195 / 247
第三章 魔法学園
招かれざる客 (偽ニリーナ視点)
しおりを挟む
「だからマリーを憎んでるの?同じ髪色だから?」
声が聞こえて目だけ横に動かすとぼんやりとした光に包まれたアロイスの姿があった。
「化けて出るならあの娘の側に出た方が喜ばれるんじゃない?」
「そうしたいんだけどなかなか自分の意思で自由に動き回れるわけじゃないみたいでさ。
ねぇ、悪いのは周りの大人たちでその女の子一人を恨むのは違うんじゃない?」
無視しようと彼から視線を外したけどそこに立っている慣れない気配に背中が寒くなってくる。
「それだけじゃない。あの娘は…」
気づけば小さくつぶやきが漏れていた。
「何々、話してよ~気になるじゃん。聞けば納得して俺も素直にあっちへ行けるかもしれないし。」
まるで生身の人間のままであるかのような軽い口調に頭痛がしてくる。
私は目頭を押さえて軽くうつむいた。
「聞いたら消えるの?」
「さぁ。約束はできないかな。」
グッと唇をかんで手を握る。
どうも調子が狂う。
私の歩まされてきた長い年月を思えばこいつなんてただ魔力の強かった若造なはずなのに。
だけど強い魔力を持っていた者の霊体を野放しにしておくのは危険だ。
「聞きたいなら聞かせてあげる。そのかわり気分が悪くなるからそんな風に突っ立ってないでそこに座って。」
アロイスは私が指差した椅子の側にスススッと移動してしばらく眺めた後フワッとそれに座った。
少し意外だ。もっと疑ってくると思ったのに。
まぁいい。素直に従ってくれる方がこちらもやりやすい。
私はピンと背筋を伸ばして口を開いた。
真っ暗な洞窟に連れていかれた私は皿に山盛りにされた果物や動物の毛皮、木の実や魚や丁寧に織られた布の山とともに置き去りにされた。
縛られたりはしていないけど体はまだ動かないし洞窟の入り口は入って来た時と同じように巨大な岩に塞がれた。
真っ暗な闇の中で一体何が現れるのか、身を縮こめて震えることもできずただ呆然と前を向いて座っていることしかできない。
遠くから地響きが近づいてきた気がする。岩をも溶かしそうな熱風と微かな唸り声も。
何も見えないと思っていたけれど輝く二つの星が浮かんでいる。それがだんだんと大きくなっていき、私は気づいた。星ではない。あれは…目だ。
飛び上がって逃げ出したいけれど今は身動きひとつとることができない。
それはゆっくりと近づき、果物の山、毛皮の山の辺りを彷徨っていたと思うとついに私の顔の目の前まできた。
よく日に当たった古木のようなザラザラと温かいものが首筋に触れた後、私の身体は神輿ごとフワリと浮かび上がり同様にふわふわと浮かぶ他の品々と共に洞窟の奥へと運ばれていく。
私は恐怖のあまり気を失ってしまったのだろう。
気づいた時には不思議な場所にいた。
洞窟の天井が丸く切り取られたように開いて白っぽい曇り空が見えている。その真下には静かな湖面の大きな湖があり、その周りには柔らかい薄緑の芝生が広がっている。
私は黙って空や湖を眺めた後ゆっくりと体を起こした。ようやく痺れが抜けて自由に動けるようだ。早く逃げなければとサッと立ち上がった時。私の真横に静かにうずくまっているものに気がついた。
巨大な竜の顔だ。その瞳は膜が張ったように薄茶色に濁っているが光を失ってはいない。
鼻からフッと吐き出された空気は風の塊になって私にぶつかりよろめいて尻もちを着いてしまった。
焦茶色の巨大な身体と長い尾が湖を一周するように長々と伸びていて到底逃げ出せるような相手ではないと絶望が襲ってくる。
あちらはじっくりと観察するように私を眺めてからゆっくりとその巨大な口を開く。大きすぎて尖った岩山のように見える歯に私は覚悟を決めてギュッと目を閉じた。
どうか、一飲みで痛い思いをあまりしないですみますように。
そう願う私の頭上に滝のようなものが降りかかる。
衝撃に身を縮こめてからゆっくり目を開くと竜は興味を失ったかのように自分の手の上に顔を乗せて薄目を開けてこちらを見ている。
自分の身体を見下ろすと全身ずぶ濡れで少し粘ついている。
唾をかけられたんだ。と分かった私は気持ち悪さに身震いしてとにかく洗い流したくてジリジリと湖に近づく。
竜は私の動きを目で追いはしても止める様子はない。
湖は澄んだエメラルドグリーンをしていてとても美しいけれど底がどこなのか分からないとにかく水を手ですくってバシャバシャ両手を洗っているとスッと竜の尾が水の中をすべるように近づいてきて私の全身に水を浴びせかける。
ゲホゲホむせながら立ち上がって竜の顔を振り返るとやはり薄目でこちらを見ている。
その眼差しから敵意や獲物を狙う獰猛な様子は感じられない。
3回ほど浴びせられた水のおかげですっかり唾が洗い流された身体に上からフワッと布がかけられる。私と一緒に並んでいたお供物の布だ。ふわふわと果物の皿と魚の載った皿も目の前に降りてくる。
「た、食べろってこと?」
初めて出した声はひどく震えてしまったけれど聞こえたはずだ。しかし竜は何も言わずジッと見てくるだけ。
そもそも言葉は通じないのかもしれない。
私はそっと果物の一つを手に取り一口食べる。甘酸っぱい果汁に何故か涙がこみ上げてきた。
これからどうなってしまうのか、何でこんな目に遭うのか。
グスグス泣きながら食べる私を竜は身動き一つせずにただただ眺めていた。
声が聞こえて目だけ横に動かすとぼんやりとした光に包まれたアロイスの姿があった。
「化けて出るならあの娘の側に出た方が喜ばれるんじゃない?」
「そうしたいんだけどなかなか自分の意思で自由に動き回れるわけじゃないみたいでさ。
ねぇ、悪いのは周りの大人たちでその女の子一人を恨むのは違うんじゃない?」
無視しようと彼から視線を外したけどそこに立っている慣れない気配に背中が寒くなってくる。
「それだけじゃない。あの娘は…」
気づけば小さくつぶやきが漏れていた。
「何々、話してよ~気になるじゃん。聞けば納得して俺も素直にあっちへ行けるかもしれないし。」
まるで生身の人間のままであるかのような軽い口調に頭痛がしてくる。
私は目頭を押さえて軽くうつむいた。
「聞いたら消えるの?」
「さぁ。約束はできないかな。」
グッと唇をかんで手を握る。
どうも調子が狂う。
私の歩まされてきた長い年月を思えばこいつなんてただ魔力の強かった若造なはずなのに。
だけど強い魔力を持っていた者の霊体を野放しにしておくのは危険だ。
「聞きたいなら聞かせてあげる。そのかわり気分が悪くなるからそんな風に突っ立ってないでそこに座って。」
アロイスは私が指差した椅子の側にスススッと移動してしばらく眺めた後フワッとそれに座った。
少し意外だ。もっと疑ってくると思ったのに。
まぁいい。素直に従ってくれる方がこちらもやりやすい。
私はピンと背筋を伸ばして口を開いた。
真っ暗な洞窟に連れていかれた私は皿に山盛りにされた果物や動物の毛皮、木の実や魚や丁寧に織られた布の山とともに置き去りにされた。
縛られたりはしていないけど体はまだ動かないし洞窟の入り口は入って来た時と同じように巨大な岩に塞がれた。
真っ暗な闇の中で一体何が現れるのか、身を縮こめて震えることもできずただ呆然と前を向いて座っていることしかできない。
遠くから地響きが近づいてきた気がする。岩をも溶かしそうな熱風と微かな唸り声も。
何も見えないと思っていたけれど輝く二つの星が浮かんでいる。それがだんだんと大きくなっていき、私は気づいた。星ではない。あれは…目だ。
飛び上がって逃げ出したいけれど今は身動きひとつとることができない。
それはゆっくりと近づき、果物の山、毛皮の山の辺りを彷徨っていたと思うとついに私の顔の目の前まできた。
よく日に当たった古木のようなザラザラと温かいものが首筋に触れた後、私の身体は神輿ごとフワリと浮かび上がり同様にふわふわと浮かぶ他の品々と共に洞窟の奥へと運ばれていく。
私は恐怖のあまり気を失ってしまったのだろう。
気づいた時には不思議な場所にいた。
洞窟の天井が丸く切り取られたように開いて白っぽい曇り空が見えている。その真下には静かな湖面の大きな湖があり、その周りには柔らかい薄緑の芝生が広がっている。
私は黙って空や湖を眺めた後ゆっくりと体を起こした。ようやく痺れが抜けて自由に動けるようだ。早く逃げなければとサッと立ち上がった時。私の真横に静かにうずくまっているものに気がついた。
巨大な竜の顔だ。その瞳は膜が張ったように薄茶色に濁っているが光を失ってはいない。
鼻からフッと吐き出された空気は風の塊になって私にぶつかりよろめいて尻もちを着いてしまった。
焦茶色の巨大な身体と長い尾が湖を一周するように長々と伸びていて到底逃げ出せるような相手ではないと絶望が襲ってくる。
あちらはじっくりと観察するように私を眺めてからゆっくりとその巨大な口を開く。大きすぎて尖った岩山のように見える歯に私は覚悟を決めてギュッと目を閉じた。
どうか、一飲みで痛い思いをあまりしないですみますように。
そう願う私の頭上に滝のようなものが降りかかる。
衝撃に身を縮こめてからゆっくり目を開くと竜は興味を失ったかのように自分の手の上に顔を乗せて薄目を開けてこちらを見ている。
自分の身体を見下ろすと全身ずぶ濡れで少し粘ついている。
唾をかけられたんだ。と分かった私は気持ち悪さに身震いしてとにかく洗い流したくてジリジリと湖に近づく。
竜は私の動きを目で追いはしても止める様子はない。
湖は澄んだエメラルドグリーンをしていてとても美しいけれど底がどこなのか分からないとにかく水を手ですくってバシャバシャ両手を洗っているとスッと竜の尾が水の中をすべるように近づいてきて私の全身に水を浴びせかける。
ゲホゲホむせながら立ち上がって竜の顔を振り返るとやはり薄目でこちらを見ている。
その眼差しから敵意や獲物を狙う獰猛な様子は感じられない。
3回ほど浴びせられた水のおかげですっかり唾が洗い流された身体に上からフワッと布がかけられる。私と一緒に並んでいたお供物の布だ。ふわふわと果物の皿と魚の載った皿も目の前に降りてくる。
「た、食べろってこと?」
初めて出した声はひどく震えてしまったけれど聞こえたはずだ。しかし竜は何も言わずジッと見てくるだけ。
そもそも言葉は通じないのかもしれない。
私はそっと果物の一つを手に取り一口食べる。甘酸っぱい果汁に何故か涙がこみ上げてきた。
これからどうなってしまうのか、何でこんな目に遭うのか。
グスグス泣きながら食べる私を竜は身動き一つせずにただただ眺めていた。
0
お気に入りに追加
107
あなたにおすすめの小説

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

【完結】もう辛い片想いは卒業して結婚相手を探そうと思います
ユユ
恋愛
大家族で大富豪の伯爵家に産まれた令嬢には
好きな人がいた。
彼からすれば誰にでも向ける微笑みだったが
令嬢はそれで恋に落ちてしまった。
だけど彼は私を利用するだけで
振り向いてはくれない。
ある日、薬の過剰摂取をして
彼から離れようとした令嬢の話。
* 完結保証付き
* 3万文字未満
* 暇つぶしにご利用下さい

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。
《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。

お姉様に恋した、私の婚約者。5日間部屋に篭っていたら500年が経過していました。
ごろごろみかん。
恋愛
「……すまない。彼女が、私の【運命】なんだ」
──フェリシアの婚約者の【運命】は、彼女ではなかった。
「あなたも知っている通り、彼女は病弱だ。彼女に王妃は務まらない。だから、フェリシア。あなたが、彼女を支えてあげて欲しいんだ。あなたは王妃として、あなたの姉……第二妃となる彼女を、助けてあげて欲しい」
婚約者にそう言われたフェリシアは──
(え、絶対嫌なんですけど……?)
その瞬間、前世の記憶を思い出した。
彼女は五日間、部屋に籠った。
そして、出した答えは、【婚約解消】。
やってられるか!と勘当覚悟で父に相談しに部屋を出た彼女は、愕然とする。
なぜなら、前世の記憶を取り戻した影響で魔力が暴走し、部屋の外では【五日間】ではなく【五百年】の時が経過していたからである。
フェリシアの第二の人生が始まる。
☆新連載始めました!今作はできる限り感想返信頑張りますので、良ければください(私のモチベが上がります)よろしくお願いします!

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?
宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。
そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。
婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。
彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。
婚約者を前に彼らはどうするのだろうか?
短編になる予定です。
たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます!
【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。
ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる