をしていた少女は、一度心のダムが決壊すると、止めなく溢れだす感情の波を、抑えることができなかった。

 メリーは暫くの間泣き続けた。俺はその間ずっとメリーを抱きしめ、頭を撫で続けた。
「すみません……。ありがとうございます」
「大丈夫。落ち着いた?」
「はい……」
 今まで溜め込んでいたものが一気に流れ出てきたのだろう。
「私……本当は怖かったんです……」
「怖かった?」
「はい……。心の中では大丈夫だ、と思っていながら、もしカイ様が私のことを嫌いになってしまったらどうしよう、魔族だからといっていつか忌避されて離れていってしまったらどうしようって……」
「そうだったんだ……」
「でも先程のカイ様の言葉でその懸念が払拭できました……」
「そっか。よかった」
「はい。あ、あの……」
「ん? どうしたの?」
「もう少しこのまま……頭を撫でてもらっても……いいですか?」
「うん。わかったよ」
 メリーが頭を俺の胸にこすりつけてくる。
 魔族に対する偏見は根強いものがある。これから学園に通うにあたって、さっきのようなことは多々起こるだろう。俺がメリーを守らなきゃ。
 そのことを以前よりも痛感した。
「カイー、そろそろ寝よー。…………って何してるの? 浮気?」
「え? あ、いや、そうじゃなくて。さっきのことでさ、メリーと話をしてたんだ」
「ああ、なるほど。疑ってごめんね」
「いや。気にすんな」
「メリーも変な風に解釈しちゃってごめんね」
「いえ……」
 メリーが俺から離れる。目が赤い。
「私はメリーの味方だから。心配しないでね」
「アン様……。ありがとうございます」
 俺とアンでメリーの背中をさする。
 俺もアンも公爵家で、貴族社会においては大きな権力がある。できるだけメリーのことを、協力して守らなければ。アンともこのことについて話さないとな。
「カイ、そろそろ寝ないと」
 アンにそう言われ時計を見ると二三時をまわっていた。
「もうこんな時間か。じゃあそろそろ寝ようか」
「うん」
「はい」
 アンが俺の腕に抱きついてくる。メリーはその動作を見ても何も言わずに、ただ俺の寝間着の裾を摘まんできた。
 その状態でベッドルームへと行く。
 ベッドはダブルベッドだ。それに三人寝なければいけない。
「えーっと、寝る順番どうする? 俺が真ん中?」
 二人とも隣に寝たいと言って結局俺が真ん中で寝ることになる気がする。
「うーん。本来ならそうしたいところなんだけどね。さっきのこともあるし今日だけはメリーが真ん中で寝て」
「! いいのですか?」
「うん。こんな日くらいメリーにはちゃんと温もりを感じて寝てもらいたいから。独りじゃないよって。私もさっきの光景見てるとメリーが不憫に思えてきちゃったし。あ、でも今日だけだからね。明日からはちゃんとカイが真ん中だからね」
「わかっております。ありがとうございます」
 アンのやつ。「私が真ん中!」って言わなくなったとは……。成長したな……。メリーともちゃんと仲良くしているようだし。
「……素直なメリー、可愛い……」
「……?」
 あ、アンがメリーの可愛さにやられた。メリーはきょとんとしてるし。
「ほら寝るよ」
 俺は二人に声をかけてベッドに横たわる。
 二人もベッドに入ってくる。
 三人だとやっぱり狭い。密着しないとベッドから落ちてしまいそうだ。
 しかし、感じられる温もりは一層強く、心地よいものだ。
 もう嗅ぎ慣れてしまったメリーの匂いと嗅ぎ慣れないアンの匂いを鼻腔に感じながら、俺は深い眠りに落ちていった。
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