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第二章 イシェラ王国

規格外は広がるよどこまでも

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「あぁ、淑女暗器戦闘部ね。」

その晩、バルコニーからやってきたのんちゃんに今日のお茶会での話をしてみた。
また魔の森の奥深くで何かやってきたらしいのんちゃんはホコリだらけのマントをバルコニーから下へ向かってパタパタ振って洗浄魔法をかけているようだ。
その背中に私は話しかけ続ける。

「イライザは入って欲しくなさそうにしてるんだけど、私は興味しかないよ。」

「いいんじゃない?技術も身につくし将来的に役立つと思うけどな。イライザは自分が入ってる歴史研究部に入ってほしかったんじゃない?人数少ないし。まぁ、淑戦も今二人しかいないけどね。」

「淑戦って呼ばれてるのか~カッコいい。」

「マリーの感覚ってちょっと独特だよな。まぁ、有希のころからそうか。」

洗浄が終わったのか綺麗になったマントをパサっと肩にかけ部屋に入ってきたのんちゃん。あ、今はアロイスだった。は成長するごとにキラキラが増している。
ふっくらしていた頬はいつの間にかシャープになってるし身長はまだ私と同じ…いや、正直に言おう私の方が大きいけど切れ長の目やスッと通った鼻筋がかっこいい。
襟足辺りでスッキリと切られた髪は昔より濃く黄色っぽい金髪になってきたし見た目は完璧に王子様だ。

「いや~今日森でヴェルフィアウルフに出くわしちゃって。素材にちょうどいいと思ったら子連れでさ。
さすがにまずいかなぁと思って倒すのはやめたんだ。」

こういう事をさらっと言い始めなければだけど。
だって私は知ってる。普通ヴェルフィアウルフに出会ってしまったらできることは一つ。この世にお別れを告げるしかない。

「え、待って?子連れのヴェルフィアウルフって魔の森の女帝じゃない?」

ヴェルフィアウルフのメスはとても貴重で魔の森の生態系の頂点に君臨している。とくに子連れの時期は群れ全体でガッチリ守られてると聞くけど。

「子供の一匹が死にそうになってて。
毒にやられてたんだよ。
どうにかしてほしいと思って俺のところに来たみたいでさ。」

アロイスの規格外ぶりが森の動物たちの間にまで広まっているとは…

「助けてあげたの?」

「うん、まぁ見殺しにはできないし。本来なら手出ししちゃダメなんだろうけどこれ以上ヴェルフィアウルフの頭数が減ると森の秩序も乱れるしね。それにどうもきな臭いからさ。」

お礼に貰ったんだ~と見せてくれたのはヴェルフィアウルフの子供だけが持つツノだった。空色にも紫にも緑色にも見える透き通ったそのツノは死者をも蘇らせるのではと謳われる万能薬の必須素材。
ただ、ヴェルフィアウルフは成長しながら体内にこのツノを取り込んで強くなる。ツノが完全に無くなった状態が大人の証なのだ。そのツノが成長過程でなくなってしまえば弱って死んでしまうという。

素直に喜ばない私にアロイスは慌てて事情を話してくれた。

「生きてる子からとってきたわけじゃないよ?女帝が持ってたやつだから。たぶん前に何かの理由で死んだ子供のツノを持ってたんだろうね。」

「そんな大事そうなものを?」

「最初はいらないって言ったんだけどさ~恩を受けただけにはしておけないんだって。」

「そうだったんだ~って待って?何で普通に話が通じてるの?」

「へ?念話だけど?」

普通動物には通じないんじゃ…いや、この人は普通の人じゃない。のんちゃんなんだった。
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