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第三章 魔法学園

異形の主の登場です

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ぐるぐると渦を巻きながら光を放っていたものからそよ風のようなものが吹き始め、それは少しずつ着実に強風へ変わっていく。

「のんちゃん…」

息を飲み差し出した手をのんちゃんはすかさず握ってくれた。

「さすが、異形の主。半端ない魔力波だ。」

風に髪をあおられながらのんちゃんは嬉しそうにしている。

私はといえばだんだん真っ直ぐ前を向いていることも難しくなり息をするためにうつむいたり後ろを向いてやり過ごすはめになっていた。
のんちゃん以外の周りの人も同じようにして風をやり過ごしている。

不思議なのは身体が風に押されたり吹き飛ばされそうになったりしないことだ。

会場につけられた幕もはためいてはいても吹き飛ばされてはいない。

「ごめんねマリー、息苦しいとは思うけど今この魔力に対抗してシールドを張る方が危険なんだ。もう少しの辛抱だから。」


のんちゃんが声を張り上げて言ってくれたけど私はうなずくことしか出来なかった。

この風の中よく前を向いていられるなぁ。本当にすごいよのんちゃん。

感心していた時、風と一緒に暖かい空気がぶあっと広がり始めた。
暖かい…っというか暑い!

そう感じた瞬間から地響きが起き、よろめきそうになった私を繋いだ手が引っ張って助けてくれる。
背後からは今まで感じた事がない巨大な重々しい存在感が突き刺さる。

私はゆっくりと深呼吸をしてから意を決して正面に向き直った。

渦は相変わらず輝きを放ってぐるぐる回っているけどその渦の真横に見慣れない赤茶色の壁のようなものがある。

ゆっくりと頭を上げ見上げていくとようやく全体像が見えてきた。

巨大な、あきらかにこの会場よりも大きなものがそびえ立っていた。

会場を壊さずにどうやってここに存在しているんだろう。

呆気にとられた頭にはそんな疑問が浮かぶばかりで声を出す事もできない。

「異形の主…」

リークの呟きでようやく理解が追いついた。

そうか、彼?が異形の主。時空を操る竜。偽ニリーナが待ち望んでいた存在なんだ。

偽ニリーナは…

と目を向けるとその姿がない。

キョロキョロする私の肩をのんちゃんがつついて示された方に目を向けると竜の巨大な手の上に偽ニリーナが座っている。

竜と彼女は無言で見つめ合っているだけだけどおそらく念話で言葉を交わしているようだ。

会場内の人たちは誰一人動くことなくただその様子を見上げている。

のんちゃんと握り合った手にギュッと力が込められたとき、竜が偽ニリーナから視線を外しゆっくりとこちらに顔を向けた。

「精霊と神に認められし賢者よ。」

突然響き渡った声はこの世に存在するどんな音とも違う。圧倒的な力と威厳に満ちていて思わず頭を下げて礼をとりたくなるような響きに満ちていた。

「そなたに礼を申さねばならぬようだ。今少し話をしたい。」

「恐れながら」

アロイスが硬い口調で声を出した。

「我ら小さき者のために今少し力を抑えてはいただけないでしょうか?」

「ふむ…」

竜が小さくうなってからしばらくして緊張で強張っていた身体がフッと軽くなった。
会場に満ちていた圧倒的な圧力が少しずつ弱まり私はようやく周りに目を向ける余裕ができた。
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