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第三章 魔法学園

私が知らない私の気持ち

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爽やかな緑の香りはこの土地に自生する薬草の香りでこの香りをかぐだけで教会での暮らしを思い出させる。

私は母のお墓の前に静かに膝をつき墓石をそっと撫でる。

滑らかで少しザラついた手触り。太陽に温められたせいでふんわりと熱を持っていてその温もりが好きで小さい頃もよくこうして触っていたのを思い出した。

「お母さん…」

サワサワと流れる風がどうしたの?と言っているように聞こえて心が緩むのと同時にぽたっと涙がこぼれた。

あれ?なんでだろう。

こぼれ落ちるまで自分が泣いていたことにも気づかなかった。

気づいた今も止められなくて何で泣いてるのか色々ありすぎて分からない。

ひどい言葉をぶつけられたから?
 
クラスメイトたちがハフスさんの言うことを信じて私を悪者だと決めつけてるから?

身に覚えのない魔法を使ってると知らないところで噂されてたから?

ハフスさんが何で私やルル、セーラたちを目の敵にするのか分からないから?

大切な友達が大変な目に遭ったのに自分は何もできないから?

イライザに避けられてるみたいだから?





のんちゃんが…いないから?


ブワっと涙がこぼれた。

一番心細い時に、一番側にいて欲しい時に一番声を聞きたい時にのんちゃんいないんだもん。

そんな風に甘えちゃいけないって分かってるんだけど…でも、やっぱり不安で仕方ない。

隣にいてくれるだけでいい。それだけで元気が出て自分で何とか解決しようと動き出すことができるはず。

あの笑顔で大丈夫だよ。って言ってくれるだけで…

のんちゃん、会いたいよ…今どこにいるの?


そんなことを呟いた時、グワンッと景色が歪み薄いガラスが割れるようなパリンッという音がしてすうっと体が前に引き込まれるような感覚に倒れ込むように床にペタンと座り込んでしまった。

「こら!いいかげんにしなさい。早く開けろ!」

ベルン先生の怒鳴り声と扉をドンドン叩く音が聞こえてきて急に現実に引き戻された気持ちになる。

飛び込んだ部屋は塔の最上階の一室らしく円形の部屋で石がむき出しの床に簡素な机に椅子が二脚。奥の隅に天蓋付きベッドが一つ。
暖炉と、屋根へ通じている小さな階段が傾斜した天井の天窓へと螺旋を描いて伸びている。

その階段のかげ、目立たない場所に置かれた椅子に困ったような表情を浮かべた老人が1人座っていた。

声を上げそうになった私に向かって黙っているように人差し指を口元で立てる。

ガタガタと天窓が揺れ、そちらを気にしている私に扉を開けるよう声を出さずに手振りで伝えてくる。

どうしよう…ベルン先生怒ってるから嫌だな~
でも開けないわけにはいかないし。
このご老人がどなたか知らないけど嫌な感じはしないから素直に従った方がいいんだろうな。

私はドンドン叩かれ続ける扉に近づく。
あれ?鍵穴なんてないけど…

首をかしげながらノブに手をかけて押し開く。

扉が少し開いた瞬間太い指が扉のフチをガッと掴み大きく開かれる。

「全く!こんな問題児は初めてだ!」

顔を真っ赤にしたベルン先生は予想通り怒り心頭という様子で身体を滑り込ませるとガッと私の手首をつかむ。

「そういう反抗的な態度をとるなら私にも考えがあるぞ!」

「待ってください、私は鍵なんて閉めてないですよ。ほら、鍵穴もないし。」

ご老人の方にも目を向けると非常に困った顔でこちらと天窓を交互に見ている。

天窓は誰かが蹴破ろうとしているかのようにガンガンいいはじめてるけどベルン先生は気にならないのかな?

ベルン先生は私を引っ張っていって椅子に座らせると目の前に腕を組んで立った。

「扉は魔法で開かなくしていたんだろう?全く白々しい。

日常的に魔法を使うクセが付いているのは学生のうちは良くないことなんだ。

魔力が有り余っているなら私がいい方法を教えてやろう。」

先生は急にしゃがんで私の両手をとる。ニヤニヤした顔が失礼だけどなんだか気持ち悪い…手を指で撫で回してるみたいな動きもなんだか嫌だ。

ガタガタミシッミシッ! 

ガシャン!バリバリ!

天窓から大きな音が響きびっくりして私はそちらを見る。

突風が私の横を吹き抜けていき気づいたらベルン先生は壁にぶつかって痛そうに顔を歪めていた。
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