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番外編

初めての共同作業

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もちろんルルシアに全てを詳細に話したりはしなかった。

でも、私なりに彼女が納得できるように整頓して伝えたつもりだ。

まぁ結局のところお互い一目惚れだという陳腐な報告しかできないのだけれど。

「まぁ私たちの間で同意ができても、その後の周囲の同意を得るのに時間がかかって話は進まなくなってたんだけどね。」

帝国のお偉方はもちろん我が家も両手を上げて大賛成と言うわけではなかった。
まず私が隣国へ嫁ぐことに父も母も姉も大反対だった。

姉の少しぼんやりした旦那さんは唯一私が望むなら許してあげたらと味方をしてくれたが、あまり強くは出ない人だ。
三人はさして聞く耳を持っていなかった。

結局ソーマ皇子が直々に彼らを丸め込み持ち前の笑顔とあの抱擁力、意外に弁が立つところでうまく丸め込み承諾を得てくれた。

まぁ彼らが反対し続けたとしても帝国から直々に申し込まれたら断る手立てなど持ってはいないのだが…

まだ内々の話のうちに自ら来て話してくれた行動力には感謝しかない。

褒めたつもりなのに、ルルシアはすぐに機嫌を悪くしたようだ。

「私にどうしてもっと早く教えてくれたかったのかわからない。」

「私は当然ソーマ皇子が話すと思っていたから余計な事は口にしなかったのよ。
悪かったとは思ってるけど私から聞いたら信じないだろうし、不愉快に思うでしょう」

「ソーマ絶対忘れてた。」

「忘れ…、流石にそんなことはないと思うけど…」

「私ならすぐ賛成すると思って伝えるの忘れてたに決まってる。」

ルルシアはムスッとした顔で私を睨む。

まぁ、確かに。私がいくら言っても大丈夫だとしか言わなかったから。
ルルシアに大っ嫌いと言われて落ち込んでいる彼を見て、だから言ったのに。と思い少し胸がスッとしたものだ。我ながら性格が悪いが、聞く耳を持たない方も悪い。

「言い訳だけど、私はソーマ皇子に貴女に嫌われてるとは話したのよ?なんでそうなったのかも一応ざっくりとは伝えたし。
そうしたら全部知ってるから大丈夫って…」

「別に嫌ってはいない。」

被せ気味に言われてびっくりして私は口を閉じた。

「嫌いじゃないけどソーマが幸せにならない。ロベリア、貴女も幸せにならない。」

澄んだ真っ直ぐな瞳で見つめられる。

全然似てない兄妹だなと思ってたけど、その眼差しは呆れるくらいそっくりで…

そんな彼女に、こうもはっきり言われるなんて。いっそ嫌いだと言われたほうがよかった。

「帝国では皇帝が一番偉い、強い。逆らう者は滅多にいない。その皇帝が、気を配っている唯一の相手が大神官様。」

「光闇教が根強い国だものね。その大神官様が反対するって?婚姻を結ぶことに関して神殿の許可もおりてるはずだけど?」

ルルシアはゆっくりと頭を横に振った。

「彼らは決して反対しない。むしろ待ち望んでる。貴女がくることを。」

「???」

聞き間違いかと思って私は首を傾げてしまった。
彼女の暗く、重々しい口調と語った内容があまりにかけ離れていたからだ。

「精霊が居る場所は神聖な土地。皇帝が死の谷を所持していた国を属国にして奪い取ったのも、あの谷をきちんと管理できてなかったから。
副産物に目がクラんで谷を荒らす輩が増えてた。精霊の怒りはやがて土地の怒りになり、周辺に牙を向く。国に災いをもたらす。

だからソーマに与えて武力であの地を護らせてる。

邪な人間が近づけないように。

神殿はあの地を欲しがってた。
精霊は神に近しい存在。
聖地としてあの地を崇め護りたがっていた。

でも、その地はソーマに与えられた。
ソーマは疑われてた。あの地をどうするつもりなのかと…

そんなソーマが貴女を選んだ。炎の魔力持ち。しかも谷に受け入れられたんでしょ?
同じ属性だからこそ、邪な心があれば精霊からの反発は他の誰よりも強いはず。

神殿が貴女を歓迎しないわけがない。貴女を選んだということはあの地を精霊を護ると宣言したようなもの。」

ルルシアの表情は全く嬉しそうではない。

「帝国の人間は貴族たちは疑り深い。
第一皇子が次期皇帝に指名されてもまだソーマや私が権力闘争に関わってくることを心配してる。
私がカストルと婚約してイシェラと繋がりを持ったこと。闇の魔力持ちが相手であるとして神殿からも歓迎されていること。
これが気に入らない、それに加えてさっき話してくれた通りならソーマも気に入られた。
おそらく神殿は、私たち兄妹の強い後ろ盾になってくれる。

それは皇帝の次に強い力を持つ権力者の後ろ盾があるということ。」

じっとルルシアが私を見てくる。

なるほど、確かに。そりゃ命も狙われ放題だろう。権力を狙う者にとってこれほど邪魔くさい存在はいないだろうから。

ルルシアがそっと腰を浮かせる。

『光闇教が根強い帝国民がカストルに手をかけるのは考えづらい。だから狙うなら私かソーマ、そして貴女よ、ロベリア・ハフス。』

私は少し上の空になりながら相槌をうつ。

『ルルシアはカストルの婚約者なのに?』

『まだ結婚していないからね。神に認められた夫婦になった後では手を出しづらい。それは貴女も同じ。結婚して神に認められてあの地の護り主になってからでは遅い。』



『その通りだ。お嬢さん方。』



バンッと扉が開き長い刃がこちらに向けられる。

無意識にルルシアを庇うように両手を広げて前に立ちはだかっていた。
背後で彼女が息を呑む気配がする。

黒い覆面に煤けた服を纏った体格のいい男が勢いよくこちらに近づいてくる。
どこぞの貴族が雇った破落戸ナラズモノといったところか…

『帝国の繁栄に異質な存在は邪魔なんだと。
大人しく離宮に閉じこもっていればいいものを。兄妹揃って出しゃばってきたのが気に入らねぇらしい。

それにアンタ。』

ルルシアに向けられていた視線がこちらに向かう。

『聞いてるぜ、イシェラ王国ではなかなか悪名高いらしいじゃねぇか。

高貴な方々は神聖な土地に混血の領主とそんな悪女が住み着くのが許せないらしいぜ。』

『神聖な土地ね…』

こんな状況だというのに炎の谷が鮮明に脳裏に蘇る。

精霊たちも勝手に自分たちの住処を聖地扱いされて迷惑に思うだろう。

彼らはただ楽しく住み心地が良いからあそこに居るだけだろうに。
私があの地の護り主なんて大層な者になると聞いたら彼らはお腹を抱えて笑い転げるだろう。
こんなちっぽけな私が自分たちを護るなんて。

『私を守る必要はない。貴女は自分を守りなさい。全力で!』

びっくりした。彼らの声かと思った。でももちろん違う。
これはルルシアの声だ。

シュッと小さな風が傍らを吹き抜けていく。

剣を握った手首をルルシアが放った扇子の飾り紐で絡めとられ、侵入者は慌てている。

大したことない奴。そう思ったけどドヤドヤと似たような奴らが次々に入ってくる。

小汚い小屋の周りにもたくさん人の気配がする。

『数で物言わせてるってわけね。』

『あぁんだと?!』

ポソっと呟いた声は相手の耳に届いたらしい。
まぁ、聞こえるように言ったんだけどね。

ちょうど良かった。気持ちがクサクサしてたから彼らにぶつけてしまおう。

スッと両手を前に構えて間髪入れずに熱風をお見舞いすれば相手はうまい具合に吹き飛んで壁を破壊しながら外へ放り出される。

さすがボロ小屋。結構もろい。ルルシアもすぐに気づいたようだ。

『全部壊す。頭に気をつけて。』

どこにそんなものを仕込んでいたのか呆れるような量の暗器が四方八方へ放たれる。

彼女が止まった一瞬にピッタリと背中合わせになり頭上から防御魔法を張る。

『私はいい!』

「魔法探知以外は苦手でしょ!」

怒鳴り合う私たちの周りに天井やら砂埃やら木片やらが降り注ぐ。

そうして小汚い山と化した小屋の土煙が収まりようやく周辺の様子が目に入ると私たちは目を丸くしてしまった。

辺りはイシェラ王国と南の帝国の騎士団で溢れかえっている。それでも諦めずに戦い続けている破落戸たちがなんだかいじらしく見えるくらいだ。

特に、恐ろしい気迫を放ち文字通り目の色を金色に変えて黒剣を閃かせているカストルと、太い腕で首元を締め上げ千切っては投げを繰り返しているソーマ皇子の周りにはおびただしい数の倒れ伏した人間が転がっている。

呆気にとられている私たちに果敢に突進してきた二人組を私とルルシアが同時に炎と暗器で跳ね飛ばす。

「ルル!!」

『ロベリア嬢、ルル。』

二人が一目散にこちらへ駆けてくる。

「怪我は?」

カストルは声をかけながらルルを上から下まで眺めまわして調べている。

ソーマは私の両肩に手を置いてからそっと頬を拭うと黙って抱きついてきた。

「すまなかった。」

呻くようにそう呟くと私を放す。

『さっそく約束を破ってしまった。
決して後悔させないと誓ったのに。』

落ち込んだ顔はなんだか可愛らしくて先程まで人を投げ飛ばしていたとは到底思えない。

『ルルも…すまなかった。
いつも手紙に書いてきていた彼女が相手なら反対することはないだろうと思い込んでいた。』

手紙?なんのこと?

口を開く前にルルシアがソーマに飛びかかり口を塞ぐ。

『ソーマうるさい!黙って。」

『なんだよ、だってロベリア嬢のことだろう?ルルがいつも書いていた花姫って。』

『花姫?』

花姫ってなんだろう帝国語特有の言い回しだろうか?いや、それより。

『ソーマ様。ルルシアから私の話は聞いたことがないと初めてお会いした時に言ってましたよね?』

嘘をつかれたのかと思い思わず詰め寄るとルルシアを引き剥がしたソーマ皇子は両手を胸の前に挙げて焦ったように口を開く、

『あぁ。ルルの言う花姫と君が同一人物だとは名前を聞くまで知らなかった。ロベリアという名前を聞いてもしやと思ったんだが聞く前に丁度アロイス殿が現れたからな。タイミングを逃してしまった。』

「あっ!人のせいにしてるだろ。ずるいぞソーマ。」

当然のように突然現れて会話に加わってくるこの声は。

私とルルシアが同時に振り返るとそこにはもちろん彼が立っている。

「ヤッホー二人とも。やっぱり二人は大人しく囚われの姫役なんてやらないよね。
気持ちいいくらい派手に破壊しちゃってまぁ。」

全員が土埃にまみれた姿の中、一人真っ白なローブを纏ってニコニコ手を振るアロイス様の姿がそこにはあった。
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