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第三章 魔法学園

この世界、本当に乙女ゲームなんですか?

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「わざと転ばせて優しく助け、目的を遂げる。さすがです。アスターさん。」

「嫌ねソリーそんな風に言わないでくださいな。」

ソリーさんに冷静なまなざしを向けられながらアスターさんは手の中で玉をコロコロ転がして見せる。

「意識を失わせたり暴力を振ったわけではないですからこのくらい許してくださいな」

にっこり小首をかしげるアスターさんは妖精のように無邪気で純粋に見える。

「ルルさんが素早く張り付いていた魔力の場所を指摘してくださったからとても助かりましたわ。」

そうかルルは人の魔力がよく見えるんだもんね。

「その捕まえた魔力のことが偽ニリーナ様に気づかれていないんでしょうか?」

「大丈夫です。ソリーが自身の魔力とすり替えたので変わらずにあの侍女からの映像が送られていますわ。」

ソリーさんがすり替えた?てっきりアスターさんが動いたんだと思ってたけど…

アスターさんは戸惑ったような表情を浮かべている私たちに気づきふふふと笑った。

「私はただのおとりです。ソリーにも訓練の場を与えなければいけませんからね。」

ソリーさんは黙ってアスターさんにお辞儀をしている。

「さぁ、この手に入れた魔力を元にネズミの居場所を見つけ出し退治致しましょう。」

ウキウキしているようなアスターさんは私たちを見回してにっこり微笑んだ。

その日はさすがに遅くなったのでそれぞれ部屋に帰って休むことになった。

部屋ではアイリーンが心配そうにそわそわして待ち構えていて部屋に入って早々私をぎゅっと抱きしめてくれる。

「あぁ、マリー様。お怪我がなくて本当によかったです。
ふがいない侍女で本当に申し訳ありません。
あの男は前からあやしいと思っていたんです。小物だと侮っていた私が間違っていました。いますぐあの男の首を掻き切って参ります。」

いつも穏やかに微笑んでいるアイリーンが目をギラつかせて怒っている。

いやいやちょっと待って。私辺境伯令嬢のはずなのになんで周りにいる人間が暗殺者やスパイみたいな人ばかりなんだろう…

「落ち着いてアイリーン。先生には私は大して何もされてないしちゃんと王弟殿下や公爵様が処置してくださるから」

「学園にとっても王家にとっても大事にするのは外聞が悪いのです。正当な処分が下されるか怪しいものですわ」

プリプリ怒っていながらもアイリーンはお風呂や着替えにいつも以上に気を配ってくれ私は大変だった一日を振り返りながらようやくほっとため息をつけた。




翌日、学園が休みなこの日私たちは再びアスターさんたちの部屋に集まり昨日のビー玉のようなものを取り囲んでそれぞれの魔力をアスターさんの指示に従うように発動させていた。

いつも規格外なのんちゃんが一緒にいたからみんなで協力してそれぞれの魔力を使い、力を合わせて探索に乗り出すのはとても新鮮で楽しい経験だった。

「一人ひとりの力は小さくてもこうやってみんなで一緒にやればどんな敵にでも立ち向かえるんですよね。」

何度か失敗しそうになりヒヤヒヤしながらもめげずに時間をかけてようやく偽ニリーナ様の居場所を突き止めることができたとき嬉しくてこうつぶやくとイライザに冷たい眼差しを向けられた。

「あなたの魔力は小さいとは言い難いですけれどもね。」

力の使いすぎか顔色が少し悪い。皆んなの顔を見回すと誰もが多少の疲労を漂わせているみたいだ。
確かに私は魔力量が多いらしい。退屈してあくびをしていたホープの目の前に光でボールを作って投げてあげ遊び相手をしてあげるくらいにはまだ元気が残っている。

「あらイライザさんの風魔法も大きく貢献していますわよ。
私は魔力があまり強くなくて申し訳ないですわ。」

こんなことを言うアスターさんだけど皆んなの力の動かし方、配置がとても微細で偽ニリーナ様に気づかれなかったのはアスターさんのおかげだ。

私たちが口々にそう言うとアスターさんは珍しくわざとらしくない恥ずかしそうな笑みを浮かべた。

「さてと、本当はこの先も私たちだけでやりたいですがそんな事をすれば後でお叱りを受けそうですから明日大人たちに報告に参りましょう。」

明日と言う言葉を不思議に思いあたりを見回すといつの間にか窓の外は真っ暗になっている。

いつの間にこんなに時間が経っていたんだろう…

もはや疲れを隠す気はなくなったらしいルルが小さくあくびを噛み殺している。
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