悪役令嬢とヒロインはハッピーエンドを目指したい

ゆりまき

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第三章 魔法学園

招かれざる客  (偽ニリーナ視点)

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「だからマリーを憎んでるの?同じ髪色だから?」

声が聞こえて目だけ横に動かすとぼんやりとした光に包まれたアロイスの姿があった。

「化けて出るならあの娘の側に出た方が喜ばれるんじゃない?」

「そうしたいんだけどなかなか自分の意思で自由に動き回れるわけじゃないみたいでさ。
ねぇ、悪いのは周りの大人たちでその女の子一人を恨むのは違うんじゃない?」

無視しようと彼から視線を外したけどそこに立っている慣れない気配に背中が寒くなってくる。

「それだけじゃない。あの娘は…」

気づけば小さくつぶやきが漏れていた。

「何々、話してよ~気になるじゃん。聞けば納得して俺も素直にあっちへ行けるかもしれないし。」

まるで生身の人間のままであるかのような軽い口調に頭痛がしてくる。

私は目頭を押さえて軽くうつむいた。

「聞いたら消えるの?」

「さぁ。約束はできないかな。」

グッと唇をかんで手を握る。

どうも調子が狂う。
私の歩まされてきた長い年月を思えばこいつなんてただ魔力の強かった若造なはずなのに。
だけど強い魔力を持っていた者の霊体を野放しにしておくのは危険だ。

「聞きたいなら聞かせてあげる。そのかわり気分が悪くなるからそんな風に突っ立ってないでそこに座って。」

アロイスは私が指差した椅子の側にスススッと移動してしばらく眺めた後フワッとそれに座った。

少し意外だ。もっと疑ってくると思ったのに。
まぁいい。素直に従ってくれる方がこちらもやりやすい。

私はピンと背筋を伸ばして口を開いた。




真っ暗な洞窟に連れていかれた私は皿に山盛りにされた果物や動物の毛皮、木の実や魚や丁寧に織られた布の山とともに置き去りにされた。

縛られたりはしていないけど体はまだ動かないし洞窟の入り口は入って来た時と同じように巨大な岩に塞がれた。

真っ暗な闇の中で一体何が現れるのか、身を縮こめて震えることもできずただ呆然と前を向いて座っていることしかできない。

遠くから地響きが近づいてきた気がする。岩をも溶かしそうな熱風と微かな唸り声も。

何も見えないと思っていたけれど輝く二つの星が浮かんでいる。それがだんだんと大きくなっていき、私は気づいた。星ではない。あれは…目だ。

飛び上がって逃げ出したいけれど今は身動きひとつとることができない。

それはゆっくりと近づき、果物の山、毛皮の山の辺りを彷徨っていたと思うとついに私の顔の目の前まできた。

よく日に当たった古木のようなザラザラと温かいものが首筋に触れた後、私の身体は神輿ごとフワリと浮かび上がり同様にふわふわと浮かぶ他の品々と共に洞窟の奥へと運ばれていく。

私は恐怖のあまり気を失ってしまったのだろう。

気づいた時には不思議な場所にいた。
洞窟の天井が丸く切り取られたように開いて白っぽい曇り空が見えている。その真下には静かな湖面の大きな湖があり、その周りには柔らかい薄緑の芝生が広がっている。

私は黙って空や湖を眺めた後ゆっくりと体を起こした。ようやく痺れが抜けて自由に動けるようだ。早く逃げなければとサッと立ち上がった時。私の真横に静かにうずくまっているものに気がついた。
巨大な竜の顔だ。その瞳は膜が張ったように薄茶色に濁っているが光を失ってはいない。
鼻からフッと吐き出された空気は風の塊になって私にぶつかりよろめいて尻もちを着いてしまった。

焦茶色の巨大な身体と長い尾が湖を一周するように長々と伸びていて到底逃げ出せるような相手ではないと絶望が襲ってくる。

あちらはじっくりと観察するように私を眺めてからゆっくりとその巨大な口を開く。大きすぎて尖った岩山のように見える歯に私は覚悟を決めてギュッと目を閉じた。

どうか、一飲みで痛い思いをあまりしないですみますように。

そう願う私の頭上に滝のようなものが降りかかる。
衝撃に身を縮こめてからゆっくり目を開くと竜は興味を失ったかのように自分の手の上に顔を乗せて薄目を開けてこちらを見ている。

自分の身体を見下ろすと全身ずぶ濡れで少し粘ついている。

唾をかけられたんだ。と分かった私は気持ち悪さに身震いしてとにかく洗い流したくてジリジリと湖に近づく。

竜は私の動きを目で追いはしても止める様子はない。

湖は澄んだエメラルドグリーンをしていてとても美しいけれど底がどこなのか分からないとにかく水を手ですくってバシャバシャ両手を洗っているとスッと竜の尾が水の中をすべるように近づいてきて私の全身に水を浴びせかける。

ゲホゲホむせながら立ち上がって竜の顔を振り返るとやはり薄目でこちらを見ている。

その眼差しから敵意や獲物を狙う獰猛な様子は感じられない。

3回ほど浴びせられた水のおかげですっかり唾が洗い流された身体に上からフワッと布がかけられる。私と一緒に並んでいたお供物の布だ。ふわふわと果物の皿と魚の載った皿も目の前に降りてくる。

「た、食べろってこと?」

初めて出した声はひどく震えてしまったけれど聞こえたはずだ。しかし竜は何も言わずジッと見てくるだけ。

そもそも言葉は通じないのかもしれない。

私はそっと果物の一つを手に取り一口食べる。甘酸っぱい果汁に何故か涙がこみ上げてきた。
これからどうなってしまうのか、何でこんな目に遭うのか。

グスグス泣きながら食べる私を竜は身動き一つせずにただただ眺めていた。
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