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第三章 魔法学園
婚約破棄なんて聞いてません
しおりを挟むエドワード殿下が微笑みを浮かべながらまっすぐに手を伸ばしたった一人を見つめている。
シンと静まり返った会場でエドワード殿下がもう一度問いかける。
「引き受けていただけますか?
セーラ・ローランド伯爵令嬢。」
ザッと音が聞こえるくらいの勢いで私の隣に立っていたセーラに会場中の視線が集まる。
セーラは知ってたのかな?
隣に立っていた私も目を丸くしてセーラを見つめてしまう。
セーラは頬を染めながらも動揺した様子は見せずにピンと背筋を伸ばしたまま優雅に頭を下げた。
誰もが固唾を飲んで彼女の返事を待つ中、
「はぁ?何で?」
と場違いな声が聞こえた。
彼女にしてみたら小さな声でつぶやいたつもりだったのだろうが静まり返っていた会場ではかなりの人数にそのつぶやきが聞こえてしまったようで今度は彼女に注目が集まる。
「何かおかしいだろうか?ロベリア・ハフス嬢?」
エドワード殿下は頭を下げたままのセーラから視線を外さずに問いかけた。
「いえ、、殿下はてっきり…
いいえ、何でもありません。無礼をお許しください。」
何か言いよどみながら口を閉ざした彼女にエドワード殿下はようやく目を向ける。
「今日は祝いの場、そして私の記念すべき日となるだろう。
皆に憂いなく楽しんでもらうためにも
思ったことを正直に話して欲しい。」
口元は優しげな笑みを浮かべているけどその目は変わらず鋭いままだ。
「いえ、私はただ殿下が他の方を婚約者にお選びになるのだと思っておりましたので…
不躾なことを申し上げて大変失礼いたしました。」
「他に皇太子妃に相応しいものがいると?誰のことか話せるだろうか?」
表情を変えずに問いかけるエドワード殿下。
「恐れながら、数百年ぶりに現れた聖女様。マリーベル・スリジェ辺境伯令嬢です。」
ちょっと、ちょっと、ちょっと待って?!
何で私!何で急にそこで私?!
今度は会場中の視線が私に集まる。
私は振り返って彼女を問いただしたい気持ちでいっぱいだったけど何とか思いとどまって真っ直ぐ前をにらみつけていた。
「ロベリア・ハフス嬢、ご存知かとは思うが彼女はエシャルロット公爵家の次男、アロイス・エシャルロットの婚約者だ。」
「もちろん存じております。
しかし、その婚約、エシャルロット様から破棄されたとの噂が…」
なるほど、そう来たか。
私はなるべく、何の話?
というように、冷静に首をかしげてみせる。
「婚約破棄?聞いていないが。」
会場は抑えきれなかったざわめきに満たされる。
「兄上、発言をお許しいただけますか?」
リークのキリッとした声が響き会場は再び静寂に満たされる。
エドワード殿下が黙ってうなずくとリークは前に進み出て殿下の隣に並ぶ。
「おそらく彼女が聞いた噂というのは私とエシャルロット公爵令嬢のことでしょう。
婚約破棄ではなく互いの合意の上での解消ですが。」
壇上にいるリノアことのんちゃんは笑みを浮かべたままゆっくりとうなずいた。
会場にいる人たちは相次ぐ衝撃的な発表に私以上に混乱している様子だ。
「弟の婚約解消の話は確かに聞いている。」
「いいえ。」
エドワード殿下の言葉に被せるように偽ニリーナ、今はロベリア・ハフスさんか…が発言する。
誰も彼女の発言を止めようとしないのも彼女の魔力の一部なのだろうか?
「失礼いたしました。ですが、私は本人から婚約破棄の話を聞いたのです。」
この言葉にはさすがに振り返って見てしまった。
ハフスさんだ。
真っ赤な髪も自信に満ちた眼差しも確かに彼女のものだ。
偽ニリーナの変装?は本当にすごい。
本人は今ごろ自分の姿で勝手に振る舞われていることにヤキモキしてるだろうけど。
彼女は私に向かってにっこり微笑むと会場の入り口付近を振り返った。
私も周りの人達もつられたようにそちらを向く。
ゆっくりと人垣が分かれコツンコツンと靴音が響くなか見慣れた懐かしい姿が現れた。
急激に背が伸びる前のアロイスが少し硬い表情を浮かべ真っ直ぐにこちらに近づいてきた。
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