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第一章 リトア王国
相性はバッチリです
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地獄のフルコースを終えてお父様と共に訪れたのは屋敷の一室。他の部屋、廊下、階段まで残らずふかふかの絨毯が敷かれている中この部屋だけは透き通った石が敷き詰められていてひんやりしている。
「この魔石はイシェラ王国の魔窟から採取されたものだ。
イシェラ王国に魔力を持つものが多いのはあの国の土地に魔力が満ちているからだと言われている。
この石が敷き詰められた部屋がイシェラ王国の王宮の別棟の一つにもあり行き来ができるようになっていて以前はもっぱらファラスが使っていた。
今度はその息子が使うことになるとはな…」
お父様はジッとアロイスに目を向ける。
アロイスとディルもフルコースとはいかないまでもだいぶしっかりと身なりを整えられていて少し疲れた顔をしていたのに視線に気づいた途端ピシッと背筋が伸びたのがおかしい。
クスクス笑う私をチラッと見てからアロイスは一人部屋の中央へ進み出た。
いよいよ始まるらしい。私はワクワクしながらアロイスの背中を見つめる。
長い呪文を唱えるとか?風が強く吹き始めるとか?部屋がぐるぐる回るとかかな?
でも一向に何も起こらずいつ始まるのかと思い始めた時にアロイスがこちらを振り返った。と、その瞬間ディルが床に崩れ落ちるようにへたり込み、お父様も額に手を当てて数歩前によろめいてしまった。
「え?わ、どうしたのディル大丈夫?」
慌てて駆け寄るけれどディルは顔色が悪く返事をする余裕もないらしい。
「何ともないかマリーベル?」
身体を起こしたお父様に聞かれて私はキョトンとした。
「え?何がですか?」
聞き返すとお父様が目を見開いて驚いている。
「移動の間、変な感じがしたり気分が悪くなったりしてない?」
アロイスが近づきながら聞いてくる。
「え?もう移動したの?何にも感じなかった。嘘でしょ?呪文を唱えたりしないの?」
アロイスに顔を覗き込まれながら訴える。
「本来は然るべき魔道具を持ち呪文を詠唱しなければ発動できないはずだ。」
お父様の言葉にアロイスは肩をすくめた。
「呪文を詠唱するのは時間がかかるし無防備になるから効率悪いと思うんですよね。あ、でも魔道具ならここにありますよ。」
アロイスが誇らしげにお父様に見せたのは首元に結ばれた蝶結びのリボンの真ん中に通された飾りピンだ。
お父様は再び額に手を当てて理解し難いというように首を振りディルの前にしゃがみ具合を見てあげている。
「それにしても、すごいよマリーベル。何も感じないってことは俺ら相当相性がいいんだ。」
「魔力のな。」
興奮気味のアロイスにすかさずお父様の一言が挟まる。
あまり理解できていない私にアロイスは説明してくれた。
「人の魔力で移動するこの方法は部屋が激しく揺れたり回ったりしてると感じることが多くて気分が悪くなるんだ。
特に魔力を持つもの同士は互いの力が反発しやすい。でも自分の魔力と相手の魔力の波が少しでも合うと感じ方は弱くなる。
何も感じなかったということは俺たちは波がピッタリ合うってこと。」
「マリーベルの力が強いからこそ耐えられているというのも考えられる。」
「もちろん、それもあると思います。」
私を置いてきぼりにして楽しそうなアロイスと不機嫌そうなお父様は盛り上がっている。
なんだかよく分からないけど車酔いみたいなもの?
とにかくもうイシェラ王国に到着したらしい。
もっと魔法だ~って感じの魔法を体験したかったのに。規格外のんちゃんがちょっと恨めしい。
「この魔石はイシェラ王国の魔窟から採取されたものだ。
イシェラ王国に魔力を持つものが多いのはあの国の土地に魔力が満ちているからだと言われている。
この石が敷き詰められた部屋がイシェラ王国の王宮の別棟の一つにもあり行き来ができるようになっていて以前はもっぱらファラスが使っていた。
今度はその息子が使うことになるとはな…」
お父様はジッとアロイスに目を向ける。
アロイスとディルもフルコースとはいかないまでもだいぶしっかりと身なりを整えられていて少し疲れた顔をしていたのに視線に気づいた途端ピシッと背筋が伸びたのがおかしい。
クスクス笑う私をチラッと見てからアロイスは一人部屋の中央へ進み出た。
いよいよ始まるらしい。私はワクワクしながらアロイスの背中を見つめる。
長い呪文を唱えるとか?風が強く吹き始めるとか?部屋がぐるぐる回るとかかな?
でも一向に何も起こらずいつ始まるのかと思い始めた時にアロイスがこちらを振り返った。と、その瞬間ディルが床に崩れ落ちるようにへたり込み、お父様も額に手を当てて数歩前によろめいてしまった。
「え?わ、どうしたのディル大丈夫?」
慌てて駆け寄るけれどディルは顔色が悪く返事をする余裕もないらしい。
「何ともないかマリーベル?」
身体を起こしたお父様に聞かれて私はキョトンとした。
「え?何がですか?」
聞き返すとお父様が目を見開いて驚いている。
「移動の間、変な感じがしたり気分が悪くなったりしてない?」
アロイスが近づきながら聞いてくる。
「え?もう移動したの?何にも感じなかった。嘘でしょ?呪文を唱えたりしないの?」
アロイスに顔を覗き込まれながら訴える。
「本来は然るべき魔道具を持ち呪文を詠唱しなければ発動できないはずだ。」
お父様の言葉にアロイスは肩をすくめた。
「呪文を詠唱するのは時間がかかるし無防備になるから効率悪いと思うんですよね。あ、でも魔道具ならここにありますよ。」
アロイスが誇らしげにお父様に見せたのは首元に結ばれた蝶結びのリボンの真ん中に通された飾りピンだ。
お父様は再び額に手を当てて理解し難いというように首を振りディルの前にしゃがみ具合を見てあげている。
「それにしても、すごいよマリーベル。何も感じないってことは俺ら相当相性がいいんだ。」
「魔力のな。」
興奮気味のアロイスにすかさずお父様の一言が挟まる。
あまり理解できていない私にアロイスは説明してくれた。
「人の魔力で移動するこの方法は部屋が激しく揺れたり回ったりしてると感じることが多くて気分が悪くなるんだ。
特に魔力を持つもの同士は互いの力が反発しやすい。でも自分の魔力と相手の魔力の波が少しでも合うと感じ方は弱くなる。
何も感じなかったということは俺たちは波がピッタリ合うってこと。」
「マリーベルの力が強いからこそ耐えられているというのも考えられる。」
「もちろん、それもあると思います。」
私を置いてきぼりにして楽しそうなアロイスと不機嫌そうなお父様は盛り上がっている。
なんだかよく分からないけど車酔いみたいなもの?
とにかくもうイシェラ王国に到着したらしい。
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