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第三章 魔法学園
アリアドネ妃の願い
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固まったアリアドネ妃が何か言う前に
「ダメだ!」
悲鳴のような怒鳴り声が響き、アリアドネ妃の背後にいた治療士がガバッと背後からアリアドネ妃に抱きついた。
目を丸くする私たちをよそにアリアドネ妃は正気を取り戻したかのようにハッとして小さく笑みを浮かべながらポンポンっと回された手をたたく。
「大丈夫よ、クルート。どこにも行かないわ。」
アリアドネ妃から発せられたクルートという言葉に私たちは更に驚いてしまった。
クリアフォルト王弟殿下は城で陛下の代行業務を行っているはずじゃ…
見ると陛下も呆れた顔で渋々アリアドネ妃から離れフードを外した王弟殿下を眺めている。
その表情は呆れ顔から、まぁ大人しく城で帰りを待っているはずないか…という納得と諦めがまじったような表情に落ち着いていく。
「私が戻りたいと願っていたのは何十年も前、まだこの国の自分の環境を受け入れられていなかった頃のことですわ。」
アリアドネ妃は真っ直ぐに竜を見つめて落ち着いた様子でそう話した。
「何十年前など、我にとってはつい今しがたのことに思えるが…
まぁ、心が変わったならばそれも良い。
何しろ私のまどろみを脅かすほどの強い思いを感じたものでな。
何やら片付けねば死んでも死にきれぬだの見られるくらいならいっそ己の棺とともに燃やして欲しいだの物騒な思いだったからよく覚えておる。」
途端にアリアドネ妃が全身真っ赤になって両手で顔を覆った。
「いや~聞かれてたなんて聞こえてたなんて!!」
「アリア、どうした?奴に何かされたのか?」
どこに隠していたのか長剣を抜いた王弟殿下の手を押さえながらアリアドネ妃は首を横に振っている。
「時空を司る偉大なお方、全てを見通すお方に願いがあります。」
「なんだ、申してみよ。」
「この地に転生する以前の私の生活をしていた部屋にあるオタ…
愛蔵していたたくさんの品々をですね。消して…いえ、それは無理。
私の手元に…う~それも無理か…」
アリアドネ妃はチラチラ王弟殿下を見ながら頭を抱えている。
「そう、私の信頼する友人の手に渡るようにしていただきたいのです。
私の家族が目にする前に!」
「ふむ、中々興味深い願いだ。
まぁ良かろう。その友人とやらと夢路で繋いで直接願いでればよい。
一度の機会にはなるだろうが友人がそなたの願いを引き受けて実行するまで見守ってやろう。」
「いやいや、見守らなくても大丈夫です。本当に、ありがたいですが本当に!」
慌てるアリアドネ妃を竜の掌に座ったまま偽ニリーナが少し呆れた様子で見つめている。
竜は続いてこちらにも頭を傾けてきた。
「其方たちはどうする?」
私はさっきから言ってみようかどうしようか悩んでいた願いがある。
でもそれを口に出すべきか迷ってしまいもじもじしていたら何かを察したのんちゃんがツンっとつついてうながしてきた。
そっと顔を見上げると硬い表情だけどコクッと強くうなずいてくれる。
スゥっと息を吸って吐いてから私は思い切って巨大な竜の顔を見上げる。
「私の願いは…
願いは…
生き返らせていただきたいのです。」
のんちゃんがヒュッと息を呑む音がした。
「私のお母様。ベル・スリジェを。」
最後は小さな声になってしまった。
それはお父様やお祖母様たち皆がどう思うかが気にかかったからだ。
恐る恐るお父様に目を向けると驚愕の表情で固まっている。
場がシンと静まり返ってしまい私はオロオロと左右に目を走らせながら震える手を握り合わせて竜からの返事を待った。
「ダメだ!」
悲鳴のような怒鳴り声が響き、アリアドネ妃の背後にいた治療士がガバッと背後からアリアドネ妃に抱きついた。
目を丸くする私たちをよそにアリアドネ妃は正気を取り戻したかのようにハッとして小さく笑みを浮かべながらポンポンっと回された手をたたく。
「大丈夫よ、クルート。どこにも行かないわ。」
アリアドネ妃から発せられたクルートという言葉に私たちは更に驚いてしまった。
クリアフォルト王弟殿下は城で陛下の代行業務を行っているはずじゃ…
見ると陛下も呆れた顔で渋々アリアドネ妃から離れフードを外した王弟殿下を眺めている。
その表情は呆れ顔から、まぁ大人しく城で帰りを待っているはずないか…という納得と諦めがまじったような表情に落ち着いていく。
「私が戻りたいと願っていたのは何十年も前、まだこの国の自分の環境を受け入れられていなかった頃のことですわ。」
アリアドネ妃は真っ直ぐに竜を見つめて落ち着いた様子でそう話した。
「何十年前など、我にとってはつい今しがたのことに思えるが…
まぁ、心が変わったならばそれも良い。
何しろ私のまどろみを脅かすほどの強い思いを感じたものでな。
何やら片付けねば死んでも死にきれぬだの見られるくらいならいっそ己の棺とともに燃やして欲しいだの物騒な思いだったからよく覚えておる。」
途端にアリアドネ妃が全身真っ赤になって両手で顔を覆った。
「いや~聞かれてたなんて聞こえてたなんて!!」
「アリア、どうした?奴に何かされたのか?」
どこに隠していたのか長剣を抜いた王弟殿下の手を押さえながらアリアドネ妃は首を横に振っている。
「時空を司る偉大なお方、全てを見通すお方に願いがあります。」
「なんだ、申してみよ。」
「この地に転生する以前の私の生活をしていた部屋にあるオタ…
愛蔵していたたくさんの品々をですね。消して…いえ、それは無理。
私の手元に…う~それも無理か…」
アリアドネ妃はチラチラ王弟殿下を見ながら頭を抱えている。
「そう、私の信頼する友人の手に渡るようにしていただきたいのです。
私の家族が目にする前に!」
「ふむ、中々興味深い願いだ。
まぁ良かろう。その友人とやらと夢路で繋いで直接願いでればよい。
一度の機会にはなるだろうが友人がそなたの願いを引き受けて実行するまで見守ってやろう。」
「いやいや、見守らなくても大丈夫です。本当に、ありがたいですが本当に!」
慌てるアリアドネ妃を竜の掌に座ったまま偽ニリーナが少し呆れた様子で見つめている。
竜は続いてこちらにも頭を傾けてきた。
「其方たちはどうする?」
私はさっきから言ってみようかどうしようか悩んでいた願いがある。
でもそれを口に出すべきか迷ってしまいもじもじしていたら何かを察したのんちゃんがツンっとつついてうながしてきた。
そっと顔を見上げると硬い表情だけどコクッと強くうなずいてくれる。
スゥっと息を吸って吐いてから私は思い切って巨大な竜の顔を見上げる。
「私の願いは…
願いは…
生き返らせていただきたいのです。」
のんちゃんがヒュッと息を呑む音がした。
「私のお母様。ベル・スリジェを。」
最後は小さな声になってしまった。
それはお父様やお祖母様たち皆がどう思うかが気にかかったからだ。
恐る恐るお父様に目を向けると驚愕の表情で固まっている。
場がシンと静まり返ってしまい私はオロオロと左右に目を走らせながら震える手を握り合わせて竜からの返事を待った。
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