上 下
48 / 247
第一章 リトア王国

ちょっと座っていいですか?

しおりを挟む

伯父様の言動に固まってしまった私をお父様はそっと下ろし背後に控えていたダミアンさんが私の肩に優しく手を置いてくれた。

「私は君をどちらかと言うと自信家なタイプだと思っていたんだがな。
自分自身の積む功績でランギャー家の名を保つことは充分可能だったろう?」

お父様の問いかけにフンっと伯父様は鼻を鳴らして小声でブツブツ呟き始めた。

「嫌味な奴だまったくこちらが下手に出てやっているというのに何が自信家なタイプだ。
私は努力している、自身があって当然だろう。血の滲むような努力をし続けてきたんだ。相応の評価を受けるのが当然なのだ。評価、そう評価だ。努力して努力して身につけた全てがたった一言で崩される。魔力を持たなかったのは残念なことだと。これほど優秀ならば魔力をお持ちだったならばどんなに素晴らしい当主になられたでしょうと。
父もそうだ、どんなに優秀な成績を収めても仕事で褒賞を受けても決して満足しない。喜びもしない。ただ黙って見つめ返してくる。お前はその程度で満足かと言わんばかりに。」

申し訳ないけど、いや、ひどいな~そんな目に遭ってきたんだって思うけど…

ひたすらブツブツ言ってる姿怖すぎますよ?

後ずさる私と違いお父様は黙って異様なその姿を見下ろしながら呟きに耳を傾けている。

「ディルが生まれた時だってそうだ。生まれてすぐに魔力を持っていると判断されたのにあの人は…あの人は…」

伯父様はガバッと顔を上げると血走ったうつろな目をこちらに向ける。

「足らんっと言ったんだ。ただ一言。足らんっと。

そして、そして、そう。彼女が教えてくれたんだ。あの人の企みを。リド教の企みを。」

「彼女とはベルと共にスリジェ家へ来た侍女か?」

静かに問いかけたお父様の方を向いて伯父様は首を振る。

「違う違う、あの時はまだベルの侍女ではなかった。マーガレットの侍女にと父上が雇ったのだから。彼女は魔力を持っていて特に鑑定の力に優れていた。
だからディルの魔力もすぐに分かったんだ。足らんという言葉の意味を教えてくれたのさ。父上は、あの人は、より強い力を求めていた。
リド教のものと一緒により強い魔力を持つ子を生み出そうと試みていたんだ。
兄や私やベルに魔力がないのは当然だ。全部吸い取られたんだから、この子に。」

真っ直ぐにさされた指が私に向けられ、いよいよ気分が悪くなって座り込みたい気持ちになった。

「リド教は賢者イリスを崇める新興宗教だったな。何故そんな者が伯爵と?」

「知らないな。大事なのは父上がなによりもこだわり続け、生まれさせようとしていた子が今目の前にいるということだ。
あの人が叶えられなかった野望を私が叶える。
そうすれば、きっとあの人は後悔するだろう。
私を無視し続けたことを。」

今度はケラケラと笑い始めた伯父様を見ていられなくて私は離れた場所で待っているアロイス様たちの方へヨロヨロと近づいた。
今すぐ椅子に座りたい。
そんな気持ちをくみとったようにアロイス様が何やら魔法を使っている。

ようやくたどり着いた私をアロイス様は軽々と抱き上げフワフワしたものに座らせてくれた。

伯父様に当てられた毒気がドッと身体から抜け落ちるような素晴らしい座り心地の椅子だ。
嬉しくなって見下ろすと、椅子じゃなかった。
真っ赤なかさに白い水玉模様がファンシーな巨大キノコだった。

キノコに座る私をお祖母様がギョッとしたように眺めている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

悪役令嬢、隠しキャラとこっそり婚約する

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢が隠しキャラに愛されるだけ。 ドゥニーズは違和感を感じていた。やがてその違和感から前世の記憶を取り戻す。思い出してからはフリーダムに生きるようになったドゥニーズ。彼女はその後、ある男の子と婚約をして…。 小説家になろう様でも投稿しています。

婚約破棄ですか。ゲームみたいに上手くはいきませんよ?

ゆるり
恋愛
公爵令嬢スカーレットは婚約者を紹介された時に前世を思い出した。そして、この世界が前世での乙女ゲームの世界に似ていることに気付く。シナリオなんて気にせず生きていくことを決めたが、学園にヒロイン気取りの少女が入学してきたことで、スカーレットの運命が変わっていく。全6話予定

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

【完結】公爵令嬢はただ静かにお茶が飲みたい

珊瑚
恋愛
穏やかな午後の中庭。 美味しいお茶とお菓子を堪能しながら他の令嬢や夫人たちと談笑していたシルヴィア。 そこに乱入してきたのはーー

侯爵令嬢の置き土産

ひろたひかる
恋愛
侯爵令嬢マリエは婚約者であるドナルドから婚約を解消すると告げられた。マリエは動揺しつつも了承し、「私は忘れません」と言い置いて去っていった。***婚約破棄ネタですが、悪役令嬢とか転生、乙女ゲーとかの要素は皆無です。***今のところ本編を一話、別視点で一話の二話の投稿を予定しています。さくっと終わります。 「小説家になろう」でも同一の内容で投稿しております。

ここは乙女ゲームの世界でわたくしは悪役令嬢。卒業式で断罪される予定だけど……何故わたくしがヒロインを待たなきゃいけないの?

ラララキヲ
恋愛
 乙女ゲームを始めたヒロイン。その悪役令嬢の立場のわたくし。  学園に入学してからの3年間、ヒロインとわたくしの婚約者の第一王子は愛を育んで卒業式の日にわたくしを断罪する。  でも、ねぇ……?  何故それをわたくしが待たなきゃいけないの? ※細かい描写は一切無いけど一応『R15』指定に。 ◇テンプレ乙女ゲームモノ。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。

処理中です...