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第一章 リトア王国
心の準備時間が足りません
しおりを挟むディルがよろめきながらもなんとか立ち上がることができた頃、扉をノックする音がした。
お父様が返事をするとゆっくりと扉が開き見たことのないお仕着せをきた女性が二人深々と頭を下げていた。
「お迎えにあがりました。新緑の間で陛下がお待ちです。」
魔法のことはひとまず置いておいて急に緊張してきた。
だって心の準備時間少なすぎるんだもん。
スカートにシワがないか髪が乱れてないか心配であたふたする私とまだ本調子じゃないディルが後ろにお父様とアロイスが前に立って歩き始める。
廊下に出ると日の光がさんさんと照らしている。絨毯も明るいベージュ色で大きなガラス窓の向こうには庭園が見える。
当然かもしれないけどリトア王国の王城とは全然違う。あちらは厳かな感じで壁は濃茶色に赤い絨毯。日の光はあまり入らないような少し暗い雰囲気だった。
こっそりあちこちに目を向けながら歩くとすぐに新緑の間にたどり着いた。
二人の女性はノックをしてから再びこちらに頭を下げながら大きく左右に扉を開いた。
室内からは更に明るい光が差し込んできて、森の中に入ったような草木の香りと涼しい風が吹いてくる。
お父様もアロイス様もまったく動じずに部屋へ入り私とディルはこっそり目を合わせてから恐る恐る部屋の中へ足を踏み入れた。
扉をくぐっただけ。ただそれだけのはずなのに空気は清々しく辺りはみずみずしい若葉をつけた木で溢れていて急に森の中に迷い込んだような錯覚におちいってしまう。
ディルはこの新鮮な空気をたっぷりと吸って更に体調が戻ってきたらしく先ほどより生き生きして見える。
ぐんぐん進んでいくお父様の背中を追っていると急にその足が止まり、開けた場所にたどり着いた。
木漏れ日に彩られたその空間に木でできた立派な椅子が置かれ、4人の人物が座っている。
そしてその4人の前に立ちこちらに笑顔を向けていたのはエシャルロット公爵様だった。
「やっほ~みんな無事みたいだね。ディルはちょっと酔った?」
ヒラヒラ手を振ってくる公爵様を完全に無視してお父様は陛下たちの前に片膝をついて頭を下げた。
アロイスも自然と同じように振る舞っているので迷った私も公爵様に軽く会釈をしてからひざまずいて頭を下げる。
「久しいなスリジェ辺境伯。こたびの騒動では我が国の者が迷惑をかけた。謝罪する。」
「陛下直々の謝罪など恐れ多いことです。
我が家の者たちにとってはよい訓練となりました。」
頭を下げたまま答えるお父様に陛下は笑いながら皆、頭を上げるように。とおっしゃった。
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