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第4章 魔の力

176話 絶望的メンバー

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 俺達はハナエに案内されギルドの地下に移動した。
 休日だからだろう。一階に比べるとかなり静かになっている。

 カーデリーギルドは一階が酒場のようになっていて地下にクエスト受注広場がある。
 つまり地下が広い構造になっているのだ。それが外見から見るとカーデリーギルドの建物が大きくない理由である。
 それに納得したようにアイネが周囲をキョロキョロと見渡しながら何回も頷いていた。

 そして数分が経過した頃だろうか。
 俺達はギルドスタッフが出入りする扉の先にある長めの廊下をわたり、一つの部屋に案内された。

「ほれ、お前さんたち。助っ人の登場だよ」

 ハナエが扉を開けて中に入っていく。
 中に誰かいるのだろうか。俺達もそれに続く。
 すると──

「でも~、わたしぃ、肩がこっちゃうからぁ。矢筒なんてもってらんないですぅ~」

 真っ先にきこえてきたのは耳に障る程の猫なで声だった。
 露出度の高い服をきた厚化粧。そしてギラギラとしたピンク色の髪をした二十代前半と思われる女性が艶っぽく体をひねって座っている。彼女が声の主らしい。
 甘ったるい声といえばミハを思い返すが──何故だろう、この声はかなり不愉快だった。

「当然! ここは俺が持つ! そのための筋肉なのだからっ!」

 だがそう思わない者もいるようだ。
 彼女の横で猛々しく斧をかざしながら腕を強調している二十代と思わしき男がいる。
 その反対側には銃をかまえ、やたら前髪の長い同じ年代の男が一人。

「フッ……大丈夫。君にそんなものは持たせないさ。貸してごらん? そう、僕にまかせて……」

 自分に酔っているような声に乾いた笑いがこみあげてくる。

「なぬっ! その筋肉でそれが持てるとは──何故だっ!!」
「良く考えてごらん。矢筒は後衛の携帯品だ。前衛に立つ者でなければ携帯することかなわぬ物に価値があると思うかい? そもそも君は前衛だろう。必要な時に適切に矢筒を渡せるのは僕だよ」

 前髪をふぁさっと、撫で上げてこれでもかとドヤ顔を見せつける男。
 どこに魅力があるのか分からないが猫なで声を出していた女がその男の胸で顔をうずめる。

「あ~ん。フレッド、かしこ~い」
「んぬううううううっ!!」

 それを見て持っている斧を折るような動作をするもう一人の男。

 ──何やってんだ、こいつら……?

 茫然とする俺。そんな中、別の男と目が合った。
 見た目は他の二人よりやや若く、体型はかなり細い。

「ね、ねね……や、やめようって……ほら、ギルドマスターが、えと、えっと……」

 俺の視線を受けて、その男が視線を外す。
 その先には、とんでもなく太った──そして、こういってはなんだが、とてつもなく不細工な女性が一人──

「ネチュ、グッチュ、クチャクチャ、クッチャ……」

 寒気がする程、不快な咀嚼音をたてながらピンク色の物体を食べていた。

「あぁ、そんなに食べてばかりだと、お、怒られるよ……あぁ、でも……ごくっ」

 細見の男がその女を見て恍惚な表情を浮かべている。
 合計五人の男女。その異様なやりとりを見て固まる俺達。

「……あの」
「言いたいことは分かる。分かってるから、少しだけ待ってくれないか」

 深々とため息をつくハナエを見て逆に安堵した。
 どうやら彼らの事を変だと思うのはまともな感覚らしい。
 すぅーっとハナエが息を大きく吸う。
 
「コオオオオオオラ!! 助っ人がきたって言ってんだろ!! もう待機時間は終わりだよ!!」

 バンッ、と傍にある机をたたいて注意を集めるハナエ。
 だがその行動もあまり意味がなさそうだった。

「う~、でもでもぉ。わたしぃ、そろそろ眠くなってきちゃってぇ~」

 口紅を直しながら気怠そうな声をあげる厚化粧の女。

「なら任せてくれ! 俺が君の眠気を覚ませてやる。我が雄叫びにより──」
「フッ。君は分かっていないな。彼女が求めるのは覚醒ではない。静寂と安寧だよ。ならば僕の腕でやすらかに抱きしめるべきだ」
「あーん。フレッド、いい匂い~ん」
「んぬうううううううっ!!」

 なんとも悲痛な声をあげながら、筋肉質の男が斧の柄に頭を打ち付ける。

「あ、ああのあの……は、話しきかないと……お、おこ、おこられ……」
「クッチャクッチャクッチャクッチャ」
「だ、だめだよポイドラ……そ、そんなに食べてばっかだと……あ、あぁっ! でも、かわいいっ!!」
「ネッチョクッチャグッチュグッチュ」

 ──やばいんじゃないか、これ。

 正直、ドン引きである。
 今すぐにでもこの部屋を出たい。

「ねぇ。まさかとは思うけど、彼らが調査隊のメンバーなの?」

 トワが物凄く不満げな表情でハナエに話しかけた。

「すまないねぇ……これでも現在している冒険者の中で一番レベルの高い奴等なんだけど……」
「そうなんすか……」

 スイもアイネも引きつった笑みを浮かべている。

「えっと。自己紹介をはじめますか?」
「きいてくれそうにないけどね……」

 乾いた笑みを浮かべるトワ。
 彼らの中で俺達を認識している人間は細身の男だけなのではないか。その男もとんでもなく太った女に視線を釘付けにされている。
 こんな状況で自己紹介してもどうなるかは自明の理だ。

「あぁ、すまないがもう少し待ってくれないかい。実は後一人だけメンバーがいるんだけど、そいつがいないようだから」
「あれ、そうなんですか?」
「ここで待っとくように言っておいたんだけどねぇ。まったく、なんでいなくなってるのやら……」

 ──嫌な予感がする。

 この五人を見た後ではまともな人間が来るとは思えない。
 そしてその直感は、瞬時に肯定されることになった。

「いなくなっていたんじゃない! 準備していたのさ。オレなりの歓迎をするためになぁ!!」

 先に俺達が入ってきた扉から、これまた派手に髪の毛を逆立てた金髪の男が入ってきた。
 ふり返るよりも先に部屋全体に男の叫び声が響き渡る。

「聴け! 命を預け合う友になる者よ、オレの熱きウェルカムハートをっ! 響け、ロックンロール!!」
「……え?」
「太陽の光で焦がされたぁあああ! 大地の色に憧れてぇ、集う仲間の想い継ぎぃいいいいっ! オレらは彼らを探しにゆくうううっ!!」

 その声量に、俺だけではなくスイ達も体を震わせたのが分かった。
 呆気にとられる俺達をよそに、男の歌は続いていく。

「ヘイ、ロック! ロックボディ! そんな巨体で守り固めてオレらを倒す? 寝言はせめて、喋れるようになってから言ってくれぇ! ソウルもないのにそんな腕っ、振り回しても、俺らのロックは砕けねぇ!」

 男は自分に酔いしれるように体を揺らしながらリズムをとっている。
 ペンペンペンペン、という音を鳴らすその楽器は──三味線だろうか。
 ……地味に上手い。しかし、素晴らしく上手いともいえない。
 それも相まって、なんともシュールな雰囲気をかもしだしていた。

「これがホントのロック・ハート! 響け、オレらのロッ──」
「いい加減にしないかこのバカ息子が!!」
「んごぁっ!!」

 あまりにも騒がしいその登場はハナエの殴打によって幕を閉じた。
 男の持っていた三味線に大きな穴がこじ開けられる。

 ──って、息子?

 ハナエの拳の威力もさることながら、俺はその言葉にも驚いてしまった。

「あぁあああああっ!! オレの! オレのエレクトピアがっ! 魂のエレキギターがあああああっ」

 壊れた三味線を抱きかかえ、男が泣き叫んでいる。
 そのあまりにも激しい感情表現にどう声をかけていいか分からない。
 とりあえず、硬直し続けるというのも気まずいのでスイに声をかけてみる。

「なぁ……あれって、三味線だよな……?」
「すいません。私、楽器には疎いので……」

 俺も楽器の知識なんざさらさらないがエレキギターがペンペンという音を鳴らさない事ぐらいは分かっている。
 それはスイも同じはずだ。言葉でどう言おうとも、その表情が全てを物語っている。

「でも、とりあえず変な人だってのは分かったね」
「お前もあんま人の事いえないような気がするけどな……」
「えーっ!?」

 何故、そんな驚くことができるのだろうか。
 抗議の顔をアピールするトワのことも相まって、ため息しかでてこない。
 そんな俺達の呆れ顔を見たからというわけではないだろうが、ハナエがパンパンと手を叩きながら周囲の注意をひきはじめた。

「ほら、お前らっ! 自己紹介ぐらいちゃんとしないかっ! 分かってんの? あんたらは──」
「いやだよぉ~、わたしぃ、危ない所なんていきたくなーいー」
「大丈夫だ。この俺の筋肉を超えられる魔物など、この世にあるはずがないっ!」
「フッ、愚かだよ。願望は口にするだけでは世界の理を変えることはできない。それを自覚せずただ平淡な人生を歩むだけでは真に必要な時にその力を発揮することは──」
「ゴキュ、ムグ、モグ……」
「あぁ、か、かわいいっ……ハァッ、ハァッ……!」
「やぁやぁ! 君達。ようこそカーデリーへ。オレはジョニー。ジョニー・サンシャインだっ!!」
「何がジョニーだよっ! アンタの名前はイチロウだろうが!!」


 ──だ、だめだこのギルド……はやくなんとかしないと……


 全くもってまとまりを感じさせない彼らの言動に。
 俺はどこか絶望に近い感覚を味わっていた。
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