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番外編
早すぎる告白
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また一瞬のうちに城内の中庭へと戻ってきていた。こちらはまだ薄暗く、白いモヤが濃くあたりに立ち込めている。
今度もふらついてしまい、朝つゆのついた草の上に座り込んでしまった。すぐ隣には白い星のような花が咲き乱れている。ぼんやりとその花に見惚れていたらすぐさまスッと手が差し伸べられ、その分厚く暖かい手をそっとつかむと軽やかに引き上げられる。
『少しは手加減してくれアロイス殿。』
ソーマ皇子の言葉に彼は軽く肩をすくめてみせる。
『魔力には相性があるからさ。彼女はいい方なんだよ。』
『相性…か。』
話している間も私の手は彼と繋がったままだ。
振り解くわけにもいかないし…と固まっているとソーマ皇子がゆっくりとこちらに向き直る。
「ロベリア・ハフス子爵令嬢。」
「はい……?」
急に改まった呼びかけをされてなんだかおかしな返答をしてしまう。
彼はそれを気にする素振りも見せずサッと腰を落として真っ直ぐにこちらを見上げてくる。
「私のパートナーになって欲しい。」
パートナー………ってなんの?
彼の言葉は確かに耳に届いているのにその真っ直ぐ見つめてくる澄んだ瞳に見入ってボーっとしてしまい上手く思考がまとまらない。
パートナー、確か帝国についての勉強会で伴侶のことを私たちの国でいうパートナーと訳すと習った気がするけど…
「ソーマ、パートナーだと彼女に伝わり辛いんじゃない?」
からかうようなアロイス様の声が聞こえてくる。
『それにそういう話は僕が消えてからしてほしいな~
まぁ、脈アリだとは思うけど。』
フッと僅かな風も感じさせずにアロイス様は姿を消した。
脈アリってちょっと、何のこと?!
ブワッと顔に熱が集まってくる。
一瞬アロイス様の方に向けられていた顔は再び私の正面に戻っている。
その真剣な表情。それだけで彼が何を言わんとしているのか予想がつく。
待って、魔力に対して批判的な南の帝国の皇子でしょう?ルルシア皇女の実のお兄さんでしょ?
しかも、まだ出会って間もないのに早くない?
いくら彼が優しくていい人でも、私の好みにぴったりな見た目だとしても、身分が高くて、炎の谷の所有者だとしても…
待って、好みにぴったりって…誰が?
違う違う違う、私はこうスラッとして中性的な美しい顔立ちの人が好きだったはずで彼は全然私の…好みでは…
頭から湯気が出ているのではと思うほど暑くて頭が回らない。身体に力が入らない。
きっと、きっと魔力を使いすぎたからで、決して彼に見つめられているせいでは…
「ロベリア嬢」
「わ、私」
このままではみっともなく気絶しそうで私は声を裏返しながらソーマ皇子の言葉を遮った。
「私には殿下のパートナーは荷が重すぎます。
今朝は素晴らしい場所に連れて行っていただきありがとうございました。
少し体調が優れないのでこれで失礼いたします。」
深く頭を下げてから彼の手を解く。それは屈強な割にあっけなくスルッと外れ私はもう一度軽く頭を下げてから駆け込むように自室へと向かった。
シンとした部屋は出る前と何も変わらず、私は息を整えることもせずに急いで服を脱ぎ寝巻きに着替えるとベッドにもぐり込んだ。
ギュッと目を閉じても彼のあの真っ直ぐな眼差しが頭から離れない。
「うううっ」
去り際、彼はどんな顔していたのだろう。呆れて怒っていたかもしれない。もう二度とあの谷を見ることはできないかも。
炎の谷。
あの明るく、赤い燃え盛る炎を思い出して、少し心が落ち着く。
そうだ。
お姉様やお父様、お母様がいつも言っていたじゃない。
魔力が高く美しい私の隣には絵本に出てくるような美しい王子様が似合うと。
私が好ましく思う男性はそういう方でなければと。
アロイス様にアンディーブ様。カミル先生にリーク殿下、エドワード殿下。
美しく才能に溢れた彼らを目移りしながら追いかけていた。
でも、正直に言えば。それはただの遊びだった。
本当に、彼らの恋人や妻になりたかったわけじゃない。
みんなの素敵に合わせて騒ぎ、隣に立てば羨ましがられるだろうという軽い気持ちで付き纏っていた。まぁ、自分以外の意思も混ざってたんだけど。
あの時の私は…こんな気持ちは持たなかった。
ルルシアが学校で家族の写真を見せていたことがあった。
ちらっと見えたソーマ皇子の姿から目が離せず、気づけば奪うように写真を取り上げていた。
素敵だった。こんなに素敵な男性が婚約者だなんてとルルシアが羨ましくなった。
兄だと聞いても二人の仲が良さそうな様子に従兄か義理の兄妹なのではと勘ぐってしまった。
恋仲なのではと疑う気持ちが消せなかったのだ。
あれから色々あってソーマ皇子のことは記憶から少し薄れていた。
まぁ、帝国に来たら本人に会えるかもしれないと期待しなかったわけじゃないけど。
さんざん学校で騒ぎを起こし、ルルシアにも嫌われている私が彼と知り合うことなどないだろうと思っていたのだ。
それが、まさかこんなことになるなんて。
おまけに、彼は私をパートナーに望んでいる。
今までも好意を持たれることはたくさんあった。
だから分かる。彼は本気だ。ただ私に好意を抱いているのか私の魔力を欲しているのかが分からない。
「うぅ。」
枕に顔を埋めてうなってしまう。
こんな苦しくて自分の思い通りにならなくて…ちっとも楽しくない。こんなのが恋だと言えるだろうか?
さっきまで会っていたのに今また会いたくて涙が出そうで。
彼の好意を受け取って自分も好きだと伝えたい。
でも帝国の皇子。気軽な付き合いなどありえない。付き合うとしたら結婚することになるだろう。
そんな身分の高い人の妻になるなんて、しかも魔力持ちは歓迎されないこの国で?家族と離れて?
おまけに彼の父親である皇帝は機嫌を損ねればすぐ首をはねる暴君で有名だし妹のルルシアには嫌われている。しかも帝国は複数の妻がいるのは珍しくない。だからこそ、こんな出会ってすぐに私をパートナーになどと口にできるのだろう。
今のところ彼には婚約者や妻はいないけどこの先何人だって作ることができる。
幸せな未来などまったく思い描けない。
だから彼のことなど忘れた方がいい。
忘れた方がいいんだ。
ぐちゃぐちゃな思考のまま疲れ切っていた私はそのまま眠ってしまった。
今度もふらついてしまい、朝つゆのついた草の上に座り込んでしまった。すぐ隣には白い星のような花が咲き乱れている。ぼんやりとその花に見惚れていたらすぐさまスッと手が差し伸べられ、その分厚く暖かい手をそっとつかむと軽やかに引き上げられる。
『少しは手加減してくれアロイス殿。』
ソーマ皇子の言葉に彼は軽く肩をすくめてみせる。
『魔力には相性があるからさ。彼女はいい方なんだよ。』
『相性…か。』
話している間も私の手は彼と繋がったままだ。
振り解くわけにもいかないし…と固まっているとソーマ皇子がゆっくりとこちらに向き直る。
「ロベリア・ハフス子爵令嬢。」
「はい……?」
急に改まった呼びかけをされてなんだかおかしな返答をしてしまう。
彼はそれを気にする素振りも見せずサッと腰を落として真っ直ぐにこちらを見上げてくる。
「私のパートナーになって欲しい。」
パートナー………ってなんの?
彼の言葉は確かに耳に届いているのにその真っ直ぐ見つめてくる澄んだ瞳に見入ってボーっとしてしまい上手く思考がまとまらない。
パートナー、確か帝国についての勉強会で伴侶のことを私たちの国でいうパートナーと訳すと習った気がするけど…
「ソーマ、パートナーだと彼女に伝わり辛いんじゃない?」
からかうようなアロイス様の声が聞こえてくる。
『それにそういう話は僕が消えてからしてほしいな~
まぁ、脈アリだとは思うけど。』
フッと僅かな風も感じさせずにアロイス様は姿を消した。
脈アリってちょっと、何のこと?!
ブワッと顔に熱が集まってくる。
一瞬アロイス様の方に向けられていた顔は再び私の正面に戻っている。
その真剣な表情。それだけで彼が何を言わんとしているのか予想がつく。
待って、魔力に対して批判的な南の帝国の皇子でしょう?ルルシア皇女の実のお兄さんでしょ?
しかも、まだ出会って間もないのに早くない?
いくら彼が優しくていい人でも、私の好みにぴったりな見た目だとしても、身分が高くて、炎の谷の所有者だとしても…
待って、好みにぴったりって…誰が?
違う違う違う、私はこうスラッとして中性的な美しい顔立ちの人が好きだったはずで彼は全然私の…好みでは…
頭から湯気が出ているのではと思うほど暑くて頭が回らない。身体に力が入らない。
きっと、きっと魔力を使いすぎたからで、決して彼に見つめられているせいでは…
「ロベリア嬢」
「わ、私」
このままではみっともなく気絶しそうで私は声を裏返しながらソーマ皇子の言葉を遮った。
「私には殿下のパートナーは荷が重すぎます。
今朝は素晴らしい場所に連れて行っていただきありがとうございました。
少し体調が優れないのでこれで失礼いたします。」
深く頭を下げてから彼の手を解く。それは屈強な割にあっけなくスルッと外れ私はもう一度軽く頭を下げてから駆け込むように自室へと向かった。
シンとした部屋は出る前と何も変わらず、私は息を整えることもせずに急いで服を脱ぎ寝巻きに着替えるとベッドにもぐり込んだ。
ギュッと目を閉じても彼のあの真っ直ぐな眼差しが頭から離れない。
「うううっ」
去り際、彼はどんな顔していたのだろう。呆れて怒っていたかもしれない。もう二度とあの谷を見ることはできないかも。
炎の谷。
あの明るく、赤い燃え盛る炎を思い出して、少し心が落ち着く。
そうだ。
お姉様やお父様、お母様がいつも言っていたじゃない。
魔力が高く美しい私の隣には絵本に出てくるような美しい王子様が似合うと。
私が好ましく思う男性はそういう方でなければと。
アロイス様にアンディーブ様。カミル先生にリーク殿下、エドワード殿下。
美しく才能に溢れた彼らを目移りしながら追いかけていた。
でも、正直に言えば。それはただの遊びだった。
本当に、彼らの恋人や妻になりたかったわけじゃない。
みんなの素敵に合わせて騒ぎ、隣に立てば羨ましがられるだろうという軽い気持ちで付き纏っていた。まぁ、自分以外の意思も混ざってたんだけど。
あの時の私は…こんな気持ちは持たなかった。
ルルシアが学校で家族の写真を見せていたことがあった。
ちらっと見えたソーマ皇子の姿から目が離せず、気づけば奪うように写真を取り上げていた。
素敵だった。こんなに素敵な男性が婚約者だなんてとルルシアが羨ましくなった。
兄だと聞いても二人の仲が良さそうな様子に従兄か義理の兄妹なのではと勘ぐってしまった。
恋仲なのではと疑う気持ちが消せなかったのだ。
あれから色々あってソーマ皇子のことは記憶から少し薄れていた。
まぁ、帝国に来たら本人に会えるかもしれないと期待しなかったわけじゃないけど。
さんざん学校で騒ぎを起こし、ルルシアにも嫌われている私が彼と知り合うことなどないだろうと思っていたのだ。
それが、まさかこんなことになるなんて。
おまけに、彼は私をパートナーに望んでいる。
今までも好意を持たれることはたくさんあった。
だから分かる。彼は本気だ。ただ私に好意を抱いているのか私の魔力を欲しているのかが分からない。
「うぅ。」
枕に顔を埋めてうなってしまう。
こんな苦しくて自分の思い通りにならなくて…ちっとも楽しくない。こんなのが恋だと言えるだろうか?
さっきまで会っていたのに今また会いたくて涙が出そうで。
彼の好意を受け取って自分も好きだと伝えたい。
でも帝国の皇子。気軽な付き合いなどありえない。付き合うとしたら結婚することになるだろう。
そんな身分の高い人の妻になるなんて、しかも魔力持ちは歓迎されないこの国で?家族と離れて?
おまけに彼の父親である皇帝は機嫌を損ねればすぐ首をはねる暴君で有名だし妹のルルシアには嫌われている。しかも帝国は複数の妻がいるのは珍しくない。だからこそ、こんな出会ってすぐに私をパートナーになどと口にできるのだろう。
今のところ彼には婚約者や妻はいないけどこの先何人だって作ることができる。
幸せな未来などまったく思い描けない。
だから彼のことなど忘れた方がいい。
忘れた方がいいんだ。
ぐちゃぐちゃな思考のまま疲れ切っていた私はそのまま眠ってしまった。
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