悪役令嬢とヒロインはハッピーエンドを目指したい

ゆりまき

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第三章 魔法学園

竜の感覚についていけません

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シンと静まり返った会場に竜の大きな息づかいが聞こえている。

「ふぅー。うぅむ……
それは無理だな。」

きっぱりと言われかえってスッキリした。

いつのまにか止めていた息をフッと吐いてこちらを見つめている巨大な瞳と向き合う。

「我は時空を司る役目を持つもの。生命の生き死に手を加えることは難しい。」

のんちゃんは意外そうに首をかしげた。

「あれ、でも望むなら前世の世界に戻していただけると…」

竜はフワッと口を開き大きくあくびをした。

その風圧で後ろに吹き飛ばされかかる。

「あぁ、可能だ。だが、それは時空を遡り最後の時に戻してやることができるという意味だ。」

「最後の時?」

「魂が身体から解き放たれた瞬間だな。」

のんちゃんはひきつった笑みを浮かべ、私は冷水を浴びたように血の気がひいた。

「我があの世界で干渉できるのは限られた瞬間しかない。

すなわち其方らの魂を拾い上げたあの瞬間だ。」

「じゃぁ、つまり死ぬってことじゃ…」

のんちゃんが小さくつぶやいた言葉に胸がギュッと苦しくなる。

アスターさんとソリーさんが私とのんちゃんを挟むように横に立ってくれて私たちの背後に立つリークが不満気に

「冗談じゃねぇ…」

っと呟いている。

「不満か?あの世界の他のものと同じ道を辿ることができる流れに戻そうと思ったのだが…」

竜は何が不満なのか理解しがたいと言いたげに首をかしげている。

「生きる年月が違うものに我々の感覚を押し付けても無駄なこと。」

突然聞いたことがない声が聞こえてそちらを見ると偽ニリーナが座っていた場所に薄茶の髪に黒い瞳の日本人らしい顔立ちの女性が座っていた。

「やれやれ、無事に姿を取り戻したようだな。」

竜がゆっくりと起き上がり彼女を自分の手に乗せたまま持ち上げた。

まじまじと彼女を見つめてからゆっくりと私に目を向ける。

「よいか?其方の母親、ベル・スリジェは己に与えられた時間を全うした。定められた時を変えることができるのは我より遥か高き尊き方だけだ。

更に申せば其方の母は多少の未練は残しつつも概ね満足して旅立っていった。
それはそこにいる其方の父親あってのことのようだがな。」

ハッとしてお父様を振り返ると相変わらず顔色ひとつ変えていないけど少し嬉しそうにも見える。

「安らかな休息をとるものを邪魔だてしたくはない。
他に望むことは?」

尋ねられて困り果ててしまいのんちゃんに目を向けると、のんちゃんはアゴに手を当てて何やら考えこんでいる。

「望みは今申し上げなければいけませんか?」

「うん?いや、其方らの生きる時間は短い。それ故今尋ねただけのこと。
願えば声が届くよう繋いでおこう」

フッと私たちは頭上から息を吹きかけられ、一瞬体がカァっと熱くなったけどすぐにおさまった。

竜はスッと顔を高く上げてから国王陛下に視線を向けた。

「彼女は連れて行く。混乱をもたらした詫びにイシェラとリトアに今しばらくの平安と繁栄を約束しよう。

我は再び両国の境、今は魔の森と呼ばれるあの場所に身を埋め加護を与える。」

偽ニリーナだった人物がギュッと竜の手にしがみついているように見える。

「貴女もそれを望んでいますか?」

考えるより先に声が出ていた。

一歩前に出て高い場所にいる彼女を見上げながら問う。

竜はゆっくりと身をかがめ彼女を私の前に差し出してくれた。

知り合いではない。でも、顔だちや身にまとう空気だろうか…ひどく懐かしくて嬉しいと同時に何故か寂しい気持ちになる。

彼女も私やのんちゃん、リークを眺めて懐かしそうに目を細めてからゆっくりうなずいた。

「今度こそ、自分が望む場所で生きられる。」

きっぱりそう話してから彼女はゆっくり竜の手のひらに座り、再び竜は身を起こした。

「さてな、邪魔をした。あまり長くこの場に留まっては再び支障が起こりかねる。

我の加護に過信してこの地を汚すことのないようにな。
我が常に目を光らせていることを忘れるでないぞ。」

竜は再び何かを外したのか凄まじい威圧感が辺りに満ち溢れる。

もう声をかけることはおろか目を合わせることも難しい。

「あぁ、そうだ。これは此度の功績者である其方にやろう。」

竜は光の渦から何かを摘み出しのんちゃんの杖にグイッと押し込んだ。

「我にとっては不要なものだが時に人は何故か命を賭してでもこれを欲しがる。まったく理解しがたい生き物よな。

それから聖女よ。この力、人一人の魔力にしては大したものだ。
これからも其方の助けになるであろう。大切にせよ。」

光の渦も長い爪の間に挟みポンっと私に向かって投げた。急に間近に迫ってきた光は眩しいを通り越して目を開けていられない。

一瞬で目の前が真っ白になった私はそのまま気を失った。
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